・29・外に出るために
「…で、では、今度こそ、服の事について考えましょうか」
仕切り直すように明るく告げたオルの言葉に、ミーは思考を切りかえる。
「気づいてるかもしれませんが、ぼくらは気温の変化にあまり影響を受けないようです。
ほとんど寒くないですよね?ですから、外に出て不自然でない程度の服があれば、それを拝借してさっさとここから出ましょう」
その言葉に皆が頷いたのを確認して、オルは言葉を続ける。
「問題は、どこにその服があるかですが……どうしましょうか」
困ったように、ふにゃりと情けなく首を傾げた。
ミーは服と考えて、地下で見た洗濯室と呼べる部屋を思い浮かべていた。
あそこには患者服以外に男が着ていたような白衣もあったし、下のズボンもあったかもしれない。
白衣で街中はかなり目立つかもしれないが、今の病院服っぽいものよりはましだろう。
それをオルに伝えようとした時、おずおずとスズが声をあげた。
彼女は、階段を見つけた時に入った部屋が、誰かが住んでいる感じがしたと話し、服があるかもしれない、と言う。
ユンもスズと顔を見合わせて頷いた。
それを聞いて、オルはその部屋の探索を提案する。
全員で行くのではなく、ここに誰か残って見張りをして方がいいだろうとも言い、それはオルとヒロに決まる。
そこでミーは洗濯室の事も話し、それなら、と洗濯室はミーとキム、もう一つの部屋にユンとスズが行く事になった。
階段を下り、廊下に出た後でユン・スズと別れ、ミーとキムは洗濯室へと向かう。
二人に会話はなく、毎度のようにキムはミーの手を引いていた。
ミーもその事にはもはやなんの疑問も持たず、その興味はキム自身に向いていた。
彼女より頭一つ分背が高く、端整な顔に、常に微笑をたたえた青年。
ミーをさりげなく導き、他の皆が狼狽えるような時にも平然としている。
顔の造作のだけでない時折見せる美しさと、クエン酸によって起こった衝撃の出来事から、キムの事が気になっていた。
数歩先に行く彼の横顔をじっと見つめていると、目的の部屋につく。
中に入るとキムは手を離し、ぐるりと室内を見回した。
部屋の中は当然のようにさっきミー達と来た時と変わらない。
が、ミーはさっきと違って目的を持って行動する。
とりあえず干されている白衣を三着程とってみる。
キムを見ると、どこから見つけたのか、黒いスラックスを二つ持っていた。