・11・本能
ミーは切実に鏡が欲しくなった。
つい両手で目を隠してしまう。
「ミーさんは、ヘキサの本能がないのかな?」
オルの声に手をさげ、これまたおうむ返しに聞き返す。
「えっとね、たとえばー……あ、ヘキサは匂いで仲間が分かるんだ。人間とは違うらしくて、ぼくはきみがヘキサだと分かるんだけど……分からないのかな…」
ぽかんとするミーに、終わりには自信なさげに小さくなるオルの声。
匂いと言われても、ミーには特に際立って鼻に感じるものはない。
そしてそこでもキムの言葉を思い出す。
『……同じ、にお…い……。君も、へ…キサ……』
あれですか!?とミーは思った。
ばっとキムを見上げると、彼は「……ん?」とあいかわらずの微笑を浮かべている。
キムは説明を求められてると思ったのか、
「……ヘキサに、なる…とね……、なんとなく…自分、のできる事…が分かるん、だよ…」
テールの使い方や、身体能力の向上も分かるようになるらしい。
ミーが疑問に思った暗闇での視覚もやはり、暗視能力が上がっているからだという。
他にも、聴覚や嗅覚も鋭くなっているようで、ヘキサ同士が持つ特有のフェロモンのような物を嗅ぎ分けているようだ。
しかし、説明されても、ミーには分かる気配がない。
「……アンタ、ほんとにヘキサなの?」
訝しげなヒロに、ぶんぶんと頷き、ミーはテールを出した。
黒いテールの先っぽを丸くして、ヒロの前に伸ばす。
「ふーん。確かにテールはあるわね。ちゃんと変形もできてるし」
ヒロはテールを無造作に掴み、上下左右に眺める。
神経はないはずなのに、ミーは恐くて鳥肌がたった。
ヒロさんならテールぶっちぎってもおかしくない、なんて割と失礼な事に怯えていた。
ヒロは視線を上げてミーの目を見る。
「目も六角形だし、青いし。……ふーん?」
ミーは視線を逸らしたいのをぐっと我慢して、ヒロの言葉を待つ。
ヒロはテールを離し、腕をくんだ。
ミーはさっとテールをしまう。
「……ミーは、どう…やって感染、したんだろう……ね」
「そうだ。まずそこが問題だね」
キムの疑問に、オルがそういえば、と反応した。
そこでミーは、さっきから気になっていた『感染』という言葉について聞いてみる事にした。