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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かき揚げ

作者: 村 松芳

何かする度に怒声を浴びせられ、殴られた。

何がいけないのだろう?

自問自答をする日々が日常になっていた。

家に居たのは家族ではなかった。血だけが繋がっている、そこらで行き交う通行人と同じレベルの他人だった。

あたたかい家庭からは随分とかけ離れていた。

毎日が地獄。

体には傷が嘲笑う様に増えていった。

一つ。また一つと。

居場所は無かった。部屋の隅は、いつしか俺の定位置になっていた。

家にだけではない。学校でも居場所は無かった。

机の上に置かれた、とても愛らしい花。

板上には、子供が無邪気に書き殴った様な文字やアートと呼ぶに相応しい傷跡の数々。

机の中は、ゴミや刻まれた教科書で満たされている。

誰がやっているのかは明白だ。

周りを見てみろ、嘲笑っている奴等が視界に入るだろう。

何度も俺の方を見て笑い話のネタにする。どうやら俺は、このクラスのスターになっているようだ。

先生やクラスの他の奴等は助けてはくれない。

助けに入らない奴等の根本的な思考は「自分が可愛い」、当たり前だ。だって、俺も我が身が一番だ。

学校でも家でも、自分の居場所は無い。助けてくれる人も、愛してくれる人もいない。人の温もりと言うのは何なんだろうか。自分は何の為に生まれて来たのだろうか。

しかし、偉大なる有限の時間は、どんな問題でも解決してくれた。

最近は、傷をそれほど作らなくなった。暴力を振るわれる回数が日に日に減って行くのがわかる。それどころか、家族が笑って食事をとるなんて極普通の当り前なシーンが、我が家庭に映し出されている。

何故かは解らない。解らなくても良いと思った。只、この幸せが続けば良いと思った。

しかし、夢の様な現実は直ぐに壊れる。

少しずつ幸せになっていった明る日、家は何時も以上に静かだった。今日は、特別な日で家族全員が家にいる日だった。

しかし、人の気配が全くしない。

余りの静けさに俺は、不信に思いリビングに向かい、リビングのドアを開けた。




しかし、そこにリビングは無かった。



リビングだった空間は、赤色の液体と、飛び散った肉体と、立ち込める異臭で完全に別の空間になっていた。

俺は一人で嗚咽を漏らした。

一人で泣いた。

一人で叫んだ。

一人で助けを求めた。

一人で肉片を掻き集めた。

一人で血をお皿ですくった。

一人で。

ヒトリで。

独りで…。

ヒトリデ……。


何処まで行っても自分は一人だった。


独りだった。


ま、全部、妄想だけど。

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