・41・キム、帰宅
…あの、焦りすぎてもいい事ないですよ、と遠慮がちにユンが言う。
キムは僅かに首肯するだけで、口を開かなかった。
四人は気まずく黙り込む。
妙な空気にしちゃったな、とミーは内心後悔する。
そしておずおずと、キムが一度家に帰ってからなら構わない、と口早に言った。
その瞬間ミーは頬を両手で挟まれ、キムに真正面から見つめられる。
「……それ、絶対?」
真顔のキムの威力にミーは硬直しながも、なんとか頷く。
「……本当に?」
念を押され、コクコクと懸命に首肯して、やっと顔が解放された。
そして手は再び繋がれ、心なしウキウキとしているキムは足を進める。
後ろで慌てて二人がついてくる気配を感じながらも、ミーはやっぱり早まったかも……、と冷や汗を流していた。
キムがここまで表情を変える理由がミーには分からない。
自身は大して気にしていないのだが、オルとユンの様子を見るに、おかしいよなぁ、と薄々感じている。
しかし、恐怖感や嫌悪感は全くないのだ。
断る理由も特になかった。
……が、やっぱりやっぱり、大丈夫かなぁ、と何がとは言えないが不安になった。
キムは口調とは異なり、かなり俊敏に行動する。
身長も高めなため、歩幅も大きく、歩調の早いキムにミーは小走りで並ぶ。
そしてたどり着いたのは、よくある二階建てのアパート。
左右対象に三部屋ずつ並び、一つの階に六部屋ある。
アパートの正面右端に階段があり、キムの部屋は階段を登って二番目にあった。
当然のように鍵がかかっており、どうやって開けるのだろうと見ていれば、キムはミーを自身の横に立たせ、オルとユンにも囲むように立ってもらう。
と、扉に背中を向け、シャツをスラックスから僅かに出すと、そっとテールを出した。
首を後ろに曲げ鍵穴を確認しつつ、テールの先端を変形させながら鍵穴に入れ、僅かにガチャガチャさせた後、カチャリと開錠する音が鳴る。
なるほど、テールはこうゆう使い方もできるんだ!とミーは静かに感動した。
扉を開いたキムは、三人に少し待つよう言い、さっと部屋に入っていった。