・56・その正体は
いつものようにぐっとココアを飲み干したキムは、にっこりとお礼を言う。
ミーは何か言われる前に、そのマグカップにココアを注いだ。
クッションのついでに、キム用のマグカップも買っていた。
自分のマグカップも出し、ココアを注ぐ。
そしてじっとキムに視線を向けた。
言葉にせずともミーの意図は理解したのだろう。
キムは僅かに苦笑すると、口を開いた。
「……灰原ウォーは、ヘキサだった、よ」
やっぱり、とミーはすとんと納得する。
ミー達六人に接触してくる者は、おそらく同じヘキサアイズだという事は、キムが言わずとも確信していた。
むしろ、それ以外にピンポイントでミーに声をかけてくる理由が見当たらない。
ミーは一度頷いて、続きを催促する。
「……でも、オレ達を誘拐した、やつの仲間…ではなかった」
……え?と、その予想もしなかった言葉に、ミーはぽかんとしてしまう。
え、いや、でも、私の事もキムの事も知ってたよ?と動揺しつつ問えば、
「……あいつは、別の組織……のヘキサ」
そこで少し、キムはココアを飲んだ。
それからキムが教えてくれた事は、ミーの想像を上回った話だった。
まずそもそも、この世界には人間以外の人外が存在する。
その一種がヘキサアイズだが、その存在は一般的に認知されていない。
それはなぜか。
簡単な話、そんなモノがいると知られれば、世の中が大混乱に陥るからだ。
人と異なる能力を持ち、身体能力も上回り、特殊な嗜好を持つ存在。
その上、人間に擬態し、紛れ込む事もできる。
もし自分が人間のままでヘキサアイズを知ったとしたら、確かに怖いかもしれない、とミーは思った。
実際大昔にーつまりヘキサアイズは昔から存在したという事だがーヘキサアイズと人間の間に争いがあり、人間からの迫害も起きた。
原因は複数あったようだが、絶滅を恐れたヘキサアイズ達は、人間からその存在を隠す事にした。
そして人間社会で正体を隠して生きていくための組織を創った。
それは通称《協会》と呼ばれているらしい。
ここで話は始めの疑問に戻り、あの灰原ウォーという男は、その《協会》所属のヘキサだったというのだ。