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されど獣は誰が為に牙を剥く

どうもお久しぶりです


約半年ぶりの更新と相成りました


ここまで執筆が遅れましたこと、大変申し訳ありませんでした。

 

 犬神刑部と対峙する雄介。壮絶な狸狩りが今始まろうとしていた。

 狐などの様々な力を宿した刀を持つ雄介と、妖力を宿した犬神刑部は尚も睨み合いつつ、互いに相手の出方を確かめていた。

 先に動いたのは犬神刑部だ。咆哮を上げ威嚇し、血走った眼をぎらつかせて雄介に迫る。大地を蹴る度に破壊した建物の瓦礫等が飛び散っていき、他の建物に直撃する。真っ向から来る大狸を雄介は右に転がるように避け、誰かの所持品であった拳銃を手に取り、引き金を引いた。一発の銃弾は犬神刑部の左わき腹に直撃し、肉を抉って体内に侵入していく。

 激しい痛みが犬神刑部を襲い、大狸は苦痛の悲鳴を上げる。初めての街中の戦いでこの咆哮を雄介は聞いていた。回収した拳銃の銃弾はさっきの一発のみだったので投げ捨て、痛みで暴れる犬神刑部に近づいて銃弾に抉られた部位を切り捨てる。追い打ちが成功し、赤黒い血が犬神刑部の身体から流れ出る。

「…はぁっ!」

 衣服が獣の血で完全に染まる前に反対側に移動し、更に二度切り付ける。その時雄介は何かに叩き付けられた。一瞬ではあるものの感じ取った毛深いモノ…。それが犬神刑部の尾だと気付くのに時間がかかってしまった。そのあと地面に叩き付けられ二撃、建物の壁にうち飛ばされ三撃目を受けてしまう。

「ぐっ、……クソ…が………」

 身を起そうとするも、あばら骨が折れておりその痛みから体の身動きが取り辛くなった。幸いなのか折れたのは一本。更に数本にヒビが走っていた。改めて草津の被害状況が目に入った。最初の足湯も、昼食に訪れた食堂も、今は瓦礫に埋もれているか瓦礫そのものになっていた。道には砕かれているコンクリート片や力なく倒れている異形狩り達の姿。誰か自警団を呼んだのだろうか。だとしたらそろそろ到着してもおかしくないし、もしかしたら道中で別の異形を対処しているのかもしれない。

 真理はどうだろう。先程の負傷者を安全な場所へ無事連れて行ったのだろうか。もしそうだとしたら、いつ戻って来るだろうか。出来ることなら助けて欲しい。いつになく弱気になっていた雄介は、眼前で唸る大狸を睨みつけて刀を杖代わりにして立ち上がる。立てない程の激痛だったが、今日まで何度か受けた事で慣れてはいる。痛みを我慢しながら刀を構え直し、目標を見据えて呼吸を整える。『幽』と『超』の力が今この瞬間雄介に力を貸すとは限らないし、何より今は……。

「その不細工な面ァッ、正面から叩き斬ってやるぁ!!」

 切っ先を天高く掲げ、気を高ぶらせて迫る犬神刑部の真下に滑り込み喉元から刃を走らせる。後は柄をしっかりと、強く、力を込めて握るだけだ。

返り血が雄介を紅く染めていく。着ていた安物の服が、最初からそうであったかのように。

 勢いが乗った大狸が刀身によってその身が削がれていく。それと同時に獣の絶叫が周囲を響かせていた。それは大狸の断末魔で、刀身が進むたびにその音の大きさは次第に大きくなっていくが、終いには音は出なくなっていた。

 そうして残ったのは、返り血で真紅に染まった雄介と大狸の死骸だった。





 大狸の死骸処理の合間に毛皮をはぎ取った雄介は、直ぐに草津役所へと向かい換金を済ませて無事だった宿泊施設の温泉で犬神刑部(・・・・)だと思われていた大狸(・・・・・・・・)の返り血を洗い流して、浴槽の湯船に浸かっていた。

 頭の中ではここに来てからの事が交錯していた。九尾との邂逅、その九尾が刀身の『超』に吸い込まれ、その後には狸の異形の襲撃。この度に出てから幾度となく体験した出来事だったが、刀についてはいつになっても驚きを隠せない。特別な手順、特別な素材、日時などなくただ普通に、父の指示を受けながら自分で打ったあの刀。日光では死霊使い(ゴーストマスター)群馬(ここ)では九尾が刀に吸い込まれて『超』と『幽』の字に力を宿した……と言えばいいのだろうか、それしか言い方が見つからなかった。

 少しして、雄介は湯船から上がり浴衣を羽織ると宿泊に使っている部屋へ向かう。

 道中では次にどこの都市を回るかを考えていた。

 異形が現れて百年。首都は京都に移っており、旧帝都は現在荒野と化している。旧帝都とは、元来の歴史を辿ると『東京』と言う都市になるはずだったのだが、異形出現に伴い大打撃を受け衰退。当時の天皇は難を逃れ京都に居を移し、議事堂は新たに副都市である大阪に建てられた。

