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勇者じゃない私たちの異世界ファストフード店、開店です  作者: mii


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9/10

「信じられないっ☆こんな女神いるんだぁ?」


 ここは天界。

 雲よりもさらに高い場所、光の宮殿の一室。


 床は透き通るような白い大理石で、天井からは光の粒をまとったシャンデリアが、きらきらと降りそそいでいる。その中央に、巨大な水鏡があった。円形の水盤の中に湛えられた水は、風もないのに時折小さく揺れ、そのたびに下界の映像が浮かび上がる。


 ルーナとセレスティアは、その前に並んで座っていた。


「あなた、この子達ばかり見てるけど、大丈夫なのー?」


 ルーナは頬杖をつきながら、横目でセレスティアを見る。


「心配ないわよ! なんたって勇者だもの!」


 セレスティアは胸を張る。


「その器がないと反応しないって、ルーナも知っているでしょう??」


「ふーん? ずいぶん、放任主義なのね♪」


 ルーナは口元だけ笑った。

 それでも水鏡から目は離さない。どうやら彼女も、ラビッツのことが気になっているらしい。


「もー! うるさいわね。ほら! 見てみなさいよ! きっともう旅立って――」


 セレスティアは、水鏡に向かって指を鳴らした。

 すると映像は切り替わり、旅をしている途中の勇者達の姿を……のはずだった。


 だが。


「……??」


 二人は同時に首をかしげた。


「旅立っているように見えないんだけど?」


 ルーナが、じとっとした目で言う。


 水鏡の中。

 豪奢な客室。大きなベッド、光るシャンデリア、高価そうな絨毯。


 そこには、男女四人の姿があった。


 一人の男の子は、まるで王子様のように豪華な服を纏い、両脇に女性をはべらせてソファに座っている。

 別の女の子は、豪華な宝石とふわふわのドレスに身を包み、鏡の前でくるくるとポーズを取りながら自分をうっとり眺めている。


「女性をはべらせている男の子に、豪華な宝石とドレスに身を包んでいる女の子とー」


 ルーナが数えるように指を折っていく。


「食べ物とお酒に溺れている男の子と……メイドを虐めている女の子……」


 セレスティアが、呻くように続けた。


 食卓には、山盛りの料理と高そうなワイン。

 一人の男の子は、椅子の背にもたれかかり、口いっぱいに肉を詰め込みながら「まだ出るの?」と文句を言っている。

 もう一人の女の子は、メイドに無茶な命令をしては、ちょっとでも遅いと舌打ちしている。


「あなた。ちゃんと勇者、召喚したんでしょうね?」


 ルーナの声が、いつもより一段低くなった。


「当たり前でしょ!? だって光が反応して――」


 セレスティアは慌てて言い返す。

 そう、あの日。彼女は確かに「勇者の器に反応する聖なる光」が走るのを見たのだ。

 少女たちが駅のホームに立っていたとき、眩しい光が――


「映像、巻き戻してみる?」


 ルーナがさらりと言った。


「そ、そうね……!」


 セレスティアはごくりと唾を飲み込み、水鏡に手をかざす。


「召喚の日」に時間が巻き戻されていく。

 電車のホーム。放課後の空気。制服姿の女子高生四人組――ミオたちが、他愛もない話で盛り上がりながら電車を待っていた。


 その隣には、男女四人のグループ。


「ほら! 光ってるでしょ!?」


 セレスティアが必死に水鏡を指さす。


 ――たしかに、光っている。


 だが。


「これ……後ろが光って見えない?」


 ルーナが冷静に指摘した。


「ほら、後ろの男の子達」


 よく見ると、男女四人グループの影になっている後ろの少年たち――

 その頭上が、一番強く光っているのが分かる。


 前の男女四人グループは、その光の「手前」にいただけだった。


「私……」


 セレスティアの顔から、みるみる血の気が引いていく。


 水鏡の中で、光が爆ぜる。

 そこにいたのは、本来選ばれるはずだった男の子四人組――ではなく、その前にいた男女四人と、そのさらに隣にいた女子高生四人組だ。


「誤召喚して……」


 セレスティアの唇が震える。


「誤召喚したって事……?」


 ルーナが、わざとらしく首をかしげる。


「二重ミスって新しいわねぇ」


 そして堪えきれずに吹き出した。


