・5・一人目、青年
すぐにガラスの雨はやみ、ミーはほっと息をついた。
そして、ガラスの時は壊し方を変えよう、と心に留める。
青年に目を戻すと、なんとガラスに傷つけられたのか血まみれになっている。
慌てて駆け寄ると、どこか覚えのある"いい匂い"に一瞬うっとりとする。
しかし、はっと我に返って彼に刺さっているガラスを取り除き始めた。
すると、
「………ぁ…の……」
青年が何か言った。
ミーはピタリと動きを止める。
じっと青年を見つめると、また、
「……あ……の…」
確かに青年が呼びかけてきていた。
ミーは返事するが、青年は反応しない。
そこではっと思いついて青年の耳を見れば、ミーが考えたように耳栓がされている。
それを外し、ミーはあらためて青年に声をかけた。
「……き、みは……だれ……?」
ミーは名前を言い、自分の今までの状況を話す。
そして、ガラスを取り除く作業を再開した。
その事に関して謝罪もする。
「……これ…ガラス……?き、みが壊、し…た…の?」
かすれ、所々途切れる青年の言葉。
ほとんど話してなかったんじゃないか、とミーは推測した。
その通りだと答えると、
「……同じ、にお…い……。君も、へ…キサ……」
青年は不思議な言葉と共に、かくりと力が抜けたように沈黙した。
死んじゃったのでは!?とミーが目隠しを外せば、端整な顔が現れ、どきりとする。
顔と胸に手をあて、心臓が動いている事、体温がある事を確認し、安心する。
どうやら気絶したらしい。
ミーはささっとガラスを取り終わり、青年の周辺から触手を使ってガラスを遠ざける。
さりげなく刺さっているが、触手は神経がないのか、感触も痛みもなく、さっと振れば簡単に抜けた。
そして、触手を包丁の形に変え、足枷を切るように考える。
叩く、殴る以外が可能かという実験も兼ねていたが、案の定すぱっと金属製の足枷は切断された。
触手の硬度だけでなく、刃物のイメージとして包丁型にしたのも良かったのかな、とミーは思った。
腰に巻かれていたものは布製だったが、彼女の腕力では千切れなかったため、これはハサミ型にした触手で切った。
それは太いベルトがついた20×20程の黄色い厚い布で、触っていると、なぜかぞわぞわと悪寒が走る。
気持ち悪いし、拘束具の一種だろうからと、ミーはそれを遠くに放った。
最後に、青年の脇下に腕を入れ、まるで抱きしめるような姿勢をする。
青年は手枷によってわずかに床から浮いているため、手枷を切った時支えるためだ。
触手を鎌の形にして、一気に振る。
抵抗なく手枷は両断され、青年の体重がずしっとミーにかかった。
ふらふらしつつ、触手も使って青年を床に横たえた。
ミーがさっき見た所で、ガラスの小部屋は五部屋はあった。
青年は気絶してるし、少量だが出血しているため、そばを離れる事に躊躇してしまう。
しかし、他の拘束されてる人も早く解放した方がいいだろう。
ミーは迷いつつ、大きな出血がないか青年の肌を自分の服で拭う。
すると、おかしな事に気づく。
確かに先程まであった無数の切り傷が、なかったかのように滑らかなのだ。
血はついてるし、出血している時をしっかりと見たのに、青年はなぜか無傷になっている。
ミーはもやもやとした気持ちを覚えながら、大まかに出血の確認をし、命の危険はないと判断して立ち上がった。
青年の腕には点滴らしき管があり、その他にも服の下から何本も管が出ている。
下手にいじるのは怖かったため、他の小部屋に行こうと片足を前に出した時、それを掴まれた。