・44・ミー、帰宅
ミーの家はキムのアパートと同じような造りで、三階建てだ。
その一階で、さっき見た方法を真似して部屋を開け、ミーは無事帰宅を果たした。
オルに礼を言いお茶を勧めたが、
「いえっ、大丈夫ですよ。ぼくの家はこの近くですから、すぐ帰ります。ミーさんはしたい事もあると思いますし、それに、キムくんに悪い…いえっ何でもないです……」
後半慌てたように小声になり、聞き取れなかったが、オルはとにかく、スズさんとヒロさんを安心させてあげてください、と頭を下げて帰っていった。
ミーも確かに、と急いでスマホを取り出し、
【無事帰れました〜(*^^*)】
と自撮り写真と共に送り、オルはもうすぐ家につくだろう事、ユンはキムが送っていった事も伝える。
スズからは、
【良かったです!(≧∇≦)】
ヒロからは、
【了解】
と簡潔に返ってきた。
数日ぶりの我が家を見渡す。
玄関に立って、全てが見渡せる小さな1K。
そこそこの経済状況で、あまり部屋の中を飾るタイプでもないミーの部屋は、女子にしては簡素と言えるだろう。
ハッとしてスマホで日にちを確認すると、ミーが誘拐された金曜日から一日経った土曜日だった。
すでに時刻は夕方になっていて、しまっているカーテンの間からオレンジ色の光が室内に入ってくる。
私が誘拐されたのって、たった一日だったんだ、となんだか拍子抜けてしまう。
あの洋館の地下で、たくさんの異常と非日常を経験したせいで、何日も過ぎている感じがしていた。
実際は、想像するに、ミーは金曜日の夜に誘拐され、恐らく真夜中に目を覚まし、また気絶して土曜日の早朝にヘキサとして目覚め、それから五人と出会って夜明け頃に脱出できたのだろう。
室内は金曜日に通学前に片付けたそのままだ。
他にこの家に来る者などいないのだから当然なのだが、ミーはそれをすごく不自然に感じた。
そして、五人の事を思う。
ミー以外の五人は、少なくとも五日以上監禁されていたという。
ヒロは十日だったらしいし、キムは五日くらい、オル、スズ、そしてユンはもっとだろう。
たった一日、目覚めていた間だけならたった数時間しか体験してないミーでさえこうなのだ。
もっと長い間あの場所で、もっと異常な経験をした五人は、果たして日常に戻る事はできるのだろうか、とミーは心配になる。
日常に戻る、というより、日常を受け入れられるのだろうか。
もはや人間ではなくなってしまった身体で、親しい人に事情を話す事さえできず、人間のフリをして、当たり前だった日々を過ごす事ができるだろうか。