「あははっ! 信じられないっ☆ こんなことする女神がいるだなんて、あはは、あーお腹痛い」


「どどどーーしよおおおおおお!」


 セレスティアの悲鳴が、天界の広間にこだました。


 ◆


 それから一週間。


 ラビッツの四人は、そりゃーもう。鬼のように忙しかった。


 午前中は材料集め。

 ツノウサギ討伐、野菜やハーブの買い付け、小麦粉の補充。


 十一時から仕込みと準備。

 バンズの仕込み、肉の成形、ソース作り。


 正午から販売開始。


 ラビットバーガーの焼ける匂いが通りに広がる頃には、すでに常連の冒険者たちが自然と列を作るようになっていた。


「今日も来ちゃった」「昨日のが忘れられなくてさ」「一回食べると、他の飯が物足りなくなるんだよな」


 そんな声が、当たり前のように聞こえてくる。


 エミリーがギルドの職員達を引き連れてやってきては、まとめ買いをしていくのも日常になっていた。

 ラビットバーガーを受け取るときの彼女の目は、完全に「仕事」ではなく「趣味」のそれだ。


 そんな日々の合間――

 エミリーや常連さんたちから、ある噂を耳にするようになった。


 勇者に関する噂だ。


「なんでも、来週、旅立ちのパレードがあるのだとか」


 ギルドの小さな酒場で晩ご飯を食べながら、シオリがぽつりと言った。


「パレード?」


 ミオが、スープの皿から顔を上げる。


「勇者様たちが王都を回って、それから魔王討伐の旅に出るんだってさ。うちのギルドにも、ちょっとしたお触れが来てたよ」


 エミリーが、テーブルの端に肘をつきながら教えてくれた。


「この通りも、通るんですか?」


 シオリの目が、きらりと光る。


「ええ。王城から出発して、メイン通りをずーっと進んで、最後は城門の方へ向かうルート。あんた達の屋台の前も、バッチリ通るわ」


「それは、商売時、ですね」


 シオリが即答した。


「ですよねぇ」


 エミリーが笑う。


「申請料も貯まったしさ!」


 ミオが両手を挙げる。


「それまでに新商品! 増やしたいね!!」


「賛成!」


 ホノカが嬉しそうに頷く。


「私も、もうそろそろ増やしても大丈夫かなって思ってたの」


 ラビットバーガー一本でここまで来た。

 だが、常連たちの中には「違う味も食べてみたい」と言う者も出始めている。良いタイミングだ。


「目標のひとつだしな!」


 セナがスプーンを置き、椅子の背にもたれた。


「何を増やすか、考えてるのか?」


「ふふふ」


 ミオが、謎の“自信ありげな顔”をした。


「ずばり。ポテート&チキンバーガーが! 食べたい!!!」


「食べたい、が先なんだな」


 セナが呆れ笑いをする。


「飲み物も欲しいです。それでセットにできるので」


 シオリはすでに計算モードだ。


「鳥のお肉かぁ」


 ホノカは、少しだけ不安げに指を組む。


「それとフライヤーが必要だよね? 揚げるための道具……油ももっと使うし」


「ツノウサギみたいに、繁殖能力が高くて、討伐依頼が絶えないような、一石二鳥!」


 セナは顎に手を当てて言う。


「ないかなぁ。そういう鳥」


「エミリーさんに! 聞いてみよう!」


 ミオが椅子から立ち上がりそうな勢いで前のめりになる。


「この世界の、“唐揚げ候補”を探すところからだね!!」


「唐揚げって何? って顔されたらどうするのよ」


 シオリが苦笑しながら突っ込む。


「そしたら、説明すればいいんだよー! “外はカリッと中はじゅわっとおいしいやつ”って!」


 ミオの言葉に、四人の脳裏に一斉に――熱々のポテトと、ジューシーなチキンのイメージが浮かんだ。


「……食べたい」


「……食べたいですね」


「……食べたい……」


 三人が揃って呟く。


「よし、決まり!」


 ミオがにっと笑う。


「勇者パレードまでに、新商品完成させよ!」


「ラビットバーガーと一緒に売れば――」


「もっと忙しくなるね」


 ホノカが、不安半分、楽しみ半分の顔で笑う。


「忙しいのはもう慣れたしな」


 セナが腕をぐっと伸ばした。


「やるしかねぇだろ!」


 来週。

 ラビッツの屋台の前を、誤召喚された勇者たちのパレードが通る。


 それを見つめる天界の女神たちが、頭を抱えるのか笑うのか――

 それは、もう少し先のお話。


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