海外人質救出部隊(イラクの神々)
イラクでテロリストによる人質事件が多発している事を受けて、首相をはじめ防衛庁長官ら政府トップクラスによって、極秘に人質救出部隊が作られた。
部隊の名前は『TEAM HKB』。
陸海空自衛隊プラス海外部隊より選び抜かれた兵士による最強部隊で、基地は海上自衛隊横須賀地方隊周辺に点在する。
彼等の装備は全て外国製で作られ、万が一拘束された場合にも国籍がわからないようにしている。
―ある日―
イラク・バグダッドにて、武装集団が日本人を人質にとり、声明によると、60時間以内の自衛隊撤退を要求し、従わない場合は、人質を殺害するなどとしている。
深夜、防衛庁長官よりTEAM HKB佐々木指揮官へ人質救出のミッションが与えられ、隊員達が緊張した面持ちで集合した。
額に汗をにじませた佐々木指揮官がミーティングルーム前に立つ。
「ミッションだ。今からイラクに飛んでもらう。人質の日本人を極秘で救出してほしい。」
チームいち足の速い高山が、ツバを飲み込んで
「敵は何人程?」
と聞く。
「はっきりはしないが、建物には5人ぐらいしかいないという情報がある。」
スピード射撃ナンバーワンの男、栗山が
「何回建ての建物?」
と聞くと、資料を見た佐々木指揮官が一息おいて。
「1階建てで、食料品店だそうだ。」
各々が質問を終えると準備が始まり、1時間程するとスーツ姿の隊員8名と指揮官が、駐車場に集まり、海上自衛隊の輸送ヘリで空港へと向かった。
―翌日―
イラクへと入国するとすぐ、案内人に会い服屋へと案内してもらう。
現場近くまで安全に行動するには、現地人と同じ服装をするのが一番だからだ。
服の着替えが終わると、ボロボロのワゴン車に乗り込み、現場へと向かう。
途中、米軍と武装勢力の銃撃戦に行く手を阻まれたが、なんとか現場向かえのホテルに到着した。
周辺に人影はなく、不気味な感じに包まれている。
電子機器担当、ハワイアンのマークが、イギリス人のアンソニーを連れて、建物の壁に盗聴器をいくつかしかけると、建物内部は空調による雑音が無く、比較的クリアに声が聞き取れた。
そこで語学力の優れたアメリカン、クリスが通訳をする。
「あー、今夜はカレーが食べたいよ。たまにはテーブルいっぱいの食事を食べてー。」
「俺はハンバーガーが食いてーよ」
とマークが言う。
すかさずアンソニーが天井に目をやり、想像しながら
「ハワイのハンバーガーはうまそうだな!そして綺麗な海に綺麗な女…」
「コラコラおまえら!」
栗山が注意する。
北朝鮮出身の超硬派、キムが指揮官に向かって。
「敵はカレーを食べたいなんて話しをしてるんですから、意外に冷静ですね。」
「そうだな。よし作戦をいう。集まってくれ」
佐々木指揮官が集合をかける。
「まず建物のレイアウトだが単純だ!入り口は正面だけで、部屋は二つ。手前八割ぐらいが売り場で、奥二割が事務所になっていて、事務所側に窓が二つ。カーテンもかかってなく中が見えるようだ。」
台湾人のリンが
「イラクには覗き魔がいないのか?」
と言うと、皆が鼻で笑った。
指揮官が続けて
「レッドチーム3人高山とマークとキムは、ゴールドチーム3人栗山・アンソニー・クリスと正面から突入。
ブルーチーム2人森下とリンは裏手の窓からだ。」
隊員達に気合いが入る。全員が銃にサイレンサー(消音装置)を取り付け、配置に付く。
レッドチームが正面入り口左側から右内部をカバー、ゴールドチームが右側から左内部をカバーする準備ができたところで、高山がブルーチームに無線報告する。
「ブルーチームGO」
というと中から見えないように、窓枠の横に立っていた森下とリンが、SIG.P226を目線に持ってきて、ヘソから上半身を傾け頭だけ出して中を覗くと、人質と見張りの敵一人が向こうを向いて立っているのが見えた。
しかし窓の20センチ向こうに″光る線″が…
「地雷だ。」
二人はすぐにわかった。
ひるむことなく森下のサイレンサー(消音装置)付きの銃が静かな音をたてると、事務所の敵は頭から中身を飛び出して倒れる。
