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されど龍は誰が為に在を成す

お待たせいたしました最新話です


今回も些か短めになりましたが、よろしくお願いいたします

 

 宗助の案内よって連れられたのは、袋田の滝から車で20分ほど離れた宿泊施設だ。表玄関前を過ぎて車は地下駐車場へと走っていく。

 走行による振動であばら骨に鈍い痛みを感じる雄介は、隣に座る真理に悟られない様に奥歯をかみしめて痛みに耐え、到着と同時に車から降りる。その後は宗助のあとに付いて行き、フロントロビーに到着。宗助が受付カウンターで従業員と一言二言交わしている間、真理が雄介の脇腹を突き始めた。

「ねぇねぇ、痛む?」

「やめんか馬鹿」

 強引に真理の頭を押しのけて、用が済んだのであろう宗助が二人の下へとやってくる。どうにか部屋を二つ、雄介と真理の分を工面できたと言う。これまで殆ど相部屋だったことが続き、ホッとした反面少し寂しさを感じる。とはいえ、部屋を確保できただけでも有り難いことは変わりない。

 部屋の工面をしてくれた宗助に何度も頭を下げた二人は鍵を受け取ると、鍵に掘られた指定の部屋へと向かう。

 ホテルの内装は、少し寂れた様な印象を持つ。本来であれば額縁や窓のヘリなどの人の見える場所には埃は残さないのだが、少量ではあるが積もっていた。恐らくは水龍の影響で宗助たち以外の宿泊客は少ないのだろう。冷静に考えれば、異形がすぐ近くに生息し尚且ついつ餌になるかどうか分からない恐怖がある。

「水龍の影響か他の客はそんなにいないんだねー」

「恐らくは、水龍討伐の参加者の多くがここで宿泊していたんだろうよ。んで、さっき二人除いて殆ど全滅したって言うから、それを踏まえると宗助さんには礼の一つはしないとな」

「そだね。にゃら存分にご好意に甘えるとしますかにゃ」

 やがて指定された部屋にそれぞれ到着。久々の部屋が別になった事でゆったりとした気分になった雄介は、部屋のテレビの電源を入れ、水龍に関する報道がやっていないかを確認する。

 無人偵察機(ドローン)の導入により、人が立ち入れない場所などに立ち入り映像を入手する事が最近の技術の進歩で可能になった。誰かがそんな事を謳ったのかは定かではないが、今現在使用しない団体は無いだろうと言えるほど普及している。最近では動画投稿サイトなどでドローンを使った異形関連以外の動画もアップされている。それらの中で、たった一件、たった一件だけではあったが(くだん)の、水龍の住まう袋田の滝付近の動画がアップされていた。投稿した時間はつい一週間ほど前だ。

 そこで雄介は早速動画を再生する。

 ドローンの持ち主らしき人物の顔がモザイク処理されており、握られたコントローラーを操作するとドローンは持ち主の手を離れてゆっくりと上昇する。起動した場所は袋田の滝に通じるトンネルの入り口。ドローンはトンネル内部ではなく、高く上昇して外側から滝へと向かう。

 映像内に滝が見え始める。滝つぼ付近は不鮮明でよく映っておらず、白くぼやけている。ここで再生時間が終了間際を差していた。終盤辺りで滝つぼから水の柱がいくつも吹き上がり、内蔵されているマイクにそれらしき鳴き声もスピーカーから聞こえてくる。最後は無事に持ち主の下に戻ったところで動画は終わった。

「……いると見て間違いないな、これは」

 しかし、全体像は映っていなかったが先程の負傷者様子を見る限り、一筋縄では行かないと思われる。

 仰向けになってベッドの上に横たわる。部屋の天井を見つめながら頭の中で水龍相手のイメージトレーニングをする。雄介の刀は、刀身の字に相当する属性の異形の一部分にでも触れた瞬間、その異形の能力と姿かたちを吸収し、場合によっては雄介の声に応え力を引き出す事が可能である。

 大狸戦において、咄嗟の事だったが九尾の『超』の力が引き出され討伐に成功できた。その時は刀身の耐久性と切れ味が増すのではなく、今になって思えば生命(いのち)を斬るという感覚に近かった。

