・14・血液
ミーがその事を伝えると、一旦六人で始めの部屋を調べる事なった。
ミーがあけた穴では小さかったため、あらためてヒロが穴を広げ、室内に足を踏み入れた。
途端、ミーの鼻をくすぐるあの"いい匂い"。
知らず深く息を吸ったミーだったが、先に入ったヒロとオルは顔をしかめていた。
ミーに続いてきたキムも、わずかに眉を寄せ、
「……すご、い…血の…臭い、だ…」
その嫌悪ある感じを、ミーは不思議に思った。
こんなに"いい匂い"なのに、と。
ミーはふと、キムも初めは同じような匂いをまとっていた事を思い出す。
そういえば、彼はガラスで血だらけだった。
ヘキサになった影響で、血液臭を香り良く感じるようになったのだろうか。
ヒロは部屋の棚などを物色し、オルは手術台周辺を見ているようだ。
オルのそばにキムが近寄り、床の血溜まりに指の先を触れさせた。
ぎょっとして見守ると、彼はその指先を何度か嗅ぎ、一度頷く。
「キムくん、何か分かったのかな?」
尋ねたオルに、
「……これ…たぶん、あの男の……だと、思う…」
「あの男って、ぼくらを誘拐したヘキサの!?」
こっくりと首肯するキム。
オルは驚いたように目をショボショボさせ、血溜まりに目をやる。
仰天したのはミーも同じだった。
なにせ、この部屋で気絶してから、次目覚めた時はもうこうだったのだ。
一体あの医者っぽい男に何があったのか。
血液は手術台の上と、その床周辺をおびただしく濡らしている。
人間は、血液を三分の一失えば死んでしまうという。
この血の量では、あの男は相当な出血をしたに違いない。
「これ、アイツの血なの?キモッ。でも、これだけ血をなくせば、もう死んだも同然ね」
物色の手を止めずに、視線だけ手術台に向けたヒロが、ざまあみろといった口調でそう言った。
「あっ、確かに。この出血なら、テールも出せないだろうし…」
呟いたオルの言葉に、ミーは疑問を挟む。
すると、それに答えたのはキムだった。
「……ヘキサの能力、は…血に、宿るから……血が…なくなったら、能力も…使え、ないんだ…」
先ほどいた大部屋でも説明されたそれに、ミーはなるほど、と納得した。
テールをしまった時、ミーはテールを液体や流動体ではないかと推測したが、おそらく血液なのだろう。
それにしては、ミーは黒色、キムは白色、ヒロは紺色と、血とは思えない色だが、それにも何か理由があるのかもしれない。
テールが血液なら、出血するとテールが出せないのも分かるし、単純に血が足りないと身体能力は低下するだろう。
しかし、男の死体がないこの状況では、生死も行方も不明な事には変わりなかった。