「クリアー」
と他のチームに伝えると、人質がこちらに近付いてきたので、リンがジェスチャーを交えて
「来るな爆弾がある」
と言う。
顔を真っ青にする人質をよそに、ブルーチームは気付いた敵が入ってくるかもしれない入り口に、照準を持ってくる。
その頃正面入り口で突入が始まっていた。
栗山がドアをガバッと開けると、レッドチーム高山が右内側へと斜めに入り、すぐ後ろを、マークが左に注意をおきながら、高山を援護しながらついてくる。
すれちがうくらい近い背後を交わるように、ゴールドチーム3人が左内側へと進入すると、キムも流れていく。
棚の脇で本を片手に慌てている敵の額に射撃No.1栗山の弾丸が当たる。
倒れる敵に照準を合わせたままの栗山の後ろを、アンソニーとクリスがすり抜け、さらに先へ進むと、敵が完全に死亡したのを確認した栗山も続く。
その頃右サイドは、レッドチームが銃(AK47S)を持っている敵に遭遇し、高山が得意とするサイドステップを踏みながらの連射撃ちで3発命中させると、ポジションはマーク、キム、高山と入れ替わった。
ここまでで突入してから約6秒…戦場の戦いはとにかく早い。
レッドチーム、ゴールドチームが両サイドからフロアー奥に着くと、冷蔵庫近くの棚で待ち構えてる二人組に遭遇する。
二人組は足音が近付いてきたのがわかると、銃を乱射し始めた。
これには隊員も身を隠し、今回からTEAM HKBに導入された『コンタクトフラッシュバン』(フラッシュバンは、爆発音と共にまぶしい光を放ち、一時的に敵の動きを奪う手投げ弾。
通常、ピンを抜き、投げてから数秒で爆発するが、コンタクトフラッシュバンは、壁や床等に当たり、衝撃が加わると即座に爆発する為、非常に奥深くでの室内戦に的している。若干音量を下げてある。)を投げこむ。
壁へ衝突し爆発、隊員が一斉に走り出す。
すさまじい光と音にさすがの敵も身をまるめていたが、銃だけはこちらを向いていた為、マークとアンソニーが3発ずつ撃ち込む。
余裕があるのに3発も撃つのは、弾の当たり所が悪いと痙攣を起こし、トリガーを握って乱射してしまう現象に対応するためだ。
クリスがふと左奥に目をやると、棚の陰から人影が見えた。
肘を少し伸ばして銃を前に構えるクリスが、いつもより手前に銃を持つ。
棚の曲がり角…クリス率いる、栗山、アンソニーのゴールドチームは一斉に大声で叫ぶ。
「ダウン!ダウン!」
棚を覗くと女性が子供を抱いて泣いていた。
日本人の人質だけではなかったのだ。
辺りを見回したレッドチームが、敵がいないことを確認し
「クリア」
と言うと、ゴールドチームも
「クリア」
という。
味方に負傷者を出すことなく、人質を全員救出できた。
外へ出ると車が待っていて、死体を積み走り去ってしまった。
日本政府が武器を持って海外で戦ったと知っては事だ、おそらく死体は証拠隠滅をはかられるのだろう。
するとヒゲをはやしたイラク人がやってきて
「日本政府に頼まれました。あとはまかせて」と言ってきた。
何がまかせてかよくわからないが、日本政府発行の『極秘参考人カード』を持っていたので、大丈夫だろうと人質を預け、ホテルへと向かう。
片付けを済ませ、皆がリラックスムードにはいると、外でマスコミが騒ぎ出した為、足早に帰国することになった。
テレビでは人質解放のニュースが報道されていた。「イラク人質事件の日本人が解放されました。事件解決には、イラク聖職者協会幹部の働き掛けがあった模様です。」
「ファッキンジャップ」
クリスが言う。
「所詮日本はそういう国なんだよ。自分の顔に付いたシミは、化粧で誤魔化し人に見せない。」
とキムが続く。
これには佐々木指揮官も
「君達はすばらしい。今回のミッションよくがんばった。」
となだめる。
「アイラブ佐々木〜」
と投げキッスをするマークに、隊員がドッと笑った。
沢山の命が奪われている戦場で、たった一人の為に、命をかけて戦うチームがここにある。
たった一人の為に…
最後まで読んでいただきありがとうございました。ぜひ評価と苦情をおよせ下さい。