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勇者じゃない私たちの異世界ファストフード店、開店です  作者: mii


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2/2

「寝床!飯!……その前に金!!」


4人は肩を寄せ合い、石畳を歩いていく。


細かった道は、次第に広くなり街中へと続くメインの通りに近付いていた。


 見上げれば、木枠と白い壁のかわいらしい家々が並び、赤や茶色の屋根が階段みたいに連なっていた。行き交う人の服も、ゲームで見たことのあるようなチュニックやローブばかりだ。


「うわー、めっちゃファンタジー! 建物が可愛い!」


 ミオがきらきらした目であちこちを見回しながら、石畳の上をぴょんぴょん跳ねる。


「人通りが多くなってきました……。ミオちゃん、はぐれないように注意して!」


 ホノカが、心配そうにミオの袖をつまんだ。行き交う人々の数はどんどん増え、荷車や荷物を抱えた商人たちが通りを埋め始めている。


「ミオは、すーぐ迷子になるからなぁ」


 セナが半ばあきれたように笑うと、ミオが振り返って頬をふくらませた。


「ちょっと失礼な! そんなことないもん! みんなが迷子になるんだもん!」


「その理論は通用しませんね」


 シオリがぴたりと立ち止まり、前方の建物をじっと見つめる。


「ストップ。ここは……ギルドのようです。冒険者を募集しているみたいですね。後で来ましょう」


 大きな木の扉の上には、交差した剣と杖のマーク。そしてその下に掲げられた看板には、びっしりと紙が貼られている。そこに顔を寄せるようにして、人々が何やら相談していた。


「今、入らないの?」


 セナが首をかしげると、背後でホノカがびくっと肩を揺らした。


「ぼ、ぼ、冒険者って、乱暴な人たちのイメージが……。強盗とか山賊とか、そっち系の……」


「ホノカが想像しているのは完全に犯罪者ですね。そういうのは冒険者じゃなくて“指名手配”のほうです」


 シオリがため息交じりに突っ込む。


「うわー、いろんなお仕事があるよー!」


 その隙に、ミオは看板の真横まで走って行き、貼られた紙を食い入るように見ていた。


「……あぁ、目を離した隙に」


そしてミオは入口に吸い込まれて行った。


 セナが頭をかき、シオリは肩を落とす。


「はぁ……仕方ない。もう少し街を見て回りたかったんですけど……入りましょう」


 中は外よりもにぎやかで、木のテーブルが並ぶ広いホールには、武装した人々やローブ姿の人が談笑している。カウンターには数人の受付の人がいて、ひっきりなしに誰かと話をしていた。


 その中の一つ、受付の前に――既にミオの姿があった。


「それじゃあ、新人さんなのね? ギルドで依頼を受けるには、“ギルドカード”っていうものがあってね。これに登録しなくちゃいけないのよ」


 栗色の髪をひとつに束ねた受付の女性が、にこやかに説明している。


「ふむふむ。それに登録します!」


 ミオは元気よく頷き、カウンターに身を乗り出した。


「うふふ。あなた一人?」


「いえ! こちらに私の仲間が!!」


 くるっと振り返り、ミオが胸を張って三人を指差した。


「勝手に話を進めるなー!!」


 セナのツッコミがギルドの中に響く。周囲の冒険者たちが、何事かとこちらをちらりと見るが、すぐに自分たちの会話に戻っていった。


 ◆


「よし、これで登録できたわ!」


 少し後、受付の女性が笑顔で四枚のカードを差し出してきた。木の板より少し薄い、金属と紙の中間みたいな質感のカードだ。


「登録するのに、指をプスって刺すなんて……」


 ホノカがまだ指先を押さえながら顔をしかめる。カードの端には、確かに自分たちの名前と簡単な情報、それに血のような赤い印が浮かんでいた。


「これでこのカードは、あなたたちの身分証にもなるのよ。絶対に無くさないでね。再発行にはお金が必要だから」


「はーい!」


 ミオが元気よく返事をしてカードをひらひらさせると、受付の人は今度はカードの一角を指さした。


「ほら、ここに“ランク”が出ているでしょ? あなたたちはFランク。同ランクか、その一個上の依頼しか受けられないから注意してね」


「ランクはどうやって上げるのですか?」


 シオリがすかさず質問する。


「いっぱい依頼をこなすか、何か大きな偉業を成し遂げると、上がる仕組みになっているわ。まぁ、最初はコツコツ、ね」


「なるほど、コツコツ上げていかないといけないのか」


 セナが腕を組んで頷く。


「受けたい依頼があったら、ここから紙を剥がして持ってきてね。それじゃあ、頑張って」


 受付の人がそう言って微笑むと、四人は依頼掲示板の前へと移動した。


 ◆


「とりあえず流れで簡単そうな依頼を受けたわけだけど……」


 ギルドを出て少し歩いたところで、セナがぼりぼりと頭をかく。手には一枚の紙――“薬草採取”と書かれた、初心者向けの依頼だった。


「資金が少しでもないと、心もとないですからねぇ」


 シオリがため息をつく。宿代、食費、その他もろもろ。考えることは山ほどある。


「おなかすいたよーぅ」


 ミオの訴えが、空気を震わせるように重い。


「ほら! ミオちゃん、薬草たくさん集めたら、ごはん食べられるよ!」


 ホノカが両手を合わせて励ます。


 四人が向かったのは、街から少し外れた、小さな林のような場所だった。木々の間からは柔らかな光が差し込み、地面には色とりどりの葉が茂っている。


「シオリ、どれがその薬草か、わかるか?」


「ええ。……すごいですね、この“鑑定眼”と“感知レーダー”。これ、めちゃくちゃ強力なスキルのような気がします」


 シオリは目を細め、周囲をじっと見回す。すると、視界の端々に小さな文字のようなものが浮かび上がった。


 〈薬草〉〈毒草〉〈食用可〉――そんな情報が、頭の中に自然と滑り込んでくる。


「この周辺に生えているのが、依頼の薬草ですね。あっちのほうに、少しレアな薬草もあります」


「ほらーミオも働いて!」


 セナがミオの背中を押す。


「むりだよー。がんばるけどー、ごはんのためにー」


 ぶつぶつ言いながらも、ミオはしゃがみ込み、そして手には大きな袋を持っていた。


「見てー、薬草を入れるものが必要でしょ?今、作ったよー。」


3人が驚く。


「今!?」



「もうこんなに集まっちゃいましたね! それに珍しいのもたくさん!」


 ホノカの足元には、すでに薬草でいっぱいの袋が積み上がっていた。


「こっちは食材に使えそうなものです。ハーブ系。ホノカ、分けて収納できる?」


「任せて! まだまだ入りそうだよ! なんか不思議な感覚。まるで巨大な倉庫が、体の中にできたみたいなの」


 ホノカが両手を軽く振ると、地面に積まれていた袋がふっと消えた。代わりに、胸のあたりにひんやりした重さが生まれる。


「私は、どれだけ動いても疲れてないし、それに力が強くなってる気がする」


 セナは近くの岩を軽く蹴ってみる。ぼす、と鈍い音がして、拳大のかけらがぼろりと落ちた。


「……やっぱり、私たち全員、だいぶチート寄りでは?」


 シオリが小声でつぶやき、四