・32・偶然…?
「面白い偶然もあるものね」
とヒロが肩をすくめて言う。
ミーも凄いな、なんてびっくりしていた。
「ひとまずの目的はこの県を出る事でしょうか。乗り物には乗れませんから徒歩になりますが、結構な距離があるようです。皆さんいけますか?」
その言葉にミーとユンはげんなりとするが、反対しても他に方法はないため、渋々ながらも歩み続ける。
ミーの横には、やっぱり当たり前のようにキムが並ぶ。
そのキムは何か考えているのか、微笑はあるもののどこか固く、視線は地面を向いている。
ミーはそんな彼をなんとなしに見つめていた。
と、不意にすっと横目で視線が合い、なんとなく慌てて逸らす。
「……ミーは、さ…」
キムの言葉口に、ん?と顔を向ければ、
「……本当に、偶然…だと思う…?」
問いかけの意味が分からず尋ね返す。
「……オレたち…が、同じ県…から誘拐、されたこと」
またふっと視線を下に落としたキムの言葉に、ミーは考える。
同じ県内から、それぞれ性別も年齢も別々の男女六人が、同じ場所に誘拐されたのが、偶然かどうか?
本当に、と言われても、ミーに分かるわけはない。
確かに驚くべき偶然だが、そう言われると、何か理由があるのかも、とも思えてくる。
しかし、ではその理由は何か?と問いかけられてもやはり思いつく事などない。
誘拐した男は研究のためにミー達を攫った事を考えれば、同じ地域の人間を平均的に調べたかったのかもしれない。
けれど、それなら同じ市内から誘拐した方がいいのではないか?
…いや、そもそもなぜあの研究施設のあるこの県、市内から誘拐しなかったのだろうか。
わざわざ隣の県から攫ってきた理由も不明だ。
色々と推測できる事はあったが、結局、分からない、とミーは答えた。
……そっか、と呟いて、キムは黙り込んだ。
それから会話はなく、ミーは黙々と歩き続けた。
だんだんと日が登り、辺りが完全に明るくなった頃、六人はやっとこさ彼らの住む県までの境に到着した。