 これらの事から回るのは旧帝都、京都、大阪を除き42の都市だ。それらの内次はどこへ行こうかを真理と決める為にも、泊まる部屋へと雄介は歩を進めていた。

 そしてその部屋の前まで来ると、襖を隔てていると言うのに鼻を刺すようなきつい匂いが雄介を襲った。内心嫌な予感をしつつも開けて奥に進むと、四聖銃を分解し、刺激臭を放つ液体を使い整備する真理の姿が雄介の視界に入る。

 またこれか、と思いながらも窓を開けて真理に言った。

「部屋の外まで匂いがするぞ。換気くらいしろよ」

「んー」

「整備するのはお前の勝手だが……少しは配慮ってものを知れ」

「んんー」

 生返事。言っても変わらないし、実行しない。言うだけ無駄であることを再認識した雄介は全開にした窓に向かう。部屋の中の刺激臭は換気され、新鮮な空気が入り込む。

 この刺激臭のする機械油は、特殊な素材を特殊な工程で生成したもので、もとは真理の実家に四聖銃と共に保管されていた。真理が家を出る際に持ち出して、今日まで何度か屋内で使用すると先程と同じやり取りが何度も続いていた。

 整備中の真理の耳には雄介の小言など届くことは無く、その上部屋に充満する機械油の刺激臭さえ真理には効かないそれ程彼女は集中していたのだ。余程愛着があるのだろう、隅々まで細かなところまで逃さず綿棒や針の先に油を浸しては気になる個所を突いて行く。

「そーいえばさー、次の目的地どこにするー?」

 唐突に真理が雄介に次の行き先を切り出した。出来ることなら、雄介の刀に力を得られる所が望ましい。しかし、何処に何の力があるのか見当は付かないのが現状だ。今回と前回は奇跡的にと言っても良い。偶然の賜物だ。だからこそ、その【偶然】を【必然】としなければならない。

 次の目的地の候補を真理は既にリストアップしていた。

 一枚目は福島。猪苗代湖にて現出した海龍型異形の討伐。

 二枚目は埼玉。奥秩父にて行方を晦ました異形討伐隊の捜索。

 三枚目は茨城。袋田の滝に出現した水龍の討伐だ。

 それら三つの依頼をじっくりと見つめる雄介。手に取ったのは三枚目の依頼書だ。

 依頼主は地元の農夫。水龍の出現と同時に観光客も減り、さらに地元民が少しずつではあるがそれから逃れるように疎開。このままでは都市としての機能が成り立たなくなってしまうので、そうなる前に……と言う内容だ。

「次は茨城にしよう。水龍……恐らく『水』の字の力が手に入ると思う」

「ん、じゃけってーい!明日のあさイチから行っちゃう?」

「それが良いな、何よりも俺の刀の力を集めない限り、(ゼウス)を見付けるのは困難かもしれないしな」

 そう言って雄介は、外の景色をただ無心に眺めていた。





 翌朝の始発電車に乗り込んだ雄介と真理は車窓の外の流れる景色を見やりつつ、依頼書をもう一度見直していた。

 『幽』と『超』の時のように、異形の力が刀身に触れた瞬間吸収されると予想する。と同時にその方法が適切なのかと疑問が生まれて来る。それで本当に力が吸収できるのだろうか。死霊使いと九尾の場合が特別、もしくはそう言う仕様なのだろうと雄介は考える。車窓から流れる景色のように、雄介の頭の中で固まる疑問や謎は流れて行かず、ただそこに居座って占拠しているかのようだった。

 目の前で淡々と駅弁を頬張る真理が羨ましく思えて来た雄介は、自分の分の駅弁に手を付け始める。

「考えんの辞めたの?」

 雄介が弁当に手を付けた事に気が付いた真理が尋ねてきた。

「一旦の小休止だ。少しは頭の休憩も必要だし、何より腹も減った事だしな」

「そだね、おべんと食べてゆっくりと考えりゃ良いしね」

 言っておかずのレンコンを咀嚼する。確かに真理の言う通りだ。刀の力など今のところ分かっていないと言っても過言でない上に、そもそも何のために――。

 いや、考えても答えは出ない上に、考え出したらキリがない。

 軽く頭を振ってその考えを捨て、雄介は目頭を押さえ始めた。気が付いたら刀の事に思考が固まってしまい、それ以外に思考が偏らなくなる。そうなってしまえば無理に頭の中を洗い立ての洗濯物のように白くするしかない。

