・26・人外
窓からは風が吹き込んでくるが、やはり寒くはない。
正直体温調節という意味でなら、これ以上服を着る必要はないのだが、こんな格好では家に帰るまでが問題だ。
もう出口は確保されたと考えていいのではないか。
そう思って、オルに服に関して言う。
すると、オルは少し困ったような表情になった。
「…そうですね。出口は見つかりましたが……問題、というよりはっきりさせた方がいい事が一つあります」
そう前置きして、オルは五人に問いかける。
「皆さんは、ここで自分の身に起こった事を、誰かに話すつもりはありますか?警察や家族、職場の方などに。ミーさんはともかく、ぼくらはそれなりに長期間行方不明になっているはずです。親しい人達に、その間の説明をどうするか、皆さんの考えを伺いたいです」
ミーを除いた四人は、一様に沈黙した。
ミーも、頭を殴られたような衝撃に言葉をなくしていた。
この場所で起きた事とは。
誘拐され、血液を注射され、身体が変化し、その検査をされ、実験台にされていた事だ。
そんな事、話せるだろうか。
いや、話したとして、誰が信じるだろう。
瞳の形?
テールの存在?
異様に発達した五感?
信じられたとして、それは『化け物』と呼ばれるのではないだろうか。
ミーは思い出した。
気絶してから目覚めた時、異常に冷静だった事を。
様々な異常もそうとは捉えられず、当たり前のように受け入れていた。
六角形の光彩。
暗闇で光る目。
硬度と形状が変わる触手ーーテール。
芳しく感じる血液の香り。
治癒能力。
クエン酸で溶ける皮膚。
異常だ。
これ以上なく異常。
そんな人間いない。
……人間じゃない。
自分はもう、人間ではないのだ。
ズサリと突き刺さった現実に、ミーは視界が歪んでいくのを感じた。