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1話

全ての出会いはあのときから始まった。



『おい!この女を殺されたくなかったら100万今すぐ用意しやがれ!』


人の悲鳴が聞こえる。


赤い液体が流れている・・・

これは、人の血だ。



人の血を見るのは嫌いだ。

人殺しはもっと嫌いだ。






ここは何処だろうか。自分はどうしてこんな所にいるのだろうか?


『目が覚めたか』

『ん・・・』


手を動かそうとしたが動かなかった。

上で何かで繋がれている。


何だか寒い・・・


ああ、服を身につけていないからか・・・



何も混乱なんてしなかった。

どうでもいいのだから・・・



『男に下着姿を見られて何も思わないのか?』

『はい』

『思春期の中高生ぐらいだろうが』


男は自分が恥ずかしくなったらしく、服を投げつけてくると、鎖を外してくれた。


『怖くねえのか』

『いえ、何がですか?』


怖いことなんて何もない。

しいて言えば人と話してること・・・だろうか。

怖いとは言わないが、落ち着くものでもない。


『お前覚えてねえのか?さっきのこと』

『覚えてますよ。しっかり・・・血が流れてました。人殺しはダメです。人の命と言うのは失って初めて大切だと気づくものなのです。

貴方はそれをわかって、命を奪ったのですか?』

『別に俺だって・・・好きで殺したわけじゃねえ。仕方、なかったんだ・・・』


男は何処か思いつめた顔立ちをしていた。

さっきのことを悔いているようにも見えた。


『何かわけでもあったのですか?それでも人を殺す理由にはなりませんが・・・』

『わかってるさ・・・俺にはどうしても100万が必要なんだ・・・俺の御袋がもう長くねえんだ。手術すればあるいは助かるかもしれねえって・・・

でもその手術費が、100万するんだ・・・』

『そのために強盗に入ったと・・・』

『ああ、今まで迷惑ばっかかけたからな。親孝行しようと思ってな・・・』


考えの間違った解答だ。

そんなことでお母さんが喜ぶわけもないのに・・・

マダ生きているんだから、他に何かしようとは思わないのか?


助けるのに他に道はないのか?


