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勇者じゃない私たちの異世界ファストフード店、開店です  作者: mii


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3/7

「ま、待って!それ、普通じゃないよぉ!」


翌朝。


 柔らかな朝の光が、木枠の窓から差し込んでいた。白い壁はところどころひびが入っているけれど、部屋自体は清潔だ。狭いがベッドが四つ並んでいて、寝泊まりするだけなら十分に快適な空間だった。


 セナとシオリが、すでにベッドの端に腰かけて小声で話している。そのささやき声が、静かな部屋にさざ波みたいに広がった。


「とりあえず、やはり屋台から始めるのはどうでしょうか。費用や準備を考えると、いちばん現実的だと思います」


 シオリが指先で空中に見えないメモでも書くように動かしながら言う。


「その屋台で何を売るかだよなぁ。……おっ、ホノカ、おはよう」


 セナが気配に気づき、毛布にもぞもぞとくるまっていたホノカのほうを見る。


「おはよう……。二人とも、早いね」


 ホノカは目をこすりながら身を起こした。寝癖がぴょこんと飛び出していて、寝起き感全開だ。


「私は毎朝、早起きして勉強していましたから」


「私は朝練とかで」


 二人は当然のように答える。


 部屋の隅では、もう一人――ミオだけが、ぐーすかと音が聞こえそうな勢いで寝ていた。


 仰向けになっていたはずなのに、いつの間にか布団を蹴飛ばし、体がベッドの端にずり落ちかけている。片足だけが空中に飛び出して、今にも落ちそうだ。


「ベッドが、四つあって良かったね」


 ホノカがぽつりと呟く。もし2つとかだったら、誰かが巻き込まれていただろう。


 ――と思ったその瞬間。


 ドシンッ!


