・73・亀裂
手渡したマグカップをぐっとあおり、一度にココアを飲み干したキム。
ホッとした表情で礼を言ったキムは、マグカップをシンクの中に置いた。
ミーは自分のクッションに座って、膝を抱える。
なんとなくぶすっとした気持ちを持て余していた。
キムが対面に座る。
以前はどちらともなくポツポツと話をしていたが、二人とも口を開かない。
ミーは目の前のローテーブルの表面を意味もなく見つめつつも、じっとこちらを見るキムの視線を感じた。
ーー静寂。
数分か、もしかすれば数十分かして、言葉を発したのはキムだった。
「……何を、怒ってるの」
その言葉が耳に入った瞬間、心の中の塊が爆発して、ミーは思わず叫びそうになった。
それをキムが言うのっ?と。
ごちゃごちゃした怒りや苛立ちややるせなさが一気に引きずり出されて、一瞬胸が詰まる。
ぐっと口を閉じて堪え、ミーはキムの顔を見た。
笑みのない、探る目をしたキムの表情。
瞳は紫に発光し、冷やかな印象ながら、美しさが増している。
混沌とした精神状態でも、何度見ても綺麗、と場違いな感想が浮かんだ。
キムも怒っているのか、いや、そうではない、とミーは判断する。
これは緊張…だろうか。
普段ミーの感情を明確に察するキムが、今のミーを読み取れていないのだろう。
ミーはぐぐぐ、と手を強く握り込んだ。
今すぐに口を開けば、勢いのままキムを責め立ててしまいそうだった。
何度か深呼吸して、自分を落ち着かせる。
そして問いに答えようとして出た言葉は、
私ってそんなに頼りない……?
だった。
「……なんで?」
キムはわずかに首を傾ける。
なんでって……、とミーは一度言葉に詰まり、キムは何も言わないから……となんとか返した。
キムは表情を変えずにしばし黙り、
「……不安にさせたなら、ごめんね。……でも、ミーを守る…ためだから」
言って、目を伏せた。
ミーはもどかしさに顔が強張る。
違う、聞きたいのはそんな事じゃない、違う、違う、と心中で首を横に振る。
そんな、諦めた表情をさせたい訳ではないのだ。
ミーは自分の抱く感情を表す言葉が分からず、ますます握る手に力を入れた。
2016/3/19
誤字:自然→視線に修正。