#6 Phase①~白ユリ編~
第一章では、二章目は体育祭を書くと言っていましたが、体育祭はまた他の章で書く事にします。変更すいません。
【SIDE 相楽奏】
――事件はいつも突然起こるものである。
恐れていた事が現実となるのには時間がかからなかった。
それは特別会から2日後に起きた。
特別会が行われて2日経ったある日の朝。
今日も母は不在であるので、朝食は架乃が作った。サンドイッチとスクランブルエッグ。とても美味しそう。
架乃はいい嫁さんになるな、と思いながらそれを食べていた時の事。
「とうっ! 真緋参上!」
物音がしなかったのでいつ来たかは分からないが真緋がいつものように我が家へ来た。
「兄さま、警備会社へ連絡しましょう!」
「なっ、あたしは不審者じゃないわよ! あっ、サンドイッチだぁー、おいしそー!」
「おはよう真緋。ちゃんとお前の分までとってあるから安心しろ。ほら」
「おはよ奏。じゃあ遠慮なくいただきまーす」
「……もうっ、本当に兄さまは真緋に甘いんですから。真緋、行儀が悪いですわよ。座って食べなさいな」
「はいはーい。はむっ,おいしぃー!」
「……うるさいです、真緋」
いつもどおり3人で囲む食卓。ここにいるだけで心が和むな。
「あっ、そうそう。ちょっと聞いてよ!」
「何だよ真緋」
真緋は唐突に食べていたサンドイッチを置いて、真剣な顔で言う。
「今日…………なんか悪い事が起きるよ!」
溜めたねぇー。2秒ぐらい溜めたな今。ていうか悪い事ってなんだ。ふわふわしすぎだろ。
「……何故?」
「あたしの第六感がそう告げている!」
バンっ、と机をたたいて主張する真緋。真剣な顔をした真緋は久しぶりに見たので思わず身構えてしまう。
「どうしてそう感じた……?」
「――いやぁー、何か今日髪の毛の調子が悪いんだよねー。起きたときすっごいハネてたの。くっりんくりんに」
「……信憑性にかけますね」
「信じてよ! あたしの勘は当たるんだから」
「まぁ真緋のシックスセンスには信頼してるんだけどさぁー……」
胸を張って言う真緋に俺たちは何とも言えない。
髪のハネ具合で今日悪い事が起こるって言われてもねぇ……。
「ちなみにどんなこと?」
「……それは分かんない」
役に立たない占いだな。
「はぁ……とりあえず真緋の胡散臭い占いはよく当たりますから。兄さまも真緋も今日は気を引き締めて行きましょう。会長と副会長は今日はいませんからね」
「えっ、マジで?」
「はい兄さま。今日は商談があるとかで」
「梓先輩は……?」
「付き添いです」
「いらねぇだろその役割……」
そうして俺たちは、一抹の不安を持ったまま学園へと向かうのであった。
しかし、そんな予言がなされたが授業は問題なく進み、ついに昼休憩の時間となった。
架乃達からの連絡もない。
これは真緋の言う事を信じすぎただけだったかもしれない。
大体、真緋だって普通の人間なんだし、そんな髪の調子ごときの占いを鵜呑みにする方が馬鹿だったのだ。今までの真緋の嫌な予感というのは偶然に過ぎなかった――――って思ってた時期もありました。
トラブルは俺が真智と弁当を食べている時に起きた。
突然、携帯がピピピピと音を出しながら振動し出したので見てみると、その文面は、俺が管理している学園のコンピュータにウイルスが侵入したというものであった。
しかし、こんな事は日常茶飯事なのでいつもなら人工知能ソフト(父作成)に対処を任せるところだったが、真緋の言ったことが気になり俺は生徒会室に向かうことにした。
「――ん? 何だこの音?」
生徒会室の目の前に着いた時、扉の向こうから何か音がしているのが聞こえた。急いで扉を開けると、耳を覆いたくなるほどのけたたましい警告音が鳴り響いていた。
「!! 何だよこれ……!」
コンピュータの前にすぐさま行くと、5つあるコンピュータのうちの上段1つには、
『It was invaded!|(侵入されました!)』。
もう1つには、
『Big injury is seen in an executive.|(監視プログラムに大きな損傷が見られます。)』の文字と、横には白のユリを形どったマーク。
上段の2台は学園内のネットワークを管理、防御するものなのでこの2つが破られたとなると、かなり危険な状態であると言える。
「……おいおいマジか。俺のプログラムが……」
……どういうことだ? 父が作った防御ソフトが全く通じてない。
今までそんな事がなかったので頭の中がぐるぐると混乱した。
そんな俺の頭脳をある単語が駆け巡る。
――――『FLEUR-DE-LIS(フレダリィ)』?
