#SP1 Cook Study Bath
第1章最後として、#6で書ききれなかった部分を架乃目線で書いてみました。
サイドストーリーのような感じですね。
【SIDE 相楽架乃】
ー+ー+ー+ー+COOKINGー+ー+ー+ー+
「お邪魔しまーすっ!」
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい。あら、マナちゃんいらっしゃい」
玄関を開けるとお義母様の華さんが廊下に出てきた。
華さんは40才にしてまだまだ肌にはハリがあり、昔とほとんどスタイルが変わっておらず、とても若々しい。わたしに対してとても優しくしてくれて、わたしが養子になるとき暖かく家族に迎え入れてくれてた。また、わたしの恋の相談相手にもなってくれる。本当にいい人なのだが家事が苦手なのでわたしに家事は一任されてる状態。完璧はいないという事。
「今日は遅かったのね」
「すみません。またすこしありまして」
「もぉ、架乃もマナちゃんも喧嘩しちゃだめよ?」
「はーいっ!」
……それより今日もまた真緋が家にやってきた。
真緋はこの世界で唯一、わたしが恋のライバルと認識している女でいつも兄さまの事で喧嘩になる。
できればそんな恋敵は兄さまの近くに置いときたくはないのだけれど、わたしは大切な人は正々堂々、ずるい手は使わないで手に入れたいから今日も家に入れてあげた。それにわたしには真緋には負けない自信があるから。
さて、今日の夕飯を作り始めようか。
冷蔵庫の中身を確認しながら一応お義母様に希望を聞いてみる。
「お義母様。今日の夕飯の希望などはありますか?」
「うーん、……あたしは特にないけど」
「はいはい! あたし今日オムライス食べたい!」
「却下」
「えぇ!?」
「理由は真緋が出した意見だから」
「ひどっ!」
ついつい真緋にはキツく接してしまう。まぁ献立も思いつかないし食材もある事だし今日はオムライスにするか。
「というのは冗談ですが、兄さまもお義母様もオムライスでよければそうしますがどうですか?」
「俺はオムライスでいいよ」
「あたしも」
「やったーオムライスだぁー!」
ブレザーをハンガーにかけ、エプロンをつける。フリルのついたピンクのエプロン。これはわたしの14才の時の誕生日に兄さまが買ってくれたもので大事にしている。
「ソースはどうしますか?」
「じゃあ俺はデミグラスで」
「お母さん、今日はホワイトソースの気分」
「あたしはミートで」
「了解しました。40分程度で出来上がりますので待っててくださいね」
「そうして手を洗いながら調理の順序を考えていく。まずはチキンライスをつくるか。
「じゃああたし一回家に帰るね。パジャマとか持ってくる。」
「俺も着替えてくるか」
真緋と兄さまは階段を使って2階に上がって行く。
真緋の家は真横なのでベランダから渡ることができる。真横とは言っても6メートルほどあるので普通の人なら渡れないのだけど。
「架乃。お母さん何か手伝おっか?」
「いえ、大丈夫ですよ。お義母様はお仕事でお疲れでしょう。ソファーで休んでてください」
「……じゃあ今日もお言葉に甘えてそうしよっかな」
華さんは大学の准教授のしている。確か分野は情報関係だった気がする。そういう才能が兄さまのを形作ってるのだと思う。
ちなみに現在ニューヨークに単身赴任中の華さんの夫である裕文さんもネットセキュリティ会社に勤めている。一家揃ってそのような分野で活躍している。
まず鶏肉を小さく切って塩コショウを振り、玉ねぎと人参をみじん切りにして油をひいたフライパンで炒めていく。
そうしているうちに階段から誰か降りてくる音がする。兄さまだろうか。
「架乃、俺にも手伝わせてくれ」
部屋着に着替えた兄さまは尋ねてくる。いつものスエット姿だ。
「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ」
「いや、俺も暇なんだ。それに架乃まだ着替えてないだろ? 俺がやっておくから着替えておいで」
微笑みながら手を洗う兄さまにわたしは危うく包丁を落としてしまうところだった。顔が熱い。惚れ直してる場合じゃないぞ、わたし。
そういえば、帰るのが遅くなったから制服のまま調理していたんだった。
「そ、そうですか? ではその鶏肉と玉ねぎと人参をフライパンに入れて炒めてください。あ、あとバターをひとかけら入れてください。それではお願いします」
「おうよ」
……ニヤニヤしてないだろうか。わたしは今ニヤニヤしてないだろうか!? ……してるな。はやく戻れわたしの顔~。
やっぱり兄さまは優しい。それは昔からずっと変わらなくてこれからも変わらないだろう。兄さまの優しさのおかげでわたしは立ち直る事ができたし、この家に来る事ができたんだから。
部屋着に着替えたわたしは兄さまとオムライスを作った。
兄さまに照れすぎて、わたしの映像記憶がうまく働かなくてレシピが思い出せなくなった場面もあったけどなんとか全部つくる事ができた。
料理をしてる時に、将来に必ずこの人と結婚してまた一緒に料理を作ろう、と思ったりした。
ー+ー+ー+STUDYINGー+ー+ー+
「うぅー……」
夕食を食べた後、いつものようにリビングで宿題をする。
今日は特に宿題はでてないので予習だけど。
「なぁ架乃。admireってどういう意味だっけ?」
「”感心する"や”賞賛する”などです」
「あー、そうそう。ありがとうな」
ちょっ、兄さまその笑顔は危険です!
