されど男は誰が為に変わるのか
真理と宿屋前で一旦別れた雄介は昨日訪れた人の形をした石像の置場へ向かった。
「昨日見たあれをよく見なければな…」
昨日の道筋を思い出しながら、雄介は昨日と同じ石像の造形も思い出していた。今思えば微かだがノミで粗く削った跡があった。あれが恐らく人工の物であれば、メデューサの所業ではない事が解る。
そうなると新たに疑問が残る。
一つは遺族だ。彼等は本当にあの石像が被害者そのものであり人工ではないと認識しているのかだ。酒や菓子の類の供え物があったから、石像は被害者そのものであると恐らく認識している。
二つは宿主が何故メデューサだと特定出来たのかだ。こちらは依頼書を見せただけであって、標的が人を石にする異形とは言っていない。
とにかく今は、あの現場へと向かうしかない。
そう思いながら、雄介は向かうのだった。
真理は口を大きくあけながら、日光名物金粉カステラ(試食品)一口頬張った。
「金粉カステラお〜いし〜♪」
もはややるべきことを忘れていた彼女は通り掛かった土産屋の試食品である金粉カステラに目が眩み、今に至る。ストッパーの雄介がいないせいか、彼女は自由に行動していた。
真理がやることは、情報収集で特に供え物をしているだろう遺族を探し出そうという事なのだが、もはや金粉カステラの虜となっていた彼女にはそんな考えなど微塵もなかった。
誰のお土産でもなく、ただ個人のおやつ用として購入しようと店員を呼んだ真理は、現地民だろうか真理の倍以上の歳の女性達の話し声に耳を傾けた。
「この度はご愁傷様で……」
「ええ……。遺体すら…見付かっていないのよ……夫の遺体そのものが石像…だなんて……役場は何でそう言い切れるのか理解出来ないものだわ」
「それに……こんな事言いたくないんだけど……その異形が――」
女性二人の会話にあった石像・遺体と言う二つのワード。それに反応したのか、真理は自分がやるべき事を思い出すと、会計を済ませてその女性二人にその話を聞き出した。
突然見知らぬ娘が何故自分たちの話を聞きたがるのか疑問に思ったが、背中と両太ももに装備されていたホルスターに入った銃を見ると、信用したのか真理に詳しい話を聞かせた。
「………やはり、人工か」
昨日と同じ墓とは名ばかりの石像置場に到着した雄介は石像一つひとつに触れ、その質感を感じ取る。やはり人工。精巧に作られた石像だ。
誰が何の目的かは雄介には理解出来なかったが、ここでまた新たな疑問が生まれる。
遺族はこの石像が本当に石にされた当人なのかを理解しているか否か。そしてこの石像が何処から誰の手によって運ばれたのか。その二つだ。
(……何処だ?何処からこの視線が…)
この時雄介に向け、何者かが視線を向けていたのだが、雄介が周囲を見回すても近くに人は居なかった。異形かと思ったが、昼間に隠密型の異形が活発化する訳でもない。
腰に下げていた鞘に手をやり、親指で鍔を押しながら周りに向かって叫んだ。
「ここに誰か居るのか?!居るならば返事をしてもらいたい!!」
しかし、声が少し響くばかりで返答すら返ってこない。気のせいかと思った雄介は、懐から携帯電話を取り出し真理のスマートフォンに電話を掛ける。
「俺だ、雄介だ」
『あ、雄介?しゅーかく有りだよー!』
「そうか…そっちもか。待ち合わせ場所を決めよう」
『じゃあ、東照宮の近くって事で』
「なら俺のいる場所に近いな。分かった、そこで待ち合わせよう」
携帯電話の通信を切り、雄介は一度周囲の茂みを見渡すと足早にその場を去って東照宮へと向かった。雄介が去ると、茂みからノミと金槌を持った男がゆっくりと立ち上がった。
この男の正体は、前回宿屋の主人が訪れたある男の家にいた男で、この日彼は隙有れば雄介を始末して彼の墓標代わりの石像をここに設置しようと茂みに隠れていたのだが、運悪く雄介に感づかれてしまい失敗してしまったのだ。
