・55・心配
「……お疲れ様」
バイトが終わり、連絡を入れるとキムはすぐに来た。
その表情はどこか翳っていて、ミーは溜まっていた心配が溢れそうになる。
気持ちを切り替えてバイトに勤しんだものの、当然のようにキムの事が気になっていた。
いつもは真面目なミーらしくなく、何度もスマホを確認するが、キムからの連絡はなくて。
やっと終業時間になり、真っ先に【終わったよ】と送ったのだ。
ここ数日の付き合いで、キムの微笑はほぼ癖のようなものだと理解している。
あの灰原ウォーの張り付いた笑顔とは全く異なるが、言ってしまえば無表情と一緒なのだ。
今だって相変わらずの微笑みを浮かべているが、ミーには悩みを持っている事が感じられる。
十中八九、バイト前の出来事関連に違いない。
あの男は一体誰で、何の目的があったのか。
気になって仕方なかったが、『……後で、ちゃんと話す…から』というキムの言葉を信じて、待っていた……のだが。
お疲れ様、と言われたミーよりキムの方が疲れているように見える。
ミーは、ありがとう、と言いながらキムに近づいた。
ん?と首を傾げるキムに構わず、その頬に手を伸ばす。
すでに午後10時を過ぎて、辺りは暗く、人間瞳のミーの目でははっきりとは分からないが、顔色が悪い気がした。
寒い外気にもかかわらず、キムの頬は温かい。
擦り寄るようにミーの手に顔を寄せたキムは、ホッとしたように笑みを深めた。
ミーはますます胸が重くなるのを感じたが、表情には出さず、じゃあ、家までお願いします!となるべく明るい声で言った。
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家に着いて、キムは一度ミーの部屋に上がっていく。
朝と同様に、お礼のココアを手早く用意してキムに渡した。
ミーは荷物を片付け、見かけだけのコートをハンガーにかけると、キムの正面に座った。
ミーの部屋は、中央にローテーブルとしたにラグを敷いてあり、玄関から左にベッド、その奥にタンス、右にミニキッチン、ユニットバス、小さい物置があり、正面奥にガラス戸とベランダ、ベランダに洗濯機、という配置をしている。
今まではラグに直接正座して、勉強・食事などはとっていたが、キムが来るようになってから、新たに大きめのクッションを二つ買った。
長身のキムは、正座するにもあぐらにしても窮屈そうに見えて、かなり申し訳なくなったからだった。