 水龍戦でも同じような出来るだろうか。『幽』の字の力が発揮するのだろうか。

 そんな考え事の中、誰かが部屋のドアをノックする。鍵をかけていなかったので入室の許可をだすと、入って来たのは宗助だった。

「やぁ、少しいいかな?そろそろ昼食の時間だから、もしよければ君ともう一人の彼女も一緒にどうかな。用意していた分が……」

 大量に余っている。

 恐らくは元々食べる筈だった仲間たちは既に亡くなっているからだ。宗助は雄介に昼食の誘いを申し込んだのだ。これから共に水龍を討伐する事にもなるだろうとの事で、既に真理の方も昼食の誘いを受けたと言う。断る理由もない雄介は快く誘いを受けた。





 昼食の会場は雄介と真理を合わせた人数では広すぎるフロアで行われていた。

 空いている席の殆どは、先の水龍戦において死亡した異形狩りたちが座るべき席だった。

 その空いている席に座るのは、戸惑いを隠せていない雄介と真理。しかし宗助は二人に是非にと誘う。用意した食材を無駄にしたくないのかどうかは二人にとって知る由はない。

 宗助の号令で一分間の黙とうが始まった。

 雄介は黙祷の後、フロアの中を見渡した。

 元々大勢の異形狩りたちが使う予定だったためか、大きめのパーティーホールは今の雄介達にとって広すぎる空間となっていた。もし、先の水龍戦で死傷者が出ず無事に退治できていれば、とても賑やかな祝勝会になっていたであろう。

 しかし、現実は追悼の意を表した食事会。そう思うと雄介は途端に食欲を無くしてしまう。

「……こんな状況でも食ってられると思ったが、そうでもねぇか」

「あー、うん、まー……何か……ね」

 こういう時に限って真理でさえも食欲が失せていた。

 御通夜状態の宗助たちはそれぞれ亡くなった異形狩りたちの事を偲んでいた。合って間もない、または長年手を組んでいた仲間が一日にして突然いなくなってしまったのだ。失ったものの大きさは計り知れない。

 居た堪れなくなった雄介は食事を何とか済ませ、席を立つ。

「私置いてどこに行くのさー」

 去ろうとする雄介の背を見つめていた真理が少々恨めしそうにしていた。口で「うらぎりものー」と形を作っていたが、その口で「好意に甘えよう」と言ったのを忘れたのだろうか。





 御通夜状態の食事会から抜け出した雄介は自室に戻り、刀を鞘から抜き出して構えを取り意識を刀身に送り込むように集中する。

 『超』と『幽』の字に封じ込まれた九尾と死霊使い。彼らと疎通が出来れば、少しは刀の力を引き出せるかもしれない。しかし、いくら集中しようとも無駄に時間が経過するだけで何も生まなかった。

 そういえば、と日光で死霊使い(ゴーストマスター)を刀に吸収した時の事を思い出した。あの時は確か死霊使いの鞭の一部だった人魂が『幽』の字から光の玉となって現れた事があった。ただあの時はバジリスクに殺された事を言う為だけだった。だから『幽』の字も、そして『超』の字も決して雄介に力を貸さないことは無い。

 あの時の「偶然」を「必然」に変えるためにも、雄介はもう一度刀に意識を向けて集中し直した。





 食事会が終了して、真理は気分転換に温泉施設に足を運んでいた。

 真昼の入浴もいいものだ、と思いながらじじむさいため息を吐く。

「っかー、良い湯だにゃー。ってゆーか、、雄介今頃何してんだろう」

 足を組み、浴槽内の壁際にもたれながら昼食会場で別れた相棒を思い空を見上げる。思えば今日まで雄介との旅に同行して、家にいた時より様々な景色や人、そして異形による被害などを自身の目で見ることが出来た。そう思うと、思い切って家出して正解だった事に真理は改めて実感した。それと同時に、最近やけに肩が凝るなと肩に手を回す。





 その日の夜。

 袋田の滝の辺りには、既に物言わぬ骸が幾重にも重なり大なり小なりの山が出来ており、カラスが(ついば)んだであろう跡がいくつも出来ていた。恐らくそれらは遺体を回収しない限り日に日に増えていくに違いない。

 その骸の内の一つ、濁った眼球に映る滝つぼが静かに盛り上がると一つの太い筋が生まれた。しかし、それはただの筋ではない。先端には怪しく光る白い二つの眼があり、夜空に浮かぶ月だけを見つめていた。そこにある月に対する感情は、恐らく誰にもわからない。もしかすると、何故月を見上げている理由すらないのか。

 やがて気が済んだのか、それは静かに滝つぼの中に消えて行った。





続く

ご感想お待ちしております


因みに私事ですが、日々「これが書籍化してアニメ化しねぇかなぁ」と叶わぬ妄想を抱いております

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