"赎罪"
石造りのテラスの外には雲海が視える
風は無く
陽射しがきらきらと、眼前の広大な建造物を白く光らせて居た
現れた有翼の少年に拠ると、此処こそが人だった者が死後に訪れる、天の御国なのだと云う
要約すると多分、天国と云う事なのだろう
僕は学校にも通って無かったし、最期も自死だったから、こうした場所に縁が有るとは想像もして居なかった
他に人間が居ない事が少しだけ気になったが、尋ねると「僕の時間に、他人が水を差さ無いように」と云う配慮かららしかった
確かに
天国に来て迄、他人と会いたいとも思わない
合理的な構造の様に思えた
不意に「それじゃあ始めるね」と声を掛けられ
さして間を置かず、全身の余す所無く総ての部分に酷い痛みが襲い掛かった
指に出来たささくれを引っ張られて、一瞬の内に全身の皮を躰の内側まで含め、残さず剥き切られた様な感覚だった
立って居られなくなり、男性に寄り掛かろうとすると
彼は膝で僕の腹を押して、ぞんざいな仕草で、よろめいた僕を立ち上がらせた
自分の声が聞こえて
足元に唾液がぼたぼたと落ちるのが、他人事の様に解る
だいぶ長い時間を空けて
僕は自分が『痛みで錯乱し、意味の通らない譫言を漏らして居た』事を理解した
「もう何人も扱ってるから」
「凡その、言いたい事は解るよ」
「───『何が起きたのか』だよね?」
眩暈の中で膝が折れて
僕は彼の前に跪きながら、素早く数回頭を縦に振って肯定した
此れ迄の流れから、彼ならば救ってくれるのでは?と云う希望を感じたからだ
僕の顎が彼の黒い、静謐なる靴の爪先に起こされていく
少しだけ予感に動揺しながら、僕は彼の言葉を待った
「───此れは」
「必要な事なんだ」
「君は間もなく生まれ変わるから、いま魂が所持して居るものを剥がす必要が有る」
「痛いかも知れないが、他の死者よりは良い待遇な事を理解しろ」
「天の御国に至れ無かった者は、必要回数を一瞬の内に行われるんだ」
「お前たち人間は、だから泣きながら産まれる」
「自分が、何故泣くのかも解らないままにな」
彼は、理解出来ない言葉を話して居る訳では無い
其れは明白だったが、話が脳裏へと入って来無かった
無意識に
僕は彼の足首を掴むと、赦しを求める様に、靴に顔を擦り付けて居た
直ぐに引き剥がされ、取り押さえる為か踏み付けられる
またあの激痛が駆け巡り、僕は瞼を閉じて口を開けると転げ回った
「手間を掛けさせるな」
「君らの数的単位で云うなら、まだ優に数億回は残ってるんだ」
手首を汚いものの様に摘まれて、立たされる
痛みの気配に震えて、呼吸の喉に詰まらせながら視線をきょろきょろと巡らせて居ると、直ぐに次の痛みが走った