「いたぁい……」


 見事な音を立てて、ミオが床に落ちた。木の床がびくんと震える。


「あーぁ」


 セナが肩をすくめる。

 ホノカは慌ててベッドから降りていき、床に転がっているミオの元へ駆け寄った。


「ミオちゃん、大丈夫!?」


「うん……。床、硬い……」


 ミオは涙目になりながら、後頭部をさすった。そんな彼女を見て、シオリはふっと笑う。


「起きるきっかけには、ちょうど良かったんじゃないですか?」


「全然良くないよぉ……」


 ぶつぶつ言いながらも、ミオは起き上がってベッドの上に戻った。


 ◆


 しばらくして、四人は宿屋一階の小さな酒場――昼間は食堂として使われている場所で、朝ごはんを食べていた。


 テーブルの上には、昨夜と同じような質素なパンとスープ。見た目は悪くないが、ひと口食べると、やはりどこか物足りない。


「屋台で売る、最初の商品だっけ」


 ホノカがパンをかじりながら、昨日の話題を思い出すように言う。


「そーそー。作りやすいのが良いよなぁ」


 セナはスープをひと口飲んでから、うーんと首をひねった。


「それなら! やっぱりハンバーガーが食べたい!!」


 ミオが勢いよく手を挙げる。パンの欠片が皿から飛びそうになる。


「いきなりハードル高くない?」


 セナが眉をひそめる。


「材料なら問題なく揃うと思います。ただ、我々には調理器具や屋台そのものがない。費用的に、厳しいかと」


 シオリが、現実的な問題を淡々と並べる。


 ミオはふふんと胸を張った。


「だいじょーぶだよぉ。作れるもん」


「え? な、なにを?」


 ホノカが目を瞬かせる。


「屋台に調理器具でしょお? それに、パンも焼けるしー、ハンバーグも。食材は無理だけど!」


 さらっと言われた内容に、全員の手が止まった。


「……それ、普通にすごくない?」


 セナがやっとのことで言葉を絞り出す。


「やりましょう」


 シオリが即答した。目がきらりと光っている。


「でもさ、商売ってするのに許可とか要るんじゃないのか?」


 セナが現実に引き戻すように問いかける。


「き、昨日の受付のお姉さんに、聞いてみよ。優しかったし」


 ホノカがおずおずと提案する。


「そうですね。ギルドと街の規則は、先に把握しておいた方が良いです」


 四人は顔を見合わせ、こくりと揃ってうなずいた。


 ◆


 冒険者ギルドに行くと、昨日対応してくれた栗色の髪の受付の女性が、ちょうどカウンターにいた。


「へー、屋台で食べ物をねぇ。悪くはない発想なんだけど……」


 話を聞き終えた受付の女性は、頬に指を当てて少し考え込む。


「何か問題が?」


 シオリが尋ねる。


「うーん、問題っていうかね? “立って食べる”って、この街じゃちょっと……。お行儀が悪いっていうか、マナー違反っていうか」


「そ、その、捕まったりするような事では、ないんですよね??」


 ホノカがびくびくしながら尋ねると、受付の女性は慌てて首を横に振った。


「それは! 大丈夫! ただ、そうゆう事を嫌う人達も多いと思うわ。眉をひそめるかもねーってだけ。あ、そうだわ」


 彼女はカウンターの下から巻物のようなものを取り出し、広げて見せた。


「この地図を見て。ここに“商業ギルド”があるから、屋台の許可はそこで取りに行って。……あ、自己紹介がまだだったわね。私、エミリーっていうの」


「エミリーさん!! これからもよろしくお願いします!!」


 ミオが勢いよく頭を下げる。エミリーはくすりと笑った。


「こちらこそ。頑張ってね!」


 ◆


 商業ギルドへ向かう道。


 街の中心部へ近づくにつれ、建物はどんどん立派になっていく。装飾の入った窓枠、金属で縁取られた扉、看板もどこか上品な雰囲気だ。


「ミオ、屋台を作るには何が必要ですか?」


 歩きながら、シオリが確認する。


「木」


「……他には?」


「木」


 即答だった。


「えっ!? 木だけで作れるの??」


 ホノカが目を丸くする。


「そーだよ! 昨日の林とかに行けば作れるよー! 多分、鉄とかもあった方が耐久性とかは上がりそうだけど、車輪だって木で作れるよー」


「すごっ……」


 セナが素直に感嘆の声を漏らした。


「では、商業ギルドの後は屋台作りにしましょう」


 シオリはあっさりと予定を決める。


「そんなに、急がなくても良いんじゃない??」


 ホノカが遠慮がちに口を挟むと、シオリはぴしっと指を立てた。


「甘い!!」


「ひっ」


「時間は待ってくれません。時間がかかると、資金がどんどん減っていきます」


「……ぐうの音も出ねぇ」


 セナが苦笑する。


「あっ、じゃあ私、その周辺で出来る依頼受けとこうか。屋台作りの間」


「セナ、ありがとう。助かります。」


 シオリが微笑む。


「私見たよ。セナがもう既に、討伐依頼を受けているところを!!!」


 ミオがびしっと指差すと、セナはぷいっとそっぽを向いた。


「なるほど……。ご自分のスキルを試そうとしたんですね。私の感動を返してもらおうか」


「ちょ、シオリ怖い怖い」


 そんなやりとりをしているうちに、商業ギルドの立派な建物が見えてきた。


 ◆


 数十分後。


「ギルドカードって、すごいね。あっさり許可証が取れちゃった」


 ホノカがほっとしたように胸に手を当てる。


「場所代としてきっちり五万円かかってしまいましたが、まぁ良いでしょう」


 シオリが、受け取った書類を大事そうに収納にしまうホノカを見ながら言う。


「火を使いたいって言ったら、防火シートまで貰っちゃったねー!」


 ミオが肩にかけた布をぱたぱたと振る。厚手の、どこか魔力の気配がする布だ。


「毒物とか危険なものは売っちゃいけないのと、場所によって料金が変わるシステムだっけ?」


 セナが、説明を思い出すように呟く。


「はい。人通りが多い大通りだと高くて、外れだと安い。今回は、ギルド通りの端“そこそこ人が通る場所”ですね。必要経費です。」


 シオリは淡々とまとめた。


 やがて、昨日も訪れた林の入り口が見えてくる。


「ここら辺で良さそう!」


 ミオが立ち止まり、周囲を見渡した。


「では二手に別れましょう。ミオとホノカは屋台作り。私とセナは討伐依頼です」


 シオリが提案すると、四人は自然と円陣を組むように集まった。


「やるぞーーーー!!」


「「「おーーーー!!」」」


 声が林にこだました。


 ◆


「ホノカ! このくらいの枝とか、あとは小石、ツタがあればツタも持ってきてくれる??」


「任せて!」


 ミオの指示を受けて、ホノカはきびきびと動く。枝を折り、小石を拾い、地面に絡まるツタを束ねていくたび、それらはホノカの手の中からふっと消えた。収納スキルで、見えない倉庫に吸い込まれていく。


