・23・危険性
階段はすぐに右に折れ、上へと登っていくようだった。
六人は足早に駆け上り、閉じられた扉の前で止まる。
あぁ、やっとここから出られるんだ!と期待に胸が膨らむミー。
すぐさまヒロが穴を開けようとしたが、それをオルが止めた。
なんでよ!?と怒るヒロに、
「お、落ち着いて下さい。ぼくらを誘拐したあの男がここにいなかった以上、この先にいるかもしれないんです」
あわあわと説明したその言葉に、五人はハッとする。
ミーとキムは階段を見つけたが、ユンとスズは倉庫らしき部屋、オルとヒロは普通の人が生活しているような部屋に入っていた。
ミーの言葉を聞きつけてよく探索はしなかったが、人影はなかったという。
つまり、この地下の研究施設に六人を連れて来た張本人はいないという事になる。
ミーが目覚めた部屋での大量出血から瀕死状態では?と推測されていたが、よく考えてみるとこの場所を調べる中で、他に血痕がない事にミーは気がついた。
男は確かに出血したかも知れないが、そもそもミーはどれだけ気絶していたかなど分からない。
ヘキサの回復能力なら、たとえ瀕死状態になったとしても、時間をかければ健康状態に戻ってしまうだろう。
もしかすると、男は回復した後、隣の洗濯室で衣服を洗い、何か用があって地下から出て行ったのかもしれないのだ。
「……いや、それ…はないと、思う…」
ぽつりと否定したキムに、五人は視線を向ける。
キムは目を伏せ床を見つめながら、
「……血、のにおいが…しない。……どこにも…血痕が、なかったし」
血痕がなかったのは、洗濯室で着替えたからじゃないかな?とミーは言ってみる。
するとキムは微笑したまま首を横に振った。
「……あんな、に血を流し…たら…着替えたくらいじゃ…におい、は消えない……よ…」
それに、とキムは登ってきた階段を振り返る。
「…血…のにおいは、あの部屋……でしか、しなかっ…た。……他、の場所に……移動して、ない」
「でもそれじゃ、アイツはどこに行ったって言うのよ!?」
ヒロが問うと、キムはただ肩をすくめた。
はぁ!?もヒロがキレそうになったのを、オルがドウドウと宥める。
そして何かじっと考えた後、心を決めたように顔を上げた。
「分かりました。確証はありませんが、今はキムくんの能力を信頼して、男はこの場所から移動してないと考えましょう。ぼくは目が良いみたいなので、まず小さく穴を開けて、様子を見てみます。それで危険がなさそうでしたら、外に出ましょう。それでいいですか?」
その提案に四人は頷いたものの、ヒロは、
「それって、じゃあ危険があったら外に出ないってわけ!?」
と反発した。
が、オルの答えにヒロだけでなく、他の四人も固まった。
「…いいえ。もし危険があっても排除します。この場所がどこにあるかは分かりませんが、完全に外に出るまでは、会う人間は全てあの男の関係者と考えるべきです。ぼくらは拉致・監禁され、実験体にされた被害者です。ですから危険に対する行為は正当防衛であり、たとえ相手を殺してでも、この場所から逃げるつもりです」
頼りないたれ目がすっと細まり、薄く笑った表情は冷徹に見える。
静かに灰色のテールを伸ばしたオルがひどく怖く感じて、ミーは思わずキムの服の端を握った。