・7・テールの上手な使い方
不意に手を引かれて、ミーは青年に目を戻す。
青年は無言のまま、ミーの手を引いて歩き出した。
すぐ隣のガラスの小部屋前に来ると、ミーは気づかなかったガラスの扉に近づく。
すると青年の腰から白い触手――テールが生え、先端が扉にぺたりと密着した。
ギン!と音がし、白いテールは扉の形をなぞるように動き出す。
やがてテールは動きを止め、ガラスが四角く切り取れた。
吸着したままのテールが前に動き、切り取ったガラスをそっと床に置いてするすると青年の服の中に消える。
あれがテールの上手な使い方なんだ、とミーは深く感心していた。
手を引かれるまま、青年と小部屋に入る。
そこに繋がれていたのは、女性だった。
黒い真っ直ぐな髪が三つ編みにされ、腰まである。
そこそこに豊満な体型で、簡素な服がとてもセクシーに見える。
ミーの手をはなし、一人で女性に近づいた青年はまたテールを出す。
しかし、なんとテールは二本現れた。
おそらく、背骨を中心に右側と左側から生えている。
思わず二本?と呟くと、青年は横目にミーを見て、
「……君にも……あるよ?」
と言った。
え!?と体をひねり、服を捲り上げるが、そこはただの背中だ。
さっき背中の右側からテールを出していたが、練習も兼ねて左右のテールを出してみる。
すると、背骨を挟んで左右の膜?が上がり、ぽっかりと穴が現れる。
そして、するするとテールが出てこようとしたが、別に出さなくてもいいや、とミーはまたテールをしまった。
顔を上げると、青年がテールで女性の手首を包んで支えつつ、そっと女性が自立するのを手伝っている。
いつのまに手足の枷を外していたようだ。
テールをしまい、ミーの隣に戻った青年とミーの前で、女性は耳栓を外し、目隠しを剥ぐようにとった。
現れたのは、彫の深い肉感的な美貌で、意思の強そうなつり目は、真紅に光っている。
六角形の虹彩自体は黒いのだが、暗闇の中の強い紅は、まるで吸血鬼の魔眼のように感じさせた。