・34・スズ、帰宅
少し休憩をとって後、六人は再び歩き出した。
道はほとんどオルとヒロが判断して進んでるが、ほどなくしてスズが案内を始めた。
日が高くなり、昼が近づいていた。
大通りから細い裏路地に入り、住宅地へと進む。
そして、ある一軒家を差して、ここです、とスズは言った。
それは薄いオレンジの壁の、よくある二階建てで、窓にはレースのカーテン、玄関までの道に小洒落た植木鉢がいくつか並べてあった。
表札には【夜長】と書かれている。
スズはやっと着いた我が家に、強張った表情で怯えたような視線を向けていた。
あぁ怖いんだな、とミーは直感で悟った。
監禁期間がどれくらいなのか知れないが、スズはユンの次に誘拐されている。
カルテでは軽く五日は経っていたというから、一週間二週間の話じゃないだろう。
それだけの間十代の女の子が行方不明になれば、捜索願が出されるような事件だ。
そこにひょっこりと何気ない顔で帰る事など、自分でもできないとミーは思う。
ましてや、体験した事が事なのに、それを隠し通さないといけないのだ。
緊張するのは当然だろう。
親からの質問攻めは確実だ。
学校はどうなっているのだろうか。
登校すれば、興味と好奇の視線が待っているに違いない。
口を開く者はなく、スズが動き出すのをじっと見守った。
スズは家を見つめた後、ふと気づいたように五人を振り返り、縋るように見つめる。
それにただオルが首を振り、泣きそうな笑みをこぼしたスズは、のろのろと玄関に向かった。
門を開け、ゆっくりと玄関に近づきインターフォンを鳴らす。
遠くでピンポーンと音が響いたがーー応答はない。
どうして誰も出て来ないんだろう、とミーは訝しくスズの家を見つめた。
しかし、数分経っても物音一つせず、もしかして留守!?と目を見張る。
その可能性は考えてなかった……とミーが内心焦っていると、スズは立ち尽くしていた玄関に背を向け、玄関前にあった植木鉢の前にしゃがみ込む。
その一つを持ち上げ、植木鉢の下から何か掴んだ。
チャリ、と軽い音を鳴らしたそれを、玄関ドアに差し込み、ガチャリと鍵を開ける。
どうやら合鍵が置いてあったようだ。
閉まるドアに消えて行くスズの背中を、ミーはただほけっと見送った。