目の前にあるものにすがりたい気持ちはわかる。

手っ取り早い助け方だと悟ったのだろう。

でもこれでは・・・


『それでお母さんが喜ぶとでも思ったのですか?もしも貴方が犯罪で得たお金だということをお母さんが知ったら・・・

お母さんはきっと悔いると思います。自分のために息子がそんなことをしでかした。と・・・

貴方はお母さんの気持ちを考えなかったのですか?』


『うるせえ!お前に俺の何がわかんだ!親が死んじまうんだぞ・・・お前にその気持ちがわかるのか!』

『どうでしょうね・・・もういないから・・・』

『いねえって・・・どういうことだ?』


男の顔立ちが変わった。

怒りに狂うような顔が、一気に同情の目に変わった。



『家族は誰もいないんです。皆殺されました・・・』

『殺された?お前は無事だったのか?』

『はい・・・あれは、自分の誕生日の日でした。お母さんははりきってケーキを作るって、お父さんは今日は早く帰るって、弟はプレゼントをくれるって・・・

皆はりきってました。とっても嬉しかったんです。どきどきしながら扉を開けました。皆どんなことをしてくれてるんだろう。って・・・

でも、扉をあけたとき・・・異様な臭いが鼻を突きました。

キッチンにいくと、お父さんがお母さんを庇った形になって真っ赤に染まってました。その下にはホワイトケーキが赤く染まってました。

弟は自分の部屋で倒れていました。赤く滲んだ床の上にプレゼントがありました・・・』


思い出したくなかった・・・

でも、いつも胸にはこのことがあったのかもしれない。

意外と話すことに辛さを感じなかった。


『すまねえ。お前も大変な思いをしてきたんだな・・・』



この人は悪い人じゃない。

何となくそう思った。

きっとお母さんがとっても好きで、本当にお母さんのために仕方なく・・・

きっと人を殺したことを一生悔いると思う。


『いいんです』


小腹が空いた気がしてかばんの中からグミを取り出した。


『そういえばお前腹減ってんじゃねえのか?』

『これがあるから大丈夫です』

『そんなんじゃすまねえだろ?』

『ずっとこうですから・・・』


家族が死んでから、いつからかはわからないけどずっとまともなご飯を食べていない。

お腹が空いた気分になっても、こういう物を口にすればすぐにその感覚は収まる。


『育ち盛りがそんなのじゃダメだって!』

『気にしないでください。人質のご飯のことなんて気にするんですか?』

『いや・・・』


男は苦虫を潰したような表情をした。

とっても優しい人だ。


世の中こんな人ばかりだったらいいのに・・・


『お前学校行ってるだろ?学校で昼飯とか食うだろ?』

『いえ、昼休みはいつも図書室で本を読んでいます。誰も自分がいないことには気づきませんから』

『お前あの時も難しそうな本読んでたよな・・・つうかお前、友達とかいねえのか?』

『いましたよ』


過去形な表現。

今もいる。けど・・・


『いました。ってどういうことだ?そいつももしかして・・・』

『いえ、死んではいません。死んでないと思います・・・』

『どういうことだ?』

『今の自分の状態がずっと続いているんです。2年ほど前から・・・』


男はそのことを聞くと、更に悲しそうな顔を見せた。

同情の目・・・そういう風にも見えるが、この人は何処か違う。

まるで自分のことのように思っている。

何故かそんな風に感じた。


『じゃあ今は一人なのか?』

『はい』


自分は何も感じずにそう告げたのに、男はそれを聞いた瞬間何処か罰の悪そうな顔をしていた。


『お前すげえ苦労してんじゃねえか・・・』

『別になんてことはないです』


そう言ってかばんの中から一冊の本を抜き取った。

男を気にかけずに本に目を通した・・・


『お前って小説が好きなんだな。俺そういう文章だらけの本って見ただけで頭が痛くなるんだけどよ。どの辺がおもしれえんだ?』

『小説とはその人の作り出した物語です。その人の作り出した物語はつまりその人の世界なんです。自分は他人の世界を見るのが好きなんです。

人それぞれ個性があって、楽しいものなんです』

『世界。か・・・何か難しいな。ていうかそんな感想初めて聞いたぜ。お前頭いいな』

『そうですね・・・学校の中ではいいほうですが・・・』

『ちなみに学年何位だ?』

『知りません。そういうのには興味ないんです。ですがテストではいつも100点ですね』


それを告げると男は驚いた顔をした。

今の部分に驚く点なんてあったのだろうか?

