・60・ごまかし
おいしそう?と首を傾げるミー。
唐突なキムの発言の中でも、断トツに分からない。
じとりと視線に恨みがましさを含めて、ミーを横目にし、キムは話した。
曰く、ヘキサと人間の匂いを持つのは不自然。
しばらくすればミーが人間だと認識されるのが自然の流れ。
そうすると、ヘキサのキムと行動しているのは、関係があると思われる。
あの誘拐事件の事を『人間』に知られているのはまずいだろうから、ミーが受けるかもしれない危険の度合いがますます上がってとても警戒した、と。
そこまで大人しく聞いていたミーは、あれ、これ誤魔化された?と思う。
明らかにさっきの発言の説明ではない。
その内容は前の話の続きで、確かにそれを聞けば、キムがミーの行動範囲に一緒にいたがったのも分かったし、ウォーが接触してきた時に、一目散に来た理由も分かった。
ミーが一人で対峙するには、不安と問題と危険がありすぎたのだろう。
しかし、先程の泣きそうなのか、という問いの答えは?
それが『おいしそう』なのか、それともそっちは別の何かだったのか。
キムってこういう所ある、とミーはちょっとむっとしたが、結局蒸し返すのはやめた。
隠す、あるいは誤魔化すのは、触れられたくないからだろう。
それを無理に聞き出すのはミーだってしたくはない。
ーーともかく、灰原ウォーに、人間だと言われた理由は理解した。
正直な所、ミーには実感はないが、かなり危ない状況なのかもしれない。
キムがいてくれて本当に良かった、と心底思った。
ふとそこで、ウォーがミーに何か聞きたがっていた事を思い出す。
それは、匂いから『人間』だと思われたミーが事件の内容についてどこまで知っているのか、という物だったが、それはどうなったのだろうか。
キムに尋ねると、これまた驚きの答えが返って来る。
「……ミーは人間で、何も知らない……って言った」
えー!!と思わず叫んでしまうミー。
な、なんで!?だって、私、へ、ヘキサだよ!?と身を乗り出したミーに、キムは落ち着いて首肯し、
「……でも、においは完全に…人間だから。……その方が、ミーも安全だと思う、よ?」
首を傾げてきっぱり言われてしまい、そう、かなぁ…と落ち込む。
確かに、それで判断されるのなら、人間と言った方がいいのだろうか。
どこか納得がいかず、むーんと考え込んだ。