「……あいつ、なんか……違う」
今まで男は、狙った標的の始末をしくじった事が無い。隙を突いて鈍器で襲い、石像になって死んだと偽ってその石像を掘っていた。雄介もその餌食にしようとしたのだが、微かな呼吸だけで気配を悟られてしまったのだ。
「次の手……考える、いわゆる……ぷらんびー」
因みにこの男、プランBが何なのか半分理解していない。
日光東照宮はかの徳川 家康公が作り上げたと言われており、彼の墓も東照宮の近くに埋葬されている。ここで有名なのが鳴き龍に眠り猫、逆さ柱等がある。その上つい最近にはパワースポットに紹介されたことがあり、その元からの効果か今まで異形が東照宮を襲った事は今までに一度も無かった。大正時代から。
そこで雄介は真理と無事に合流。すぐに情報を交換する。
「それは確かなのか?」
「うん。やっぱり誰も被害者が石になった所見てないし、中には出来過ぎているって感じだって」
「やはり人工で間違いないな。だとすると誰が何故そんな事を?」
「きっとあれじゃない?どっかの誰かが自分のペットに人間を与えていて、それを異形に石にされたって事にして遺体となった石像を役所経由で渡したって感じで」
「ありそうでないな。ここのところあまり仕事しない役所もあると聞いたこともある。だが、問題はどうやってホンボシを見付けるかだ」
「刑事みたいだにゃ。目星は……付いているよね?」
「あの宿の主だ。一度話を聞く必要がある」
言って雄介は東照宮を後にして昨日宿泊した宿へと歩き出す。
あの宿主が怪しいと思った点は、異形の特徴が詳しく記載されていない依頼書を見て何故人を石にする異形と言えたのかだ。石にする異形ならばメデューサの他にもコカトリスと言う鳥系の異形もいる。コカトリスは完全に石にするのかどうかは雄介と真理は知らなかったが。
とにかく今は依頼をこなすことが最優先となる。
そろそろあの宿に到着する所で、急に人が慌ただしく動いていた。中には警備隊員が数名動いており、口々に何かを喋っていた。その警備隊員の後を雄介と真理が追う。
この時雄介は一抹の不安を抱いていた。警備隊員の行くルートは、今雄介と真理が向かう目的地の宿に通じるルートなのだ。
そして宿に着くと、宿の周辺には人だかりがありその間を縫って二人は最前列へと移動すると、そこには眼球が黄色く変色し口の端から泡を吐き出している宿主が仰向けに倒れていた。
警備隊の中から白衣を着た隊員が現れ宿主の頸動脈や心音、呼吸などを確かめた。その結果、隊員は首を横に振り合掌する。
「死んだ……だと」
「あちゃー……厄介なこったねこれは」
真実を問い質そうとしたが、その対象が亡くなってしまった。
宿主の亡きがらに警備隊の検死官が検死を始めていた。検死が済んだら後は司法解剖に回して、後は遺族に返すだけだ。死因を知りたかった雄介は検死が終わった後、警備隊員の一人に宿主の死因を問い質したが、門前払いを喰らってしまう。
一介の異形狩りがそんな権限が無いことを雄介は分かっていたが、直ぐにでも死因が知りたかった。
「何とか足取りが掴めりゃ良いんだけどなぁ……」
「あの宿主がよく通ってた場所が判ればねぇ……」
黒幕を知っていたであろう宿主の死に、雄介と真理はそれ以外の何かで真相に迫ろうと行きたい処だが、如何せん手元には情報が曖昧な依頼書しかない。
それにこの依頼書、何を倒せば報酬なのかそこが問題だと真理は独り言を漏らす。
「取り合えず、あの宿主がよく行く場所探すか…」
「あー、やっぱりそうなっちゃう?」
「ここでグダグダとしていても、無駄に時間が浪費されるだけだ。警備隊のマネ事だけども、やらないよりかはマシだ」
「でもさー、捜査妨害にならないんじゃないの?」
「ナァに、悟られない様にやるだけさ」
ニヤッと口の端を釣り上げながら雄介は真理に答えた。
「真理、少し状況整理をしよう」
「うん」
