・75・言葉足らず
疑問符を浮かべるミーの横で、キムがガサゴソとビニール袋からいろいろと取り出して、ローテーブルに並べていく。
それを見てみると、野菜と卵、小袋に入った米などだ。
何してるんだろう、と混乱したまま眺めていれば、振り向いたキムが、
「……ミー、お腹空いた?」
と尋ねてくる。
ぱちぱちと瞬きして、質問の答えを考える。
と、言葉になるより先にお腹が音を立てて返事をしたため、キムがクスリと笑った。
「……キッチン、借りるね」
一言言ってキムはローテーブルに並べた食材をミニキッチンの方へ運んでいった。
どうやら料理を始めるつもりらしい、と考えて、いやいやいや、違うでしょ、と誰ともなくツッコミを入れる。
な、なんで料理しようとしてるの!?と聞けば、顔だけ振り向いて、
「……だって、ミーお腹空いてるでしょ?」
当然のように答えるキム。
それに恥ずかしさから少し硬直したミーに気づかず、キムは顔を戻してしまう。
確かにミーはバイトから帰ってきて夕食も食べておらず、盛大に腹の虫が鳴く程お腹が空いている。
もしかすれば、泣いた事も影響しているかもしれない。
あれは以外と体力を消耗するからだ。
しかし、なぜミーは今まで眠っており、キムは食材を一体どこから持ってきて、なぜミーの家で料理を作ろうとしているのか。
不可解すぎて困惑する。
そしてミーが心底実感するのは、キムは圧倒的に言葉が足りない、という事だった。
あともうちょっとでいいから、状況説明がほしい。
きっと敏いキムの事だから、ミーが混乱している事は気がついているはずなのだ。
お願いだから、せめて自分が寝ていた理由だけでも、目覚めた時に言ってほしい、とミーは切実に思った。
思わず深いため息が出る。
泣いたせいか、心中にあったごちゃごちゃした感情がスッキリとしている…気がする。
キムは隠し事をしている。
ミーはそれをはっきりと確信している。
しかし、それに加えて言葉が足りない。
だからこそミーはもやもやとしてしまったのだろう。
ミーの中に、諦めのような悟りのような感情が浮かぶ。
キムが話さないのは、ミーが知る必要がないか、知らない方がいいから。
もし知っているべき事なら、ミーが疑問に思う前に、キムは聞かれずとも答えるのだ。
キムのする行動は、ミーのためになる。
それを信じているのだから、そのもやもやくらいは我慢するべきなのかもしれない。
そう無理矢理自分を納得させ……ようとして、失敗する。
すぐに納得はできそうにない。
一旦この問題は保留にして、もう一度ため息を吐き、ミーはベッドから抜け出した。