・38・姐さんヒロさん
ヒロさんって、目つきと態度が女王様なだけで、結構いい人だったなぁ、とミーはやっぱり失礼な感想を持った。
ヒロを心配していたという隣人の奥さんやお母さんはヒロさん、ヒロちゃんと親しげに話しかけており、管理会社の人も、やっと帰ってきましたね!とちょっと感動していた。
また、マンションに入るために捕まっていた男性の住民も、ヒロさん、ゴミたまってるんじゃないですか?などと軽い冗談を言い合う仲のようで、女王様というより、姐さんだな、とミーは思った。
スズの時とはうってかわってあっという間に別れてしまったせいか、あまり寂しさは感じない。
ヒロが自分で言っていた通り、彼女はそれなりの大人のため、自身の別れを惜しんでもらうより、早く残りのメンバーに帰宅してほしかったのだろう。
実際、これは今生の別れなどではなく、知り合った今、会おうと思えば明日にでも会えるのだ。
惜しむ必要はどこにもなかった。
スズの時にあれ程別れがたかったのは、彼女があまりにも暗く、放っておけなかったからだ。
今頃ヒロはさっそくスズと話しているだろう。
ヒロの性格を思えば、スズの寂しさを和らげてあげようと、物言いはキツめだが、住民達がおしかけてきた事を話しているに違いない。
そんな様子を想像して、ミーは小さく笑った。
そういえば、ヒロの表札には【灯】と書いてあった。
見た事がない苗字だ。
「あかり」だろうか、「とう」だろうか。
なんと読むのかミーは気になり、後でヒロに聞こうと決めた。
ニコニコとしていたミーにキムが話しかけた。
「……なんか、嬉しそう…だね」
ミーはふふっと笑って首肯する。
ヒロについて感じた事や、想像した事を話して、それがなんだか面白いのだと伝えた。
キムもゆるりと笑みを深くする。
「……確かに。……ヒロさん、は…慕われて…るみたい、だったね…」
姐さんだったね、とミーが言うと、キムはなぜかしばし沈黙した後、
「……ミー、は…ヒロさん、の事……好き?」
と唐突に聞いた。
え?とミーは瞬く。
なんでそうなったんだろう、と思いつつ、好きか嫌いかで言われたら、好きかなぁ、と答えた。