 そんな雄介を気遣ってか、真理がいつもボケをかます。そんなやり取りがもう10年近くも続いていた。

 目的地である袋田の滝のあるダイゴタウンまで、あと一時間で到着する。





 同時刻の袋田の滝周辺。特に木々の合間から千をゆうに越す武装した集団が、携行している中で威力が高い重火器の筒先を滝つぼに向けていた。

 辺りは滝の音だけが響き、集団の一人一人が額に汗を垂らし、その瞬間を待ち望む。

 この武装集団は地元の狩猟団とは違う、非正規軍のような部隊だ。彼らは雄介達と同じように依頼書を通して集まった、言ってしまえば有志の狩猟団と例えればいいだろう。

 彼らの中で隊長役を務める壮年の男が双眼鏡で、滝つぼを覗いていた。彼の掛け声一つで鉛の雨が降り始める。その雨に晒されれば大型の異形は、血肉の塊となって変わり果てるだろう。おまけに銃弾は最新鋭の特殊鉄鋼弾(フルメタルバレット)。つい最近出回った品物で、通常の小型拳銃で撃ちだせば並大抵の小型異形は一発で肉塊に変える程の威力を誇っている。加えて現状の重火器装備。後は、隊長役が号令を上げるだけ。それだけで隊長役が想像する水龍の最期が拝めることが出来るのだ。

 そして、その瞬間が訪れる。

 水面から延びる長い首。隊長役がそれを確認すると、即座に号令を上げた。

発射()ーーーーーーっ!!」

 静寂に包まれて平穏に見えていた滝周辺には、一瞬にして銃弾の雨(あられ)が降り始めたのだった。





 揺れに揺られて雄介と真理はダイゴタウンの駅に降り立つ。

 目的地までそう遠くない事を確認し、早速向かおうとする二人だったが、住人達がこぞってある方向へと足早に向かっていた。その方向は袋田の滝に続くトンネルであり、二人は住人達に続くように走り出した。そうして人だかりが出来ているトンネルの入り口に辿りつくと、その入り口付近では簡易テントが設置されており、非正規軍だと思われる数人の男女が通信機に向かって叫び続けていた。それを見て雄介は、彼らの仲間がこのトンネルの向こう、滝の方で異変が起きたのだろうと推測する。

 到着して一時間。トンネルの奥から微かに人の足音ととれる音が響き出す。ほぼ一定の間隔でやや弱弱しい足取りであった為、直ぐに簡易テントから男が二人ほど駆けだした。やがて見えてきたのは、五体満足とは言えず、一人は腕を、もう一人は足をそれぞれ一本ずつ失っていた。

「おい、大丈夫か?」

「一体何があったんだ?!他の皆はどうしたんだ?!!」

 他の仲間の事を訪ねつつ、滝の方で何か起きたのかを聞き出していた。

 誰もが知りたがっているその答えを、腕を失った男が弱弱しい声音で語る。

「……部隊は………全滅した。特殊鉄鋼弾がまるで歯が立たなかった……ぐっ、…身体が堅いとかそういう次元じゃ……ない」

 痛みに耐えながらも、彼は懸命に仲間に語り続ける。見ていて痛々しいと思った何人かは目を逸らしていた。雄介と真理は知らないが、千を超える異形狩りが二人を残して全滅しているのだ。住人達は改めて水龍の恐ろしさを再認識すると同時に、次第に一人一人その場を足早に去っていく。誰もが口々に「もうおしまいだ」「いずれ水龍に食われるんだ」と全てを諦めたかのように呟いて去っていく。

 切断された箇所に包帯が巻き終ると、二人を担架に乗せ簡易ベッドのある医療テントへと運んでいく。その時一人の男が、残っていた雄介と真理に気が付いた。腰の刀、太ももと背中の拳銃を見て自分達と同業である事と、水龍目当てである事に気が付く。

 鬼柳(きりゅう) 宗助(そうすけ)と名乗るその男は、部隊の後方支援を担当していると言う。

「そこのお二人さんも水龍退治?」

「ああそうだ。しかし……」

「お察しの通り。もう俺たちは戦えない。武器は皆さっきの進軍に全部使ったから……俺たちに出来るのはあの二人の治療しかできない」

「そうか…」

「あ、そーだ。あのー、さっきの二人に後で水龍の事聞きたいんですけど、いいですか?」

 二人の会話に真理が割り込んで提案する。宗助は少し悩んだ様子を見せるが、やがては仕方ないと言った表情で渋々了承する。

「何か、すまん……俺の連れが粗相を――」

「いや、大丈夫だ。今は戦力が欲しい所なんだ。住人の何人かは故郷であるこの地を捨てようと考えてるけど、故郷を捨てる事程悲しいことは無いよ」

 やけに達観した様子の宗助。彼もまた、同じ経験をしたのだろうと雄介は想像する。

 負傷した二人への聞き込みは日が沈んでからに決った。それまで二人は部隊員たちが予約したホテルにて待機する事となった。宗助ら生き残った部隊員達も出来る限り二人を支援すると言った。

 決戦は明日の夜明け。

 水龍もまた、九尾や死霊使い(ゴーストマスター)と同じものなのか、それはまさに(ゼウス)のみぞ知る事だろう。




続く

執筆活動が遅れる可能性がありますが


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