・57・《協会》
ヘキサアイズが創った組織は複数あった。
地域も思想も異なる組織が幾つもある中で、創立当初から最も多くのヘキサアイズが所属し、利用するのが《協会》らしい。
《協会》は、簡単に言えば人間社会でうまく生きていく手助けをしてくれる組織で、主に、ヘキサだとばれそうになった時の、世間的なもみ消しなどをしてくれるという。
そう聞くとかなり怖い組織に感じられ、ミーは思わず口にしたが、キムはそう?と不思議そうに言葉を続ける。
ヘキサアイズは遺伝もするが、ミー達のように、ある日ヘキサアイズに感染する者もいるため、そのようなヘキサにヘキサアイズとしての基本、人間の擬態の仕方、気をつけるべき点を教えてくれるなど、確かに必要な事を提供してくれる組織だった。
《協会》に所属するには二通りあり、一つが一般登録。
これは先程上げた《協会》の支援を受ける立場の所属。
もう一つは《協会》の運営側に回る会員登録。
登録されているヘキサの管理や、新たに感染した者の調査などを行うヘキサで、つまり、灰原ウォーはこの会員だったのだ。
《協会》は県単位で支部を全国に持ち、ウォーはこの県の協会員だった。
その中でも、新たなヘキサアイズに《協会》の存在を知らせ登録を勧める、いわゆる勧誘担当。
ヘキサの人口をほぼ把握している《協会》は、見知らぬヘキサにすぐ気がつき、勧誘担当を派遣した、という訳だった。
ここまで聞くと、なるほど、と思える事もたくさんあった。
しかし、それにしては、ウォーの態度は勧誘と言うには悪かった。
ミーを見下げるように嗤った顔は、忘れる事はできない。
それに、ウォーが言い放ったあの言葉。
『人間の貴女が』
ミーの心を抉るように滑って思考能力を奪った、その言葉の意味は?
キムが何かを分かっていて、ミーに聞くべき事とは、一体何か?
ミーは視線をココアに落とし、ポツリと聞く。
なんであの人は私を『人間』って言ったの……?と。
キムの返答は、すぐには返ってこなかった。
かすかにため息が聞こえ、ミーは目線だけキムに向ける。
と、まっすぐにミーを見つめる紫の瞳とかち合った。
なぜか六角瞳に変化していたそれは、やっぱりやっぱり吸い込まれそうに美しい。
最近やっと照れずに見返せるようになったが、こう唐突に現れると、直視するのが難しい。
知らず熱くなった体が恥ずかしくて、ごまかすようにココアに口をつけた、その時。
「……ミーは、甘い」
囁くように呟いた、沈んだキムの声音がミーの動きを止めた。