・64・リリ
翌日。
「ーーあ!あの!!」
昼休みになって、友人達と講義室を出た時だった。
振り向くと、廊下に一人の生徒が立っている。
アッシュブラウンのふわっとした髪に、猫のようなぱっちりとした緑の瞳。
茶色のジャケットに白いカットソー、紺のジーンズと服装は変わっているが、昨日ミーがぶつかった女の子だ。
あ、昨日の!とつい指さして言えば、
「そうです!昨日ぶつかったアタシです!……ってそうじゃなくて!」
びしっと手を上げた彼女は、間違えたように首を振り、
「あの!アタシ、リリっていうの!えっと、名前教えてほしいなって」
手を何度も組換えながら、上目遣いにそう言った。
え、なに、どういう事?とこぼした友人の一人に、昨日の出来事を話しながら、リリという女の子に近づいていく。
リリはミーよりわずかに背が高いのに、どこか可愛らしい仕草のせいか、幼く見える。
ミーもおずおずと名前を伝えると、なぜか握手された。
リリは、元気に発言する割りにシャイなのか、もじもじしながら昼食を一緒に食べたいと言ってきた。
なんでそうなったんだろう、と思わずミーは首を捻ったが、断る理由も特にないため、友人達と分かれ、リリと歩き出す。
ランチの場所に選んだのは、校内に幾つかある休憩場の一つで、何組かのテーブルとイスが置いてある。
そこに腰を落ち着け、二人は昼食を食べ始めた。
「ーーあの、その……迷惑だった?」
しばらく黙々と食べていれば、唐突にリリが口を開く。
怖々と窺うその様子に、そんなに怖がらなくてもいいのに、と思いつつ、そんな事ないよ、と答える。
するとぱっと笑顔になって、よかった!とリリは笑った。
「ミーちゃんの事、前から気になってたんだー。通学時間にいつもイケメンに送り迎えされてるあの子は誰だ!?って」
にこにこと話し出した言葉口に、ミーは思わずがっくりしてしまう。
やっぱりキムってイケメンなんだよなぁ、目立つんだよなぁ、と。
加えて今は下校まで送迎されている事を考えれば、それなりに名前が広まっていてもおかしくない、という事に思い当たり、遠い目をしてしまうミーだった。