表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六角瞳  作者: 有寄之蟻
帰宅編
58/114

・58・ハチミツ

いつもの微笑みもなくし、一心にミーを見つめるキムは、どこか張り詰めた糸のように見えた。


目を見張って硬直したミーに、キムは右手を伸ばしてくる。


その指先がミーの頬を、目尻を、目元を、鼻筋を、唇を、そっと触れて離れていく。


「……甘いんだ。……無視、できないくらい」


一段低くなったトーンで、堪えきれないようにこぼす。


そんなキムが危うく思えて、離れていく右手をとっさに掴んだ。


その手を強く握られて、思わずビクッとしてしまう。


「……あいつも、気づいてた。……いくらオレが、そばにいても…ミーの甘さ、は隠せない」


瞑目し、キムは伝える意図のない独白をする。


理解できないながらも、キムが何かに耐えている事を感じとったミーは、じっと見守った。


やがてすっと目を開いたキムは、ふっと微笑む。


握られた手からも力が抜け、ミーの手をそっと両手で包む。


そしてキムが告げた内容を、ミーはすぐに理解する事ができなかった。







「……ミーはね、人間のにおいがするんだよ」







…………え?としばし停止した後、ただ一言もらす。


言葉の意味が読み取れなかった。


疑問符を飛ばすミーの反応に、キムは目を細める。


「……ヘキサは、ミントのにおい…がする。……人間なら、甘い……蜂蜜のにおい…」


ゆっくりと、言い聞かせるようにキムは語る。


ヘキサアイズと人間の匂いは明確に違う。


ミーは洋館から脱出するまで、確かにヘキサ特有の、ミントのような匂いだったらしい。


しかし、脱出直後、瞳を人間瞳に変化させた瞬間から、ミーの匂いが変わったというのだ。


鼻を通るような、ツンとした植物の香りから、甘く濃厚な蜜の香りへ。


それは嗅覚の特化したキムだから気づいたようで、その時は他の四人に気づいた様子はなかったという。


しかし、人間瞳状態で五感が人間並みになっても、同種の判別はできる。


ミーは元からのヘキサの匂いと混じって、明らかに人間の匂いをまとっていた。


キムが夜にミーの家に訪れた時には、すでに完全に人間の匂いのみが満ちていたらしい。


数日様子を見ていれば、ミーが六角瞳の時はヘキサの匂いになり、それ以外の時は全くの人間。


六角瞳の時のキムでさえ、ミーを匂いで判別する事はできない事が分かった。


キムの少し強引な送迎の提案は、実はここに繋がっていた。


ミー以外に他五人にそんな特異点はない。


現状考えられる事は、ミーが特殊なヘキサアイズであるか……もしかすると、実は人間なのではないか、という可能性。


帰宅路で、すでにヘキサアイズの接触の可能性に思い当たっていたキムは、加えてミーのそばにいなければ、と思ったのだそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