「い、いいえ……」
「うぅー……」
「さすがは架乃ね」
と華さんから賞賛の声。
「うぅー……」
「俺も架乃みたいに映像記憶欲しいなー」
「うぅー……」
「完全には無理でも、訓練すr」
「うぅー……」
「れば誰でもできる……って真緋うるさい!!」
「……だって、……だって、……分かんないんだもん」
うめき声の主はべそをかきながら言う。声は弱々しい。
「そんな事しらないわよ! 兄さまの勉強の妨げになるような事はやめなさい!」
「まぁまぁ。……しょうがねぇなぁ。俺まだ時間に余裕があるから教えてやるよ。教科は?」
なっ!?
「……数学」
「なんだ数学かよ。そんなもん簡単じゃないk」
「あたしには簡単じゃないの!! ……う、うわぁぁぁーん」
真緋爆発。ついには机に伏せて泣いてしまった。案外、真緋は弱い。
「ああっ! ちょっ、真緋泣くなって!」
「奏~……。女の子泣かせちゃダメじゃない」
華さんからジト目を向けられた兄さまは慌てふためいた様子で真緋をなぐさめている。
「真緋? 俺が優しく教えてやるから勉強しようぜ? い、今どこやってんの?」
「…………ひっく……ひっく……く、く、空間べクトル」
くっ……、兄さまったら真緋の頭撫でちゃったりして……! すぐ女は泣けば許されると思って……!
「どの問題が分からないんだ?」
「……これとこれとこれとこれとこれとこれ」
「見開き全部じゃねーか!」
「……奏……教えて?」
「うっ……。じゃあまずはここからやろう。これはな?‥‥‥」
兄さま……! 罠です! それは罠です! 真緋の上目遣いと涙目に惑わされてはいけません!
「……なるほど。じゃあこれは?」
「ここは、‥‥‥」
「……ということはここはこう?」
「うんそう! よくできたな真緋!」
頭を撫でられた真緋は兄さまにもたれて甘え始めた。兄さまも「勉強しろ」なんて言ってるけどなんだか楽しそうだ。
そんな光景を見てわたしはシャープペンシルを折りそうになる。胸が苦しい。やめさせなきゃ。真緋を怒らなきゃ。脳で考えていても声は不思議とでない。
横に座ってパソコンをいじっていた華さんは目を細めながら言う。
「こらこら、仲睦まじいのはいいけど勉強しなさいな?」
「そうだぞ。ほら、次の問題いくぞ」
「はーい」
華さんの鶴の一声で2人のスキンシップはとまったけどわたしの心はどんよりしていた。
わたしの顔を見た華さんがわたしにだけ聞こえる声で言ってきた。
「架乃。マナちゃんに負けたくなかったら架乃にだけの魅力で攻めるのよ?」
「わたしだけの……?」
「そう。手始めにこれを貸してあげるから頑張りなさい?」
そう言って、華さんが渡してきたものは鍵だった。
「……これは?」
華さんは、立てた左手の人差し指を顔の横に置き、
「お・風・呂・の・か・ぎ(はぁと)」
と言った。
「…………」
さっきの話はなんだったの!? 思いっきり体で誘惑させる気じゃないか!!