奴らの仕業と考えるのが妥当であった。
根拠はこのハッキング能力と、白のユリ。フレダリィのマークは白のユリだと会長から依然聞かされていたのを思い出した。
今までたくさんのクラッカーがいたが、今回のは明らかにレベルが違う! しかも両方破壊されているところを見ると集団でのサイバー攻撃かもしれない!
こうなると下段3つのPCも危険と分かったので、こちらも攻撃しようとデスクの前に2台にキーボードを出した瞬間に気づいた。全身から嫌な汗が吹き出る。
「――――花恋が危ない……!!」
直ぐさまヘッドホンを装着し、架乃のインカムへ連絡する。
〈…………〉
「…………早く出てくれ……!」
その間に花恋を保護しておこうと考えた俺は、真緋へメールを送ることにした。
花恋に付いている発信機が示す場所は3階――女子更衣室!
『まなひすぐ3階女子更衣室にむかe』
送信。
そうしている間に架乃が通話に応じた。
〈もしもし兄さま? どうかなさいm〉
「架乃! 今どこだ!!」
〈へっ!? え、えと、……正面玄関ですけど?〉
「花恋は!? 花恋はどこにいる!」
〈えっと……花恋さんなら、わたしがついさっき更衣室で着替えていた時に、兄さまにメールで呼び出されたとかでどこかに出て行きましたけど? 一緒にいるんじゃないんですか?〉
「はっ? 俺は呼び出してなんかないぞ? そして一緒にもいない」
〈そんなはずはありませんよ! わたし携帯の文面見せてもらいましたから〉
「……どういうことだ?」
俺は花恋に今日メールを送っていない。なのに、花恋の携帯には俺からの呼び出しメールが届いた。
「じゃあ架乃、今花恋はどこかに呼び出されているということか?」
〈はい。そうなりますね〉
さも当然のように話す架乃。これもおかしい。何度PCを確認してみても、花恋は女子更衣室から動いていない。が、彼女は今呼び出されている事になっている。
そのとき真緋から通話要請がきた。真緋を交えてのグループ通話に切り替える。
「もしもし」
〔ねぇー奏ー。女子更衣室行ってみたけど人誰もいないよー? その代わり脱ぎ捨てられた女子の制服がたくさんあるんだけど。っていうか奏、誤字多くない? 何を焦っt〕
「……おい真緋。本当に人はいないんだな?」
〔えっ……いないけど?〕
〈ほら兄さま。わたしたちA組は次、体育ですから着替えたあと、今グラウンドに向かっているところです。花恋さんももう『体操服』でしたから今頃グラウンドに向かっているんではないですか?〉
体操服?
「…………」
〔……ねえ奏、何かあったの?〕
おかしい。
〈兄さま?〉
おかしい。
どうして花恋の携帯に俺からメールが届く? どうして花恋は発信機に示めす女子更衣室にいない?
誰かが生徒会室に侵入し、俺のパソコンからメールを送ったのだろうか。いや違う――ここにいる生徒ではこのパソコンを開くことはできない。大体、生徒会執行部の生徒証でしかここの部屋には入れない。
〔おーい奏ー? 大丈夫ー?〕
発信機の故障か? いや違う――発信機のデータはハッキングされていない下段左側、開発用PCに送られてくる。つまりデータは正しい。
〈兄さま、応答してください。どうかなさったのですか?〉
脳細胞を全力で働かせて考える。
――――学園用PCのハッキング。
――――俺から架乃へのメール。
――――発信機の示めす女子更衣室。
――――体操服。
PC×メール=!。発信機×体操服=!。
俺の脳内に電流が走った。
「そうか解ったぞ!」
〈ひゃっ!!〉
〔ふぇ!?〕
「…………っ!」
腕時計を見ると、ハッキングに気づいてから20分近く経っていることが分かった。
――花恋が危ない!
〈突然大きな声出さないでくださいよ兄さま〉
〔ちょっと! 奏あたしの寿命今ので3分ぐらい縮まったわよ!〕
「……2人とも落ち着いて聞いてくれ」
〈はい?〉〔……うん〕
俺は自分を落ち着けるように一度深呼吸をしてこう言った。
「――花恋は拉致されたかもしれない」
会長や梓先輩がいない中、俺たち3人の戦いの幕開けのような気がした。 『Phase②へ続く』
白ユリ編スタートです。
今回は謎解き要素に関してはかなり簡単にして、アクションシーンの方に力を加えたいと思っております。
乞うご期待!