解決編
【解決編】
「今回、皆様に集まっていただいたのは他でもありません。ある謎の解決に立ち会っていただくためです」
声が響いた。
「名探偵の掟、番外その1。名探偵は、脈絡なくても良いからとにかく謎を解決すべし!」
その自信に満ちあふれた声で、弥生は宣言した。
その瞳には、名探偵と称されるにふさわしい理知の光が宿っていた。
凛とした立ち姿。
無粋なツッコミなど、問答無用で遮断するような気迫が、そこにはあった。
皆さんって誰? とか、脈絡って? とか。ツッコミは受け付けません。
「弥生さん。じゃあ、『致命的なミス』って何?」
「慌てないで、イチガツ。まず順番に状況を整理してみましょう」
弥生は、結論を急ぐイチガツを、ピンと立てた右手の人差し指で制した。
「一番のポイントは、『ミスが発生した』というところよ。『発生した』のよ。最初からあった訳ではないの」
弥生は続ける。
「そもそも『名探偵の掟 ~人の境界~』は、『なろう』とは違う別のサイト――とあるSNS上の日記で連載されていたの。お題をくれた数人の友人達に向けた形でね。二週間に一話のペースで書いたわ。修羅場だった」
台詞の後半は、本編にはあまり関係しません。
「それが、どんな意味を持つんだい?」
イチガツでさえ、もはや『なろう』って何? とは聞けなかった。
「チャットのシーン、横文字、そしてトリック。全てがある状況を前提にして書かれていたの。それを、『なろう』にそのまま転載した。それがそもそもの間違いだったのよ。……『なろう』、いいえ『読もう』で読まれさえしなければ、こんな悲劇は起こさずに済んだのに」
「ある前提? なろ……? 読も、う??」
「もっと正確に言えば――」
「――『縦書き』で読まなければ良かったのよ。そう、ある前提というのは――『横書きを前提として書かれた作品だ』、ということよ」
ネタバレ注意!
「この作品のポイントの一つとして、『↑』が『人工知能』を指しているのではなく、ルーン文字で『チュール』を表している、というものがあるわね」
あるわね、と言われても。
イチガツはあまりの展開に言葉を探せない。
「それが――縦書きPDFで読む場合、『↑』は『↓』に変換されてしまうのよ。『人工知能』を示してもいないし、その形は絶対に『チュール』ではないわ。そのまま読むと、意味不明すぎて笑えてくるわよ? なんのこっちゃよ」
(※作者注:同様に、この作品『名探偵の掟 ~人の境界における致命的なミスについて~』を縦書きで読むと、輪をかけて意味不明です。どうか横書きでお楽しみ下さい)
「そんな……。まさか、そんな恐ろしいことが起こってしまうなんて……」
イチガツは、もはや雰囲気だけで恐れおののいていた。
「しょ、証拠は? そうまで言うなら、動かぬ証拠があるんだよね?」
苦し紛れに絞り出されたイチガツの言葉に――。
弥生は、重々しく頷いた。
「お手元のパソコンで、『なろう』にアクセス、『小説を読もう』のリンクへと飛んだ後、『名探偵の掟 ~人の境界~』と検索すれば良いわ。その作品の上の方にある『縦書きで読む[PDF]』をクリックしてダウンロードしたものが、動かぬ証拠よ」
弥生は、恐ろしすぎる一言を続けた。
「良い? 動かぬ証拠は、まさにこの瞬間にも、全世界へ配信され続けているのよ……!」
「そんな……!?」
イチガツの言葉は、もはや悲鳴に近かった。
「致命的なミス――それは、『縦書きにした時に、『↑=チュール』というトリックが成り立たない』というものよ」
「これは、『なろう』の作者なら誰でも陥ってしまう恐ろしい罠よ。だから秋乃透歌は、恥をしのんでこの『致命的なミス』を告白したの。次の犠牲者を、被害者を出さないために……」
「そうだったのか……。よくわからないけど、なんて悲しい結末なんだ……」
◆ ◆ ◆
――という訳でありました。
皆様も、文字や記号の形状を利用したトリックを書く際には(あるかな? あんまりない気もするが)、お気をつけください。
以上です。
少しでもお楽しみいただけたのなら……そして、少しでも「自分だけは同じミスを犯すまい」と思っていただけたのなら幸いです。
……はぁ。
二度とこのような形でお会いすることがないことを祈りながら――。
それでは、また。