「奏が入ったら、マナちゃんに気づかれないようにこっそり入るのよ?」
「……ありがとうございます華さん。やってみます」
相楽家のお風呂への扉には鍵が付いている。兄さまはいつも鍵をかけているので一緒に入るなどのドキドキイベントはできなかった。小さい時はよく3人で入ったりしたのに。
それでも今は、存在を知らなかったお風呂場の鍵がある。兄さまの気持ちをわたしにまた向けてもらおう。
わたしはお風呂を入れに行くべく席を立った。
ー+ー+ー+BATHINGー+ー+ー+
「それじゃ、お母さんお仕事行ってくるから。奏よろしくね」
華さんは予備校の講師も副業としてやっているから夜はいない日がいない。――つまり真緋がいない時は2人きり。
「いってらっしゃい」
「気をつけてくださいね!」
「いってらっしゃいませお義母様」
「奏~? あたしがいないからって暴れちゃダメよぉ~?」
「うん…………本当に行くのか?」
「え? 行くけど?」
「今日だけは……! 今日だけは1人にしないでくれ……!」
「残念だけどお仕事だから無理ね。じゃあねっ!」
3人で手を振って見送る。
そうか兄さま。そんなにわたしたちと一緒に寝るのが嫌なのか。
「さぁ兄さま。お風呂に先に入ってくださいな。 わたしはまだやることがありますから」
「そうか。真緋、俺先に入っていいか?」
「いいけど……。んー。架乃、何か企んでない?」
「……え?」
さすがね真緋。第六感――予知能力を発揮してきたか。
「そんなわけないけど」
「本当に?」
「ええ。本当よ」
「それならいいんだけど」
そう言って真緋はリビングに行ってしまった。なんとか疑いは晴れたようだ。
「じゃあ俺行ってくる」
「はい。ごゆっくり」
兄さまがお風呂場に行ったことを確認してとりあえず2階にある自分の部屋に向かう。兄さまがお風呂に入って落ち着いた頃に行こうと思う。
――10分後。
こっそりと風呂場に近づくわたし。
真緋の地獄耳に見つかったら大変だ。息を殺しながら脱衣場の扉を開ける。
そして、服を脱いでいく。心臓の音が凄まじい。
脱ぎ終わってからバスタオルを体に巻き、華さんにもらった鍵を扉に差し込む。軽く捻ると、ガチャンっと音を立て鍵が開いた。
「ん? あれ?」
扉の向こう側から声が聞こえる。声を聞いて心音がさらに波打つ。
「今、鍵が開く音がしたような気がしたんだけど……?」
覚悟を決めろ、わたし。
『ガチャ』
「なわけないか…………え? うわぁあ!!!」
扉に入ると兄さまは浴槽に入っていた。まったく予測していなかったのか、目を大きく見開き、口をパクパクしている。
「ど、ど、どど、ど、どうして……」
「か、鍵を手に入れましたので」
「と、とりあえず出てくれ! 早く!」
兄さまはわたしから目をそらしながら叫ぶ。……チラチラわたしの体を見てるのはバレてないと思っているのかしら」
「え? いや、わたしは」
「早く!」
「奏ー!? 大丈夫!? 何か叫んでたけど!」
廊下の方から声がした。こちらに走ってくる足音も聞こえる。
わたしと兄さまは顔を見合わせる。まずい。
今の状況を見られては殺される。2人とも裸だ。
「とっ、とりあえず中に!」
「は、はいっ!」
兄さまはわたしの手首を掴んで中に引っ張る。そしてすかさず扉の鍵を閉める。
「奏!?」
「大丈夫だ。問題ない! 少し転びそうになっただけだ」
「ふーん。気をつけなよー?」
「おう! …………ふぅ」
真緋の足音が聞こえなくなると兄さまは安堵の表情を浮かべ、息を吐き出す。
……しかし……
「さあ架乃。そっと出て行くんd…………ぎゃあっぶっ!!」
驚嘆の声を手で口を覆い殺す彼に対し、わたしは腕で必要最低限の部分を隠す。しかし隠せるはずもなく。
「さっき兄さまに引っ張られた時にタオルが取れてしまいまして……タオルが浴槽に入ってしまいました……」
「……なんてこった」
一糸まとわぬ姿で対峙する兄弟は互いに顔が紅潮しており、わたしは俯き、兄さまは背中をわたしに見せた。
「じゃっ、じゃあ俺体洗うから架乃は湯船に浸かってなよ。あ、こっち見るんじゃないぞ!?
「は、はひ」
声が裏返る。まだお湯に触れていないのに体が熱い。
やっぱり何事にも心構えというのはあるべきであって……。
沈黙の中、わたしは湯船に浸かり、兄さまに背を向けた。
シャワーの音の中、わたしは思い切って聞いてみた。
「あの兄さま」
「え、ん?」
「1つ尋ねても?」
「うん」
「……見ました?」
「ぶっ!!」
盛大にふいた兄さまは咳き込む。この問題は解決しとかなくてはならない。
「えっと」
「正直にどうぞ」
「み……」
「み?」
「み…………」
「み?」
「みえ……」
「みえ……?」
「……見えました」
「……そうですか」
……まぁ当然だけどね?一緒にお風呂入るんだから。
「どこまで?」
「……」
「正直にどうぞ」
「む、胸を一瞬……」
思い切って聞いてみようか。
「どうでした?」
「……ノーコメントで……」
もう見られたし。大体、今夜見せる予定だったし! 少し早まっただけよね。 もうこうなったら……。
「奏兄さま?」
「な、何?」
「……揉みます……?」
「もうやめてくれェェェェェェェェ!!」
ものすっごい勢いで風呂場から出て行く兄さまを見て、兄さまをからかうのに少し快感を覚えたわたしは浴槽から出てシャワーの捻る。
さて、今夜は覚悟してくださいね? わたしの奏兄さま。
次回から始まります第2章!
コンセプトは『体育祭』!
これからもどんどんラブコメさせていきますよ♪