変貌
綺麗すぎる部屋に、浮き彫りになるように。
ここにいるよと、主張するように。
割れたはずの卵が、厨房には転がっていた。
だけどそれは、前とはちょっと違っていて――
茶色だった殻が、焦げ茶色になってる。
大きさもだ。卵が一回り…… 大きくなっている。
なんで?
……決まってる、綿尾を食べたからだ。
骨等を使って殻を再構成したのだろうか。
質量保存の法則は何処へ行った。
疑問ばかりが浮かび上がり、されど、あまりに未知過ぎる存在の前には何の解決にもなっていない。
この卵に触りたくない。
それだけが、確かな事実だった。
でも、これと一緒じゃないと家に帰れない…… 妻は、僕と卵の帰りを待っている。
冗談じゃない?!
割ってしまったら補食されてしまう爆弾と、今まで僕はずっとずっと一緒だったって事か? 妻はこれを知ってたのか?
だから、だから妻はあのとき、あんなことを……
いやまさか…そんなわけないじゃないか……
「お帰り陽くん!」
いつもの、沙耶の声がする。
僕はげっそりと微笑む。結局爆弾を抱えたまま家路についた僕は、もう生きた心地がしなかった。
沙耶は、玄関まで来て僕の鞄をもってくれる。
そのままお弁当箱を取り出すと、例の卵を手に取った。
……気味悪がるだろうか。それとも、僕に何があったか聞いてくるだろうか。
鞄から妻の手が引き抜かれる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして卵は、その全貌を明らかにした。
妻の顔がパッと輝く。
僕はぞっとした。
「わぁ、すごいよ陽くん! えへへっ、やっぱり陽くんに託して良かったぁ…… 」
“――どんなに突拍子のない言動にも、必ず…”
いつも以上に上機嫌な、僕の妻。
ありがとうと微笑む笑顔はとても可憐で。
「ありがと、陽くん! 」
僕は、震えが止まらない。