学校のテストなどレベルの低いもの。

範囲は全部教えてくれるのだから100点を取れない人の気がしれない。


『お前さ。本好きだろ。もしかして小説家なんて目指してるのか?』



小説家・・・


『いえ、さっきも言ったように小説とはその人の世界を現しています。その人の世界とはその人の心情なんです。

つまりその人の性格や、その人の思いが現れるわけなんです。今の自分の世界はとても暗いものです。そんなものを誰が好きで読みますか?』

『難しいことはよくわからねえが・・・俺はお前が書いた小説読んでみてえぜ』

『すみません。お断りします。今の自分の世界を他人には見せたくないんです。今の自分の世界に誰も入ってきてほしくないんです』

『そう。か・・・』


男は納得したようだ。

結構物分りのいい人なんだな。

結構人間観察はしている分、世の中にどういう人がいるのかは知っている。

たいていはここでも屈しない人が多い。


そんなこと言うな。と無理に人の中に踏み込んでくる人もいる。

ああいう人を見るとなんて失礼で、礼儀知らずな奴だ。って思う・・・



『なあ、腹・・・減るだろ。俺が作ってやろうか?』

『いいんです。もう普通のご飯なんて食べられませんから・・・』

『何でだ?お前だって料理作れるだろ?』

『お母さんはとっても美味しい料理を作ってくれました。昔は現役で・・・』

『すげえじゃねえか』


お母さんの料理はとても美味しかった。

何処のお店の料理よりも、お母さんの料理が一番美味しかった。


お母さんから料理は教えてもらっていたし、自分もそれなりに料理は作れた。


『それなら作れるだろ?』

『作れますよ。でも、もう自分のために料理を作るのは・・・』

『なら、俺のために作れよ』

『別に、かまいませんが・・・貴方は本当に面白い人です。とっても優しくて・・・』


何だかこの人には温かみがある。

人を殺した人をそんな風に思うのは間違っているかもしれないけど、それでもこの人は優しい人だって思った。



何だかこの人には料理を作ってあげてもいい。

そう思った。


冷蔵庫を開けたらあるものがそろっていた。


『あ』

『どうした?』

『いえ・・・』


ケチャップに卵にチキン・・・

そして温かなご飯・・・


これだけ揃っていれば、出来るのはあれだ。

懐かしいあれ・・・


『見たい、ですか・・・?』

『何を?』

『自分の書いた小説・・・』

『あるのか?』

『昔のなら・・・』


マダ昔。

皆が生きているとき、家族で笑っているとき、親友と笑っているとき。

自分は明るい小説を書いていた。


あの時の自分の世界はどれほど明るかったか。

その頃の気持ちを忘れないために、その時の気持ちを忘れたくなくて、自分は今でもそれを持ち歩いている。

絶対に、決して忘れないために・・・


『マダ家族の死ぬ前のときですから、自分の世界はとても明るいんです』

『そういうことか・・・』


そうして自分は男に小説を見せた。

その間自分は懐かしい料理を作り始めた。



『うわ。すげえ・・・お前すげえ文才あるじゃねえか!』

『ありがとうございます・・・』

『俺今まで小説なんて読もうと思ったことすらねえけどよ・・・お前のは何つうか、お前の世界?に引き込まれるんだよ』

『そうですか・・・』


素直に喜ぶことなのか・・・

今の自分が書いたものじゃないことから、喜んでいいのかがわからない。



『出来ましたよ』


そのうちに料理を作り終えた。


『どうぞ』

『オムライスか。すげえ、むちゃうまそうじゃねえか』

『お母さんのオムライスはとても美味しかったんですよ。自分がいくら真似をしようとしても真似できなかったものなんです』

『へえ・・・』


男は話しにはあまり関心がなさそうに、オムライスをじっと睨んでいる。


『じゃあ・・・』


そういって男はスプーンを口に運んだ。


『うめえじゃねえか!お前の分も作ったんだろ?食えよ』

『自分はいいです・・・貴方だけ食べてください』


『そんなこと言うな。ゆっくり食えよ』

『はい・・・』


一口オムライスを口に含んだ。

とろけるような味・・・

懐かしい。

だけど昔のように美味しい。という感情が出てこない。


『もういいのか?』

『はい』


自分はオムライスを端におくと本を開け始めた。


『そういえばよ。名前なんていうんだ?』

『忘れました。名前というのは人に呼ばれて初めて意味をなすものなんです。

もう2年も人から名前を呼ばれたことはありません。なので忘れてしまいました』

『忘れたって・・・いくら誰にも呼ばれてねえからって、名前なんて忘れるもんじゃねえだろ?』


男は心底不思議な顔をしている。

この人はその意味を何もわかっていない。


『貴方の名前は?』

『俺は・・・司郎、西東司郎だ』

『そうですか・・・』


どうして名前なんて聞いたのだろうか?

名前ももう2年も呼んでいないのに・・・

というよりも、人と話したのは2年ぶり。

2年ぶりなのに、何だか久しぶりな気がしない。

元々人と話すのは苦手なのに、何でかこの人にはすらすらと話しが出来る。

この人はとても不思議な人だ・・・


『後、ずっと言おうと思っていたんですけど、ここは貴方の家ですよね?こんな所にいていいんですか?』

『どういうことだ?』

『貴方は何もわかっていないようですね。あれだけのことをやったんです。指名手配になってないわけがないです。今なら警察だって動いてるはずです。

家には一番最初に来るはずです』

『あっ、そうか・・・俺馬鹿だ!どうすりゃいいんだ・・・』


男は何の知恵もなく犯行を行ったらしい・・・

普通これくらいなら一般常識だろうに、普通自分の家に人を監禁したりしないだろう。

あそこまで目立つことをやった後なら絶対にだ。


『自分の家に来ますか?あの家はマダ残っています。現場も何事もなかったように綺麗なので心配をすることもありません』

『そう。だな・・・』

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