されど狐は何を思い唄うのか
久々の投稿ですお待たせしました。
今の今までハーメルンやフォレストやピクシブでの投稿が多くなりましたが、古巣のここでの活動は停止もしませんし凍結もしません。
今回二つ目の力が雄介の刀に加わります、お楽しみに
九尾の狐。その名を知らない者は極めて少ない。
古来より九尾の狐は日本の伝承等により伝わっている妖怪の一種。その姿は妖艶な黄金色の毛並みに文字通り九本の尾を持つ狐。妖狐。
異形が現れる以前の日本では平安の時代、その当時の文献にもかの安部清明等の隠陽師とは敵対関係にあり、その姿を見せて戦っていたと言う。
九尾の並外れた妖力は妖怪の中でもトップクラスとも言われており、異形が跋扈するこの現世でもその妖力は少しも劣ってはいない。
「――そんな異形をだ。俺達は倒せると思うか?」
「無理だと思いまーす!」
九尾関連の資料に目を通していた雄介と真理は、目的地である草津温泉郷に訪れていた。今はその温泉街の足湯に二人は居る。ここでも部屋が一つだけしか用意されなかった事に、雄介は疑問に思うのだが、今は九尾の事が最優先な為か考えるのをやめた。
この宿に来る途中でも、二人は様々な同業者を見掛けていた。近代兵器古代兵器な武器を持っていた彼等も、恐らく目的は同じく九尾。その殆どが手慣れだと珍しく真理が気付いていた。
「ふーむ…、武器の状態や身体の傷を見ると……私らよりもベテランだね殆ど」
「なら彼等から見た俺達はどう見える?ただの恋人同士か何かと勘違いするだろうな」
「武器持ってなかったらそう思われてるよね、多分。あ、私の純潔は雄介の物で雄介の純潔は私の物ね」
「サラリと何を言うかこの馬鹿は」
いつものようにデコピンで突っ込む雄介。オーバーリアクションで倒れる真似をする真理は、ボケの追撃に出ようとするも更に雄介のデコピンが直撃する。
当てられた箇所を摩る真理は何気なく足湯に備え付けられていた時計に目をやった。ちょうど今長針と短針が真上を刺したばかり。昼時になったことを雄介に話した真理は、彼の腕を強引に引っ張って草津食堂へと向かった。
草津食堂は足湯の目と鼻の先にあり、中は九尾の狐目当ての異形狩りが多く、誰もかも歴戦の猛者と言った所だ。そこへ雄介と真理の様な、カップルかアベックに見える男女が入ると、代表者らしき男が二人に近付いてきた。
「お二人さん、ここぁ新婚旅行には向かねぇ場所だ。とっとこ帰りな」
「どこぞのハムスターだ!」
突っ込みながら雄介は刀の入った鞘に両手を添え、真理は両太股のホルスターに手を伸ばしていた。
それを見た代表者らしき男は先程の発言を撤回して謝罪した。その上二人に何か奢らせてくれと申し出るが、雄介がヤンワリと断った。
「まぁ良い。元々こちらに非があったしな」
「別に良い。もう慣れている」
「私はカプに間違われても良いんだけどなぁ」
その真理の呟きを聞いていないフリした雄介は、九尾についての情報が得られるかどうか、代表者の男に聞いた。男はこの食堂にいる異形狩り達のリーダーで曙の狩猟団と名乗っていた。その名に雄介は聞き覚えがあった。夕暮れ時に颯爽と現れ異形を狩るのが彼等の流儀。反対に暁の狩猟団と名乗る集団もあるのだが、それらしき集団は見当たらない。
曙の狩猟団から離れた二人は、カウンターで揃って日替わり定食を注文する。
食べながら雄介の目に、様々な武器が入って来る。槍、鎚、ボウガン、鉈、スナイパーライフルやレイピアなど様々でここにいる全員が九尾の狐を討伐しようとしているのかと、雄介は思った。
「そういえばさ」
真理が雄介にしか聞こえない程の声量で言った。
「九尾てさ、普段何処にいるんだろうね」
対する雄介も真理と同じ声量で答える。
「さぁな。とにかく調べる価値はあるだろ。食い終わったら現地民の皆さんから聞いてみるとするか」
昼食を終えた二人は食堂をあとにすると、日光の時と同じ様に二手に分かれて行動することになった。この時真理は九尾の狐よりもご当地グルメに目的の半分以上を支配されていた。勿論その事は雄介も予測済みではあるが、それでもしっかりとした情報を持って来る事もあるのでお咎め無し。
