・6・テール
びっくりして足を見れば、青年の手がしっかりとミーの足首をつかんでいる。
青年は目を閉ざしたままで、ミーはひどく困惑した。
「……まっ…て……」
かすかに口が動き、青年が言う。
どうやら意識が戻ったのか、ミーはしゃがみこんで、青年にここにいると伝える。
震えながら、青年のまぶたが開く。
すると、暗闇の中、淡く紫に光る六角形の瞳が現れた。
ミーはその美しさに、ただ痺れて見つめる。
青年の虹彩は六角形で、色自体は薄い茶色なのだが、蛍のように紫色に光っているのだ。
わずかに揺らいだその瞳は、ミーとかちあい、かすかに笑む。
それもまた儚く美しく、ミーの胸を打った。
「……よ…かっ、た…。あり、が……と」
ミーはうん、と頷く。
すると、青年は言葉からは伺えない俊敏さでいきなり上体を起こした。
そして驚くミーの前で、腕の管を引き抜き、少し背中を向けて服の中に手を入れ、次々と管を外していく。
それらからは、何か液体がこぼれ出ている。
青年は立ち上がって伸びをしたり、屈伸したりして体の調子を確かめた後、ミーに視線を落とした。
にっこりと儚げな笑みを浮かべる。
ミーは呆然として、口を開けていた。
「……キレイ…だね。……君…は、青…なんだ」
その言葉に、ミーは首を傾げる。
青年が手を差し出しミーを立ち上がらせると、やはり彼は背が高くミーとは頭一つ違った。
彼はミーを上から下まで眺めると、
「……テール、しまわ…ないの?」
不思議そうに首を傾けた。
ミーはそれは何かと聞く。
青年はミーの触手をちょんとつまむ。
「……これ」
ミーはあまりにも馴染み、存在を忘れていた触手を見た。
これはテールと言うらしい。
しかし、しまわないのかと言われても、そもそもミーはこれを自分の意思で生やしたわけではないため、しまい方など分からない。
これってしまえるの!?と驚けば、
「……目を、閉じるの……と一緒、だよ」
青年の言葉に、なるほど、と頷く。
動かすのも手足と同じなら、目を閉じるのと同じように体内に入るのだろう。
ミーは念のため服をめくってテールの根元を見ながら、テールがスルスルと入っていく想像をした。
イメージ元は掃除機の電源コードをしまう感じだ。
すると、テールは段々と短くなり、先っぽまで腰の穴に入ると、それこそまぶたのように、穴の上部から皮膚が下り、穴を覆った。
見かけは完全に平らな背中になり、ミーは目を見張る。
テールが入っていく時、入るというよりも、穴の中に溶けていくように見えた。
形状や硬度が変わる事も考えると、テールは液体か流動体なのかもしれない、とミーはなんとなく推察した。