「よーし! まずは、工作に必要な道具から作るよー! 斧にー、ナイフでしょー?」


 ミオは小石をひとつ手に取り、目を閉じた。


「……最初に、作りたいものをイメージするんだー♪」


目をカッと開き、手が高速で動いている。ほぼ残像。


次の瞬間、そこには立派な斧が握られていた。


「うわぁ、すごい」


 ホノカが目を丸くする。


「木を切りたいなぁ。セナに言っておけば良かった」


 ミオが周囲を見渡しながらぽつりと呟く。太くまっすぐ伸びた木が、屋台の柱としてちょうど良さそうに見えている。


「近くに居るはずだから、探してくるね!」


「ありがとう!!じゃあ、その間に作れる物作っておくね!」


 ホノカはぱたぱたと走り出した。


 ◆


 一方その頃、林の少し離れた場所。


「討伐依頼はツノウサギ」


 セナが手に持った依頼書をちらりと確認する。


「結構いますね。姿を隠しているようです。それと……ふふふふ」


 シオリが周囲を見回しながら、不穏な笑みを浮かべた。


「な、なに」


「これは、セナに感謝しないと」


 くるりと振り向き、シオリは指を一本立てる。


「ツノウサギのお肉は、食用。ハンバーガーの材料にできるということです」


 どや顔だ。


「おお! 費用が浮く!!」


 セナの目が輝いた。


「セナ、あの茂みに一体。あっちの木の影に三体います」


「よっしゃあ! いっちょやってやりますか!」


 セナが腰を落とし、駆け出す。


 視線の先には、草むらからぴょこんと生えた白い耳――その根元には、小さな角が一本生えている。


「まずは一匹」


 セナは地面を蹴り、ツノウサギの懐に一気に飛び込む。


「っは!」


 拳が閃き、ツノウサギの顎にクリーンヒットする。軽い衝撃と共に、ウサギは目を回してその場に倒れた。


 続けざまに、木の影に隠れていた三匹目まで、セナは次々と仕留めていく。

 体が軽い。跳躍力も、反応速度も、前とは比べ物にならない。


「……これが、スキルか」


 息を整えながら、セナは倒れたツノウサギたちを見下ろした。どの体からも、まだほのかに温かさが残っている。


「依頼自体は達成ですね」


 背後から、シオリの落ち着いた声が聞こえる。


「でも、もう少し集めてもいいかもしれません。食材として」


「了解。……っと」


 そこへ、林の奥から駆ける足音が近づいてきた。


「セナちゃーん! シオリちゃーん!」


 ホノカだ。息を切らしながら、二人のもとへ飛び込んでくる。


「ホノカ、どうしたんですか?」


「あのね。セナちゃんに木を切って欲しいって……う、うさぎさんが」


 最後のほうは小さくなって、視線は倒れたツノウサギたちに釘付けだ。


「あぁ。いいよ。ちょうど良かった。ツノウサギ収納してくれる?」


「い、いやぁあぁ!!」


 ホノカの悲鳴が林にこだました。


 ◆


 少し後。


 ミオが作った斧で、セナが木を切っていた。力強い振り下ろしと共に、斧が幹に食い込み、木のきしむ音が響く。


「よし、切れたよ。すごいな。ノコギリみたいなのまであるんだ」


 隣には、ミオが作ったばかりの工具が何個か立てかけられている。


「ありがとう! ノコギリ風だけどね!」


 ミオが満足そうに頷き、倒れた木を見上げた。


「あと、ここと、ここ、ノコギリでお願い!」


 幹の一部を指差しながら、ミオが指示を出す。


「一体、どうやって……」


 シオリが、つい口に出してしまう。


「ん? 普通に、作っただけだよお?」


 ミオは首をかしげる。


 ――普通、とは……。


 シオリとホノカは、心の中で同時に突っ込んだ。


 しばらく木を切ったり削ったり、細い枝をまとめたりする作業が続く。ホノカは、出た木屑や余った枝をせっせと収納していく。


「出来たー!!」


 やがて、ミオが両手を上げた。


「少し歪なところもあるけど、これ以上はもっとちゃんとした道具がないと無理かなー!」


 目の前には、木製の屋台が形を成していた。車輪が二つ、その上に箱型の台。側面には折りたたみ式の板が取り付けられていて、広げればカウンターになる仕組みだ。


「充分です」


 シオリが感心したように屋台の脚を軽く叩く。


「ほら、ここを折りたたむと、この石窯をね、ここに乗っけて移動できるんだよ! 重いけど、セナなら出来るでしょ?」


 ミオが示したのは、小さな石窯だった。石を積み上げて作った簡易の窯だが、中には鉄板を置けるスペースもあり、パンも焼けそうだ。


「使う時は、地面に下ろして使うんですね」


「そうそう! で、作業しやすいように、ここを広げるとテーブルになるんだー!後、石と木でフライパンとか、色々作ったよー!」


 ミオが側面の板をぱたんと下げると、たしかに広めの作業台が出現した。


「すごい! 本当に、作れそう。ハンバーガー」


 ホノカが目を輝かせる。さっきまであいまいだった“お店”のイメージが、ようやく形になり始めた気がした。


「では、ギルドに寄ったあと、昼食にしましょう。そして、夜までには試作品を作りたいです」


 シオリがきっぱりと予定を告げる。


「そんなトントン拍子にいくか?」


 セナが苦笑する。


「私たちなら、できーる!! 頑張るぞーー!!」


 ミオが勢いよく拳を突き上げた。


「「「おーー!」」」


 四人の声が、晴れた空にまっすぐに伸びていく。


 異世界の城下町に、新しい香りが立ちのぼるまで――あと、もう少し。


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