・53・一触即発
「……どこまで、っていうのは…?」
のんびりと、場違いに穏やかな声でキムが聞いた。
横目で見れば、いつもの微笑だが、どこか固い。
キムちょっと機嫌悪い…?とミーは思う。
「貴方方二人が経験なされた事、その身に受けた仕打ち、変化などですよ。我々はそれを把握する必要があるのです」
答えながらも聞いたキムではなく、なぜかミーに視線を向けるウォー。
ミーはそっと目を逸らし、やっぱり来た!と慄いた。
経験した事、その身に受けた仕打ち、変化。
おそらく誘拐、監禁された上に、ヘキサアイズに変化させられた事を指しているのだろう。
灰原ウォーはやはりあの誘拐犯の関係者であり、ヘキサアイズ。
すでにキムとミーの正体はバレているに違いない。
さらに、それぞれのスケジュールも完全に把握しているところをみれば、すでに何があったのかは知っているのだろう。
わざわざミー達に確認しているのは、ミー達の処遇をどうするかを決める判断材料にするためではないだろうか。
一体どうなっちゃうんだろう!?とミーは思う。
事件の事は隠しているのだ、社会的抹殺なんて事はさすがにないだろう。
実験体の続き、とかだったら怖すぎるし、嫌だ。
ウォーは警察という肩書きを持っている。
あれが真実かどうかはさておいて、それなりの権力とかあるのかもしれない。
知らず服の裾を握りしめていた。
その手を優しく包まれる。
ハッとして見れば、キムが前を向いたまま、ミーの手を握っていた。
それにふっと体から力が抜け、意識をウォーへと戻す。
「……なんの、話か…分からない」
やはり穏やかに答えるキム。
ウォーは乗り出していた姿勢を正し、目を眇める。
「惚ける気ですか?それは得策とは言えませんね。貴方もすでに分かってらっしゃるんでしょう?ですから、私は藍塚さんにお話しを伺いたいんですよ」
はっきりと嗤ったウォーに、ミーは背筋が冷たくなるのを感じた。
しかし、ウォーの言葉の意味が理解できない。
キムが何を分かっていて、なぜ、だからミーに話を伺いたいのか。
ミーが知っている事は、キムも知っている。
むしろ、キムが知っていてもミーが知らない事の方が多いはずだ。
ミーはこのカフェに入ってから、自分が一言も言葉を発していない事に、ふと気づいた。