・45・不法侵入
暗い思考に沈みそうになったが、ミーは首を振ってやめた。
とりあえず、と友人に連絡をとり、何か大学で知らせがあったかを確認する。
特にないよ、と返信をもらい、ミーはシャワーを浴びる事にした。
一通りさっぱりした所で、ぐぅ〜っと腹がなり、そういえば何も食べてなかったな、と思い出す。
いつもと違う非常事態で、空腹を感じる暇もなかったからだろう。
冷蔵庫を漁って適当にモヤシ炒めを作り、冷凍していたご飯を解凍して、モサモサと食べる。
草食動物の気分だった。
食べ終わり、食器と調理器具を流しで水につけ、ミーはベッドに寝っ転がった。
なんとなしにぼーっとする。
すごく疲れている、と思った。
そしてそのまま意識は薄くなり、ミーはすっと眠りに落ちた。
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温かい温度を感じた。
優しい手つきで、誰かが頭を撫でている。
それが心地よくて、ミーはふぅーっと息を吐いた。
懐かしい感覚だ。
こんな事をしてもらったのは、母が生きていた小学生の頃くらいではなかっただろうか。
ミーは嬉しくなって、僅かに微笑む。
「…おかあ……さ、ん」
無意識に、そんな言葉がこぼれた。
クスリ、と誰かが笑った気配がした。
ん?とミーは違和感に気づく。
あれ、これって夢…だよね?、と。
え…?ちょっと待って、だって私の部屋には私しかいないはずで……でも、誰かが頭撫でてる…よ、ね?
だんだんと意識ははっきりと浮上し、ミーは薄っすらと目を開けた。
そして見えた、暗闇に光る紫に。
………………。
ミーは一瞬で全てを理解して、硬直した。
彼は不思議そうに首を傾げ、ミーを見下ろしている。
頭を撫でる手は、止まる気配はない。
「……ミー、起きた?」
やがてそう聞いたキムの言葉に、ミーはまた眠りに戻りたくなった。
ーーそう、そこにいたのはキムだった。
ミーの脳内を瞬時に巡ったのは、ユンを送った後キムは宣言通りミーの家に来たのだろう。
しかし眠ってしまっていたミーは返事をせず、キムはテールを使って入った。
するとミーはすやすやと眠っており、キムは善意でミーが起きるのを待つ事にしたのだろう、という推測だ。
そしてその推測は、ほぼ100%間違ってないだろう、という確信まであった。
だから固まったのだ。
キムが来る事忘れてた!なんで私寝ちゃったんだよー!!!、とそんな自分を猛烈に叱り飛ばしながら。