・20・事故
ミーとキムが顔を見合わせていると、何してるんですか?とスズがやってきた。
キムの持っている瓶を見て、クエン酸?と彼女も首を捻る。
二人でこの瓶の謎について話すと、スズが詳しい知識を披露した。
曰く、クエン酸は食べて良し、塗って良し、掃除にまで使える便利な物質だとか。
果物からも摂取できるが、このように粉末状で普通に販売されているらしい。
それを聞いて、ますます危険物扱いの謎が深まる。
キムが瓶を傾け、わずかに右手の平に粉末を出した。
粉末は白色で、さらさらと肌に触れた瞬間、
「ッ……!!!」
キムが驚愕の表情で手を振り下ろした。
いきなりの事にミーとスズはびっくりする。
キムはさっとしゃがみ込むと瓶の蓋を閉め、慎重に棚の下段に置くと、じっと右手を凝視した。
ミーはその手の平を見て息をのむ。
キムの右手の平の中心あたりが、茶色く変色していたのだ。
それは濃い部分と薄い部分とまだらに丸い。
キムの顔に目をやると、真顔に目を細めた彼が、
「……これ…は、危険だ……ね…」
としみじみと囁いた。
一体何が起きたのかと、もう一度変色部分に視線を戻す。
すると、そこはまた色が変化しており、じわじわと濃くなっているように思える。
だ、大丈夫!?と尋ねると、キムは左手で変色部分に触れる。
すると、そこはぐちゃりとぞっとする音とともに抉れてしまった。
ヒッ、とスズが小さく悲鳴を上げる。
抉れた下は薄赤色の肉が見えていて、ミーは耐えきれずに目を逸らした。
「……腐って、る…。……再生…も、遅い……」
その呟きにはっとして、そうっと横目で手の平を見る。
と、ほとんど変わらない肉の色に、またすぐ目線を下ろす。
視線の先に茶色い瓶が目に入り、ミーは思わず後ずさる。
あれは、一体なんなのだろう。
クエン酸って、身体に害はないん じゃなかったの…?と、混乱と恐怖に自分を抱きしめる。
「……あ…ちょっと、治って…きた…」
キムの言葉に、すごく遅いですね…、とスズが返答し、もしかしてあれを見てるの?とスズの精神力に少し慄いた。
と、そういえば五人は実験で何回か身体を切られていたという事を思い出し、それで慣れているのかと納得する。
キムの手の平に触れた粉末はほんのわずかだったし、触れたのも一瞬だった。
それなのに皮膚を腐敗させ、かつヘキサの治癒力でもなかなか再生しない傷を作った。
あれは本当に、自分の知っている、そしてスズの知っているクエン酸ではないのだろうか、とミーは考え始める。
触れるだけで、しかも短時間に皮膚を腐らせる物質など聞いた事がない。
学校の理科や化学が得意だった訳ではないが、それなりに真面目に勉強はしていた。
皮膚は細胞でできていて、細胞はタンパク質でできているという事ぐらいは知っている。
皮膚を溶かす物なら塩酸などがあるが……とまで考えて、クエン酸とついているから、それも可能なのだろうか!?などど思考が迷走する。