早速雄介が向かったのは、先程いた足湯場だ。そこは観光客を覗けば現地民の老人達が足しげく通っている場合も多いので、情報収集にはうってつけだ。
早速一人目を見付ける事が出来た。周囲の人に話し掛ける老人は、見るからに話し好きと見た。同じ部類の幼馴染みのパートナーのお陰か、わりと簡単に話し掛ける事に成功した。
「ほぉ、若いのに異形狩りねぇ。俺の若い頃にそっくりだぁ」
「はぁ、そうなんですか…。所でお尋ねしたい事がありまして…」
「御狐様は何も悪い事はしてない。それどこかここ草津の守り神様だ」
まだ用件も言ってない雄介に、老人はそう言った。雄介の腰に下げている刀が自然と九尾の狐狩りと言う目的を明かしていた。
「何処の誰かから聞いたのか問い詰めんが、お前は金の為に異形を斬るのか?それとも名誉?名声か?」
「いえ、そんな物に興味はありません。ただ、百年前の真実が知りたいだけなんです」
「百年……そうか、神か。それと御狐様が何の関係があると言う」
「……実は」
ここで雄介は老人にツキジから今日までの経緯を語った。刀の事も含めて。
「つまり、その刀に十七の力を秘めるのが第二目的とな?」
「そうなります」
「ふぅむ。よかろう、ついて来なさい」
言われてその後をカナードは無言で付いて行く。老人が行く道は平坦ではなく、どちらかと言えば少し険しいと言ったところ。老人でありながら逞しい運動神経に雄介は感心しつつその後を追い続ける。
前を行く老人は時折雄介の方を見、その度に足を止める。置いていくつもりは毛頭ないのだろうか、老人の目的とゴールが見えない雄介は黙ってでも、体に疲労が蓄積してでも、その後を追うしか彼にはなかった。それに対し老人からは疲労の色が見えず、本当に老いているのかと疑いたくなる。
やがて到着したのは一つの稲荷神社。朱い大鳥居が老人と雄介を迎え入れた。作法として大鳥居に一礼し、入り口の端の方を潜る。本殿に近付くと、そこには一旦別れた筈の真理が老婆と共に茶を啜っていた。向こうも雄介に気が付いたようだ。
「あ、雄介」
「何でお前がここに居るんだ?」
「それはこっちの台詞だっちゅーの!」
「ネタが古い。お前もここに居るって事は…」
「こちらのおばーちゃんに九尾の事聞いたら、ロープウェイでこっちに来たんだ」
「……こっちは徒歩だこの野郎」
二人を案内した老人と老婆はお互いに顔を見合わせると、雄介と真理をまた別の所へと連れていく。境内の中を進むと、一際小さな稲荷が雄介と真理を迎える。老人曰くこれが本殿。ここで時折九尾の狐が姿を表すそうだ。
言い終えた老人と老婆は雄介と真理を残すとどこかへ消え去った。
老人達の正体よりも、稲荷本殿に気が向いてしまう雄介と真理。すると、雄介の刀と本殿が突然心臓の様に鼓動する。刀を抜くと、"超"の字が淡く輝きだした。日光で"幽"の字の力を得た時と同じ感覚を雄介は感じ取った。
"超"の字に反応してか、稲荷本殿の扉が開くと、紫の光球に九つの筋が付いた物体が飛来する。二人にはそれが九尾の狐だと言うことがすぐに解った。すると光球はフヨフヨと二人の前まで移動すると、彼等の脳内に向けて語りだした。
『…貴様達か?神の正体を暴こうとするものは』
「多分そうだ。けれど、俺ら以外にも神の正体を知りたがっている奴はいる」
雄介は目の前のそれに言い返す。
『それを知ってどうする。真実を突き止めたその後は?』
「考えていない。もしその正体を突き止めたら、その時はその時だ!」
笑止。と、九尾は言う。かなり乱雑な理由が癇に障ったのか、九尾の語気が少々荒々しい。今にでも雄介に襲い掛かるかの様で言うが、真理が間に入りここに来て気になる事を尋ねた。何故一部で奉られている筈の九尾が討伐対象なのかを。
雄介から真理に興味を変えた九尾は心当たりが無いとしれっと短く言う。
『それに九尾の存在の総てが善とも悪とも変わらん。人間も同じだ』
「ま、そういっちゃそうなんだけど……」
「だったら何故俺の刀と、そなたの妖力が反応し合う!」
『知らぬな。何故我が討伐対象なのかも、知らぬな』
