・27・沈黙の選択
涙をこぼしながら、ミーは思考する。
ここで起きた事を伝えるかどうか。
気づいてしまった事実を考えると、とてもではないが誰かに話す事などできない。
それだけでなく、話す事のできない事情もある。
そもそもの所、ミーには家族と呼べる人がもういないのだ。
両親はすでにおらず、兄弟のいない一人っ子。
祖父母もいないし、親戚とはほとんど交流がない。
では、友人は?
多少なりいるが、話せる相手ではないだろう。
警察はどうだろうか。
こんな突拍子のない、現実離れした話をすれば、病院を紹介されて終わりに決まっている。
結論は、考える前から出ていた。
最も早く静寂を破ったのは、キムだった。
「……オレは、話さな…い……」
涙を拭って彼を見ると、暗い微笑のまま、床に視線を落としている。
そうですか、と頷いて、
「ぼくも、誰にも話す気はありません。家族はいませんし、職場には旅に出ていたとでも言うつもりです」
オルも自身の答えを告げる。
ミーは震える声で、さっき出した結論を伝えた。
「……私も、右に同じよ。こんな事……言える訳ない!」
爪を噛んだヒロが、苦しげに言う。
残るはユンとスズだったが、二人は俯いたまま、口をつぐんでいた。
「二人は、どうしますか…?」
オルがそっと尋ねると、スズがハッと顔を上げ、口を開きかける。
そこで躊躇うように、一度閉ざし、わかんないです……と弱々しくこぼした。
……なんて、言えばいいんですか、と俯いたままユンが呟く。
キッと上げた表情は歪んでおり、睨むようにオルを見つめた。
ここであった事を話せないなら、なんて言えばいいんですか!と叫んだユンに、オルは落ち着いて、と宥めながら、
「そうですね……無理があるかもしれませんが、『何も覚えてない』、が一番いいと思います」
と、申し訳なさそうに答えた。
そんな、と言葉を失うユン。
それは無理があるんじゃ、とミーも思ったが、でもそれしか言える事はないだろうと納得もした。
六人の身に起こった事に比べたら、何も覚えてない事の方が現実的だと考えられたからだ。
実際、瞳の形やテールを見れば現実であると信じられるかもしれないが、その先に待つ未来は確実に明るくない。
それなら全てを隠して、何もなかった事にした方がいいに決まっている。