・67・キムとリリ
儚げに笑むキムはミーを見つめて、頭をそっと撫でる。
「……お疲れ様。……今日は、何もなかった…?」
優しい手つきにはにかみながら、うんと一つ頷く。
……良かった、と息を吐いたキムは、すっと視線をミーの横にずらした。
ミーは一気に緊張して、身体が強張る。
横目に見れば、リリは潤んだ眼差しでキムを見上げている。
恋する乙女そのものだった。
キムはわずかに首を傾げ、
「……君、は?」
とリリに尋ねた。
リリはそれにビクッとして、ミーの腕を掴む力が強くなる。
「ア、アタシは、その、えっと、ミーちゃんに、あの」
と、要領の得ないリリの言葉に冷静になったミーが、キムと友達になりたいんだって、と言ってあげる。
少し、いや結構シャイなリリの事だから、いきなり好きみたいとか、付き合ってほしい、とは言わないだろうと考えての言葉だった。
キムは一瞬ミーを見て、またリリに視線を戻すと、目を細める。
「……オレ、と友達…?……彼氏じゃ…なくて、いいの?」
ミーの気遣いも虚しく、キムが率直な質問を投げかけた。
すると、案の定、リリはもう林檎もかくやという程赤くなり、ぷしゅーという音が幻聴で聞こえそうな様子で俯いた。
あちゃー、やっぱりショートした、とミーはなんとも言えない気持ちでリリを見つめる。
と同時に、むっとキムを見上げ、せっかく私が気遣って遠回しな言い方をしたのに!という気持ちを込めてちょっと睨んだ。
キムはミーを見下ろすと、わずかに笑みを深める。
それがほんのりと冷たくて、ミーはあれ?と思う。
キム、怒って、る……?と。
なんだか冷や汗が出そうな、ピリピリとした空気をまとったキムに、ミーは戸惑って目を泳がす。
しばし頭頂に刺すような視線を感じていたが、
「……ミー、バイト遅れる。その子は、また後で、ね」
言ってミーの手を引いたキムに引っ張られ、慌てて前を向いた。
するりと腕がとかれ、リリを振り向けば、涙目で縋るようにミーを見つめている。
ま、また明日ね!と叫んだミーに、リリは黙ったままこっくりと頷いた。
ずんずんと大股に歩くキムに合わせて小走りしながら、ミーはこっそりとキムの表情を窺う。
――真顔だった。
ひっと息を呑んでしまった程、綺麗で、怖かった。