心当たりがない。本人…もとい、本狐が言っているのだからそうなのだろうと雄介は無理に納得する。そんな彼の刀が気になったのか、鍔の辺りから近づいて刃先まで移動を開始する。
『ほう、なかなかの光沢。自作か?』
「ああ。親父からイロハを受け継いで俺自身で作り上げた。だが、俺は掘った記憶がないんだが、どう言う訳か刀身に文字が浮かび上がった」
「誰がやったんだろうねぇ?あ、私じゃないよ、やった所で意味ないし」
腕を組みながら言う真理は、片目を開き尚も刀身を滑るように移動する九尾を見遣る。その九尾が超の字に差し掛かったその時、ポンッと消えた。いや、正確には刀に吸い込まれたと言い表した方が適切だ。証拠に超の字が輝きはじめた。
呆気なく二つ目の力を得たことに、持ち主とその幼馴染みは次第に冷汗を流しはじめる。
一拍置いて真理が絶叫。そこを雄介が手刀で大人しくさせる。
「なんじゃそりゃあああああああああああ!」
「やめんかボケぇ!」
「いやでもさ、呆気ないよね?日光の時と比べればエライ楽だよ雄介!」
「いや、確かに呆気ない。呆気ないが……」
「呆気ないが……?」
また一文字埋まったというのに、妙に浮かばない表情の雄介。それもそのはず、やはり呆気なさ過ぎたのだ。以前の幽の字を手に入れた時は、霊使いが操っていた故人の魂を吸収し手に入れたモノなのだが、今回の場合は雄介自身ただ単にここに来ただけで、何も戦わないで手に入れたのだ。
やや複雑な心境の雄介と真理はその場を後にして麓の温泉街へと向かう。
下山には真理が老婆と共に使用したロープウェイに乗り込み下の温泉街へと降りる。一時間もしない内に到着すると、麓の温泉街が異様な雰囲気に包まれていた。それと少し血生臭い。
足を進めると、何かに爪先が当たるのに雄介は気が付いて視線をそちらに向ける。そこにいたのは曙の狩猟団の一人だろう男が、満身創痍の状態で頭から血や口から流していた。
「おい、何があったんだ!しっかりしろ!」
しかし反応はない。脈拍も呼吸も異常無し、気絶しているだけだった。無理に起こして情報を聞かず、雄介と真理は曙の狩猟団と邂逅した食堂へと足早に向かう。
その道程の半分ほどに差し掛かった時、雄介の刀と真理の四聖銃が何かと共振するかの様に突然カタカタと振るいだした。手を触れると解る。九尾が刀を通して何かが近付いて来ると知らせているのだろう。次第に二人は警戒の色を強め、互いに武器を手に取った。
気を集中し、目を閉じて耳に入る情報だけを頼りにする。最初に入るのは一定間隔で微かな音が聞こえ、それが次第に大きくなっていく。足音。それも生き物の足音。足音の大きさは身体の大きさと比例する。
その正体を確かめるべく、雄介はゆっくりとまぶたを開ける。
身の丈は十メートルには満たないものの、その荒々しさは身の丈以上の恐ろしさを醸し出していた。
「犬神刑部の類か?」
九尾の対となる異形犬神刑部とは、狸の妖怪の一種でありそれなりにもメジャーな妖怪の一種である大型種だ。その妖力は豆狸数十体分ほどであるが、油断ならない異形である。そもそもの生息地は四国とも言われていたが、九尾の妖力を察知してここに来たのだろうと推測される。
鞘を持った手の指で鍔を押し出し、もう片方の手を垂らし、犬神刑部を見やる。化け狸以上の迫力を誇示するかのようの、犬神刑部は低く唸りを上げる。よく見ると、足元には曙の狩猟団らしき折れたボウガンを握っていた男が荒い呼吸をし、無念の表情を浮かべているのが分かる。
「九尾よ、俺の声が聞こえるなら其方の力を貸し給え!」
抜刀による一閃。刀身の『超』の字が発光すると、その光がやがて刀身を包んで男を踏んでいた犬神刑部の足をどかす。
「真理、こいつを頼む」
助け出した男を真理に任せた雄介は刀を握り、避けて地に着地する犬神刑部を強く見ていた。
低く唸る犬神刑部は目の前の雄介だけを見てむき出しにした歯茎と歯の隙間から唾液を垂らす。
「何が目的か知らんが、同じ異形狩りたちの仇は取らせてもらう。大人しく四国に帰れ!!」
温泉街草津。人と狸の妖怪の戦いは始まった。
続く
次回の投稿は未定です。ハーメルン、フォレスト、ピクシブかも未定です。
ご感想お待ちしております。