・59・ココアの笑顔
キムがそばにいればその残り香が付くらしく、なるべく二つの匂いが混じった状態になるようにしようとした。
六人はこの県にどれだけのヘキサがいるか分からない。
隣県からミーの家まで、かなりの人数に目撃されている。
実際灰原ウォーは数日でミー達の元に派遣されてきた訳で、あの日も目撃者の中に当然ヘキサアイズがいただろう。
その時、ヘキサと人間両方の匂いをまとうミーはどのように映ったのか。
どれだけ周囲に人間がいようともヘキサはお互いが分かるのに、どちらともつかないミーは、かなり異様に思えたのではないだろうか。
しかも、放っておけば、人間と見分けがつかなくなる。
「……今も、ミーは完全に……甘い、よ」
握ったミーの片手を持ち上げ、鼻を近づけるキム。
その声音がなんだかしっとりしていて、ミーは手汗が出そうな焦りを感じ始めていた。
単純に匂いを嗅がれる事も恥ずかしいが、この話をするキムの様子が少しおかしい。
優しい標準装備の微笑は乾いてるし、穏やかな声もその裏の重さを隠しきれてない。
出会ってからたった数日。
しかし、初めて言葉を交わした時から、キムはミーを気遣い、守ってくれている。
分からない事を教えてくれて、いち早く危険への対策をして、ミーが知らなかった部分も含めてミーを守ってくれる人。
何が彼を悩ませているのだろう、とミーはミーなりに考えていた。
キムには、なんというか、いつものようにゆるゆると笑っていてほしいのだ。
あまり変わらない微笑の中でも、朝と夜、ココアを飲み干した後の笑顔が一番好きだ。
しかし、さっきも、そして今も、そのざらざらした微笑みでは、まるでキムが泣きそうに思えてならない。
キムが教えてくれる内容も、ミーにとっては無視できない重要な情報だったが、それと同じようにキムの抱える物を軽くしてあげたいとミーは思った。
ねえ、なんでそんな泣きそうなの?とミーは問う。
直球すぎるか、と自分でも思ったが、思いがそのまま口から出てしまった。
キムはピタリ、と一瞬硬直して、上目遣いにミーを見た。
ミーはドキドキしながらも、その視線を真正面から受け止める。
数秒見つめあって、先にキムが目を逸らした。
ミーの手を離し、口を片手で覆ってキムは大きくため息を吐く。
やっぱりまずい質問しちゃった!?と思いつつ、ミーが様子を見ていれば、
「……ミーは、おいしそうなの」
まるで駄々をこねるような口調で、キムは言った。