・61・悩み
頭に温かいものが乗っかって、上を向く。
と、いつの間に隣に来ていたのか、キムがミーの頭を撫でていた。
たたえる微笑は優しく、どこか翳っているのは変わらないが、苦しげな様子はもうない。
それに良かった、と安心するも、今度は自分の方が沈んでいる。
それを慰めようとしてくれているのだろうか。
キムのその行為は、いつも柔らかい温度を伴う。
ミーの気持ちを温めてくれる。
しばし言葉もなく、二人は見つめ合った。
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それからしばらくして、キムは帰って行った。
あの後キムは、これからも送り迎えをする事、もっと警戒する事、外では絶対にヘキサの能力を使わない事などをミーに言い含めた。
ついでに送り迎えは回数が少し増え、ミーの悩みも一つ増えた。
それは、自分はもしかしたらヘキサアイズではないのかも?という悩み。
他五人に共通する本能も、嗅覚も、特殊能力もなく、そもそもどうやって感染したのかという根本的な問題が分かっていない事を思い出したからだ。
キムが灰原ウォーから聞いた話では、ヘキサアイズは二種類いて、ミー達のように他のヘキサアイズの血液で感染する者と、ヘキサアイズの親から生まれた純血のヘキサアイズがいる。
感染型のヘキサアイズは、血液を体内に摂取、あるいは傷口からの侵入によって感染する。
キム達五人は注射を受けた。
ミーも注射される寸前だった。
しかし、あくまで寸前で、実際に注射されたわけではない。
それなのに、次に目覚めた時、ミーはテールが使えるようになっていた。
瞳も変形していたし、発光していた。
加えて、目隠し状態だったキムに、匂いでヘキサだと判断されている。
ミーは灰原ウォーに接触された日から、ずっと考え続けていた。
あの地下施設で初めに目覚めた時の状況を何度も思い浮かべる。
自分は台の上に仰向けにされていた。
首、手首、腰、足首がベルトみたいな物で固定されている。
頭上には、白衣の医者のように見えた誘拐犯の男。
その手に用意された赤い液体の入った注射器。
男はそれを脇に置き、ミーの右腕に何かしようとしていた。
よく予防接触の時のように、肘裏の静脈を消毒しようとでもしていたのか?
ミーはあの時突然の現状に冷静ではなく、そんな事考えてもいなかったし、見てもいなかった。
ただ驚いて手足を無駄にバタつかせ、え?え?となっていたのだ。
状況的に仕方ないとはいえ、そんな自分にがっかりする。
その続きは、突然腕に痛みがはしり、身体がカッと熱くなったのだが……。
そこでん?とミーは引っかかる。
何か忘れている気がする。
なんだろう?なんかあるんだけど、と必死に記憶をかき混ぜるが、出てこない。
思考はいつもそこでストップしてしまい、ため息をつくのがここ最近の癖になってしまった。