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蚊取り戦争

作者: 木村 歌尾

 思えば、気にしないで寝るべきであった。

 11月も半ば、次第に寒さも増してきたそんな夜だ。いつものように部屋をオレンジの淡い光にし、布団に入り寝ようとしていると、


「プーーン」


なにかが、耳をかすり、手に止まった。どこか懐かく、それはまるで夏休み最後の夜を思い起こさせた。オレンジの暗い部屋で手を見るとそこに懐かしさの正体がいた。そう、「蚊」である。


(11月だぞ!?)


心の中で思った。正確には、声に出した。もう秋なのにまだ生きている蚊もいるんだなぁ、と思うのもつかの間、すぐにツイッターで「蚊なう笑」と手に付いた蚊の画像とともにつぶやいた。


 4ファボもきた♪

 

 フォロワー50人の私にとって4ファボは、とても尊い。まさにその心情は、「♪」で表現するのが正しかった。うれしくなってしまい、蚊に対しての慈悲が私の中に芽生え始めた。かわいそうだから殺さないでおこうと。そして手を払い、その蚊を逃がしてあげた。そのときに気づいたのだが、その蚊は、とても遅く飛んでいて弱っているように見えた。弱ってるのにがんばってんなぁ。

 

 生きろよ。


心の中でそう唱えた。。


 

 「プーーン」

5分くらいたったころだろう、または、10分か、それ以上か。布団に入ってからの時間のたち方は、不思議だ。蚊も生きてる。よしよし。それを確認して深い眠りに入った。


 

 

 

 「ブーーーーーーン!!!!!!!!!!」

それは、当然やってきた。スズメバチかと思うほど大きな羽音で私は、思わず目を覚ました。あの蚊だ。私は、すぐさま先程の生きろよ発言を撤回した。


うざい!ねむれない!


私は、やつを殺すことを決意した。


 「プーーン」


感じる。やつの動きを。夜の研ぎ澄まされた感覚は、やつの気配を逃しはしなかった。


 「パチッ!!」


私は、瀬戸内寂聴もびっくりの合掌でやつを滅した。そして手を合わせたまま神に祈った。


 来世で会うときは、友達でいような。


そう語りかけた。。戦いは、終わった。そう思ったその時、


「プーーン」


その羽音は、魔の第二ラウンドの幕開けだった。やつは、死んじゃいなかった!いきていたのだ!それと同時に私は、重要なことに気が付いた。暗い視界と聴覚だけでやつを滅することはできないと。第二ラウンドは、やつに分があるように思われた。しかしその時、起死回生の一手を思いついた。


窓!窓を開けるんだ!!窓から逃がせ!!


地球上でただ一つ、文明と知恵を持つ種族である人類の勝利の瞬間であった。すぐさま私は、窓をあけ、やつが寂寥の退散をするのを待った。私は、人類の英知に浸りながら意気揚々と待っていたが、すぐさま違和感を覚えた。


寒い!!寒すぎる!!


11月ってこんなに寒かったっけ。後で知ったのだがその日の夜は、12月半ば並の気温だったそうだ。しかし私は、寒さに耐えた。なぜならやつが逃げるまでは、窓を閉めるわけにはいかないからだ。この時点から第二ラウンドは、予想だにしないまさかの我慢大会となった。

 それから時計の分針が何回か聞こえた時、私は、「窓を閉めてよいのはいつか」という問いに悩まされていた。いつ、やつが出て行ったと分かるのか。まさに「シュレディンガーの猫」ならぬ「木村歌尾の蚊」であった。まあ、しかし、私に量子力学とかは分からないので我慢できなくなったら閉めようと思っていた。


 

 『あんた!窓あけてんの?寒いから閉めてちょうだい!!』


それは、雷鳴のようにとどろいた。なんと母である。「起きてたのかよ!」「やつが知らせたのか?」などあらゆることを考えた。が、部屋に入ってきそうだったのでしぶしぶ窓を閉めた。硬直の第二ラウンドは、木村母というレフェリーによって突然の終わりを告げられた。これには、対戦相手のモハメド・アリならぬ、モハメド・カもびっくりであったはずだ。しかし、これでやつがいなくなっていれば戦いは終わったことになるのでよしとした。



 「プーーン」


 第三ラウンドの鐘は、一時も待たせてはくれなかった。やつは、出て行ってはくれなかった。もうこの時点で正直、私は、諦めかけていた。というのも第二ラウンドで決着をつけようと思っていたのでスタミナが残っていなかったのだ。もうやつの独壇場を眺めることにした。


 「プーーン、プーーン、プーーン、プーーン、プーーン」


一定のリズムで奏でられる同じ羽音が、つぎつぎに繰り出された。それは、まるでベートーベンの交響曲第五番「運命」のようであった。そう思うことで気分も少し和らいだ。嘘である。最悪のレクイエムであった。こんなCD誰も買わないだろうと思った。何でこんなに活発に動き回れるんだよ。弱ってたんじゃないのかよ。そんな泣き言も蚊界のベートーベンは、聞きもせず演奏を続けた。嫌がらせも大概にしてくれっ、と思ったその時、突然、演奏が止まり私の頬にやつがとまった。


 (チャンス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


必死に鼓動を抑え右手でフェイント入れて左手で大きく頬をたたいた。たたいた感触があった。つぶせたのだ。薄暗い中、目を凝らし確認してみると確かにそこに黒い塊があった。勝ったのだ。私は、ロッキーとなったのだ。ふぅ、これで寝れる。その時、


 「プーーン」


精神をすり減らした私の脳は、この事件に混乱した。「つぶしたはずでは?!」「いや、確かに死骸が。」あらゆることが脳裏によぎり、脳は、一つの答えを導いた。


 「蚊は、最初から二匹いました」


なんと!!!!!

全ては、冒頭から間違っていたのだ。「11月にいる蚊は、珍しいから一匹しかいない」という考え自体が、先入観であったのだ。このトリックには、さすがにコナン君でも解けまい。そう思った。


 「私は、最初から負けていたのか。。」


そういい残し、寝てしまった。。

 次の日、「複数の蚊に刺され」と「風邪」になった私は、ベートーベンの「運命」のCDを買いに行ったのであった。

評判良かったら、また書きます☆

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