「まず、俺達は死んだ宿の主の足取りその他等、警備隊の真似事を行っている」
「今はその真っ最中だね」
「次に、俺達は警備隊よりも先に宿の主が夜な夜なよく行く家…今ここにいるな」
「そだね」
「最後に、ここには誰も居ないその上……何故いきなり落とし穴に落ちた!?」
「知らないよぉ!ドア開けてすぐに床がパカッて開いて落とし穴ってパターンなんて、それ何処の漫画?!」
現在二人は死んだ宿の主が夜な夜なよく通っていた家に踏み込んだのだが、ドアを開けてすぐに落とし穴。打ち所が悪ければ死んでいたのだが、垂直に落ちた訳ではなく何故か滑り台から滑りに滑って、辺り一面真っ暗なフロアに降り立った。
明かりを点ける道具は今の所小型のペンライト、それと雄介の携帯電話と真理のスマートフォンの明かり。ペンライトの電池の残量は気になる所だが、果たして携帯電話とスマートフォンの画面のライトが頼りになるのかが疑問だ。
取り敢えずペンライトの明かりを点け、周囲を見回す。そこにあったのは、数え切れない程の人骨の山。どうやらこれが雄介と真理のクッション代わりになったのだろう。
「おいおい……なんなんだよ、この骨の山は。それに……」
それに…その人骨はどれも衣服を着用しており、おそらく死んですぐにここへ投棄されたようだ。
この人骨の山が何を物語っているのかは現段階での結論付けはまだ早い。
しかし、これだけの死体の山。何故か腐臭は漂っておらず、代わりにツンとカビの臭いが微かに漂っていた。
「おい真理、この死体の山を見て……どう思う」
「…すっごく……多いです」
「あぁ。ったく、日光の地下でこんなん見つけるたぁ……何とも」
黙祷。それが今の二人に出来ることだった。その後はとにかく歩いて壁際にまで移動する。
しかし、歩いても歩いても壁処か向こう側すら見えて来ない。文字通り一寸先は闇と言った所だ。
1時間は経っただろうか、雄介はふと後ろを振り向いた。何故か、あの人骨の山から1時間も歩いた筈なのに、まだ三メートルも離れていない。確かに人骨から離れるように歩き始めたのだが、それが余り進んでいない事になる。
足元がルームランナーの様になっているのかと思っていた真理だが、実際に触ってみると、これと言って変わった物や仕掛けはない固く敷き詰められた石畳。ルームランナーの様な動きをすれば擦れる音も聞こえる筈だがそれすらも聞こえなかった。
「ちぃ、何だってんだ……一体!」
腰に下げた鞘から刀を抜き、構える雄介。目を閉じて神経を集中する。同じ様に真理はホルスターから青龍と朱雀を抜き構えた。
その時、人骨の山が音を立てて崩れ落ち、中から死んで骨になってしまったであろう死者の魂らしき鬼火が浮遊する。その鬼火が円を描くように並び回転すると、その中心からローブを纏った骸骨の異形…死霊使いが現れた。
死霊使いの周囲を複数の人魂が漂い、その一つ一つが声の高さは違えども同じ単語を繰り返し呟いていた。
『……ジリ……ク…………』
『バジ……スク……………』
『………バ……リ…ク……』
『バジリスク……バジリスク』
人魂が発した単語は『バジリスク』。それは蛇の異形の一種であり、バジリスクと目を合わせれば死んでしまうという。雄介と真理は知らなかったが、この館の主こそ小型ではあるがバジリスクの飼い主であり、宿の主を力で殺したのもバジリスクだった。
何故人魂達がバジリスクの名を連呼しているのか謎なのだが、今は目の前の死霊使いを倒すしかない。そう思いながら、青龍と朱雀から放つ水と炎を纏った弾丸を放つ真理。だが、弾丸は死霊使いの身体を突き抜け空を切った。
銃が駄目ならばと、雄介は腰の鞘から刀を抜き、死霊使いの胴を横薙ぎに払う。が、死霊使いの身体はまるで煙の様にふわっと形を崩しただけですぐに元に戻った。
「…ちぃっ、これだからオカルトは嫌い何だよ!」
「理由になってないよ」
「銀の弾丸…ダメだあれは人狼、妖刀…でもねぇよ俺の刀はっ!!?」
「いやパニクりたいのはこっちの役目なのにぃ……このぉっ!」
考えが纏まらずにいる雄介に聞こえない様に言った真理は青龍と朱雀を玄武と白虎に交換し、玄武からは岩の弾丸を、白虎からは風の弾丸を放つ。しかしこれも無意味。
今度は死霊使いが自身の周囲に浮かぶ人魂を操作し、雄介と真理に攻撃を開始する。人魂が列を成すと、それは鞭の様に変わり死霊使いはそれを匠に使い雄介と真理の背や胴を叩く。鈍い痛みが走る。それも手を休めずに、何度も、何度も、何度もたたき付ける。
一つのダメージは小さいが、それが何度も続くとダメージが蓄積されていき、やがて地に伏せてしまう。
「…やられたままで……いられるかぁぁ!!」
雄介の抜いた刀の刀身が人魂の鞭に触れる。するとどういう訳か、人魂の鞭が吸い込まれる様に雄介の刀に刻まれた『幽』の字に吸収されていった。吸収しきった頃には『幽』の字が淡く紫に輝いていた
これが何の意味があるのか、持ち主である雄介自身知りたかったが、今は目の前の死霊使いを倒す事が先決。
「ね…ねぇ、雄介。い、今のって…」
普段おちゃらけた性格をしている真理でさえも、目の前の出来事に困惑していた。
「なもん俺が知るかってんだ!逆に俺が知りたいわ!!」
刀の刃先を死霊使いに向けながら言う雄介。
現在死霊使いの武器だった人魂の鞭は刀に吸収され無くなったが、死霊使い自身の拳が飛んで来るかもしれない。そう思って構えを解かないでいた雄介と真理だったが、どうやら人魂の鞭自体が本体だった為か、死霊使いは消滅した。
先程の死霊使いが何だったのか理解出来なかった雄介と真理は、武器を仕舞わずにいた。その時、石造りの壁の一部が動き道が開いていき、LEDの光が燈されていく。
「どういうことだ。さっきの異形といい今といい」
「私もわかんないよー。それよか先進もうよ」
それもそうだ、と雄介は歩を進める。
LEDに照らされた道は僅かながら傾いており、徐々にではあるが上に上がっている事は間違いない。その上一本道で分かれ道すらなく、螺旋状に進んだり直線や曲線の道などが暫く続くと、やっとゴールなのか鉄の扉までたどり着いた。
その扉を開けようと手を向けた瞬間、雄介の刀が突然振動し、『幽』の字が突然光るとそこから光の玉が浮遊した。
『初めまして。私は先程死霊使いの鞭の一部となっていた元人間です』
その上女の声で喋っていた。剣に宿る精霊だったらどれ程マシだったかと雄介は思うが、そんな彼などお構い無しに真理が光の玉に名前を付けようとしていた。しかし光の玉は、そう永く居座らず成仏する前に、光の玉と化して言葉を発してまで雄介達に伝えたい事があると言う。
『私は元々日光の住人でした。それがある日、私はある異形を見てしまったのです』
「異形…だと?」と雄介が尋ねた。
『はい。それは正しく蛇の異形でした。その黄色い目を見た瞬間、私は死んでしまいました。死んですぐに成仏しなかったのは恐らくたまたまだと思うのですが、一度死んだ魂は元の身体に定着する事が出来ないのをご存知ですか?』
「私は知らないけど雄介知ってるー?」
「初めて聞いたな。死んだ元人間と会話するのも初めてだし」
『とにかくその通り私は生き返る事は出来ませんでした。私が死んで間もなく、その異形の飼い主らしきちょっと好みの男性が私の死体を担ぎ上げて……』
「…で、骨になる前に蛇の異形に肉を食われたと」
『おっしゃる通りです。私の死体はこの屋敷の一室に蛇の異形と同じ部屋に一緒にして男性が去ると、その蛇の異形は丸呑みする訳でも無く、カツカツと私の血肉をムシャムシャと……まだ嫁入り前だったのに…。骨と服だけの私を残して、先程の骨の山に』
「ポイッとされたんだね?酷ーい。同じ女として許せない!!」
「その食われる前に何かされなかったか?例えば死体の寸法計ってたとか」
雄介が質問を光の玉に投げ、すぐに答えは返された。
蛇の異形が光の玉の死体を食べる前に、ゴツい巨漢が見た目に似合わぬ繊細さで体重以外をしっかりと計って、ノミやハンマーを巧に使って自分そっくりの石像を作っていたという。
恐らくこれが、今回の事件の真相だ。
メドゥーサに石像にされた人間…ではなく異形の能力で殺され、あたかもメドゥーサに石にされたと錯覚させるための石像を作り、最後に死体を食わせる。これが真実だった。
『その蛇の異形の名前は存じ上げませんが……お願いします。仇を……取っていただけませんか?』
雄介と真理は、互いの視線を合わせ一度頷いた。
「ま、元々曖昧な依頼だったから……具体的な倒す目標が見えた。礼を言う」
「私達二人がその蛇倒しちゃうからさ、安心して成仏してよ!」
『……ありがとう…ございます』
光の玉は震える声でそういった。顔が見えていれば恐らく感涙している事は間違いない。
消えはじめる光の玉は『最後に』と雄介の刀の近くまで移動し、何故死霊使いの鞭を吸収したのか解説を始めていた。
『この刀には、十七の属性を吸収して自分の力にする能力を持っているようで、総ての属性を集めると刀が進化をするようです』
「吸収……進化…だと?馬鹿な、この刀は俺が打って……!?」
その反論に光の玉は答える事無く、ゆっくりと消失した。無事成仏出来たのだろうが、雄介の刀に更なる謎を残したままだ。
まさか自分で打った刀にその様な能力があったとは、雄介自身思いもよらなかった。
解けぬ疑問に一人悶々としている雄介だったが、突然何かを思い出したかのように「あーっ!」と真理が大きな声を上げた。近くにいた雄介は耳を押さえて真理に問う。
「どうした?」
「さっきの死霊使いと戦った時さ、『バジリスク』って言ってなかったっけ?!」
「ん……?あぁ、言ってたな。っておい、さっき言ってた蛇の異形とその能力って…」
「うーわー!!マジでバジリスクだったんだよぉ!うっわー無理だー!たーおーーせーーーなーーーーいーーーーー!!!」
「うっさいわボケ!」
バジリスクの倒し方で喚く真理に取り敢えず雄介は、刀を鞘に納刀しドアノブに手をかけた。
目隠しを付けたバジリスクの頭部を男は優しく撫で回す。この男はバジリスクの飼い主であり、宿主の口を封じた張本人だ。
男は何かをモチーフとした彫刻の前にひざまずき、敬う様にそれを見ていた。
「我が君神よ。我が命は御君の下に、この身朽ち果てようとも、御君にこの命捧げ候」
その彫刻は今や存在さえ解らない機械仕掛けの神に似せて作られた物。しかし機械仕掛けの神の姿は、百年たった現代の人間に知れ渡っていない。誰かが意図的に設計図等を処分したのかそれも定かではない。
総てが謎に包まれている機械仕掛けの神を崇めているこの男は、彫刻を見えない位置に隠し外から頑丈に鍵を閉め、更にバジリスクに目隠しを付けて、招かれざる客の対応をする。
「人の家に入っておいて……挨拶も土産も無いのか?」
その客とは雄介と真理の二人であった。
「土産話……ならあるけどな」
チラリと鞘から刀の刃を見せて威嚇する雄介にその男はパチンと指を鳴らす。男の後ろの扉から、巨漢と言えるほどの体格で右手には木づち左手にはノミを持っていた。
石像作り担当かと思った真理は、いつものおちゃらけた口調をせず、静かにその男に問う。
「この家の地下で、沢山の人の骨を見てきました。それについて、お答え頂けませんか?」
「人の家に黙って入って来た奴などに答える義理も無い。やれ」
男の合図に巨漢の男は右手の木づちで雄介と真理を叩き潰そうとしたが、当たる前に二人は左右に散開。雄介は刀を鞘から取り出すとノミをその刃で受け止め、真理は玄武と白虎を両手に握ると右手の玄武を巨漢の男に、白虎を男に向けた。
「中々やるな。俺の名前だけは教えてやろう」
「はん、何言ってんだお前」
「知りたくないのか?俺の先祖は……神の製造に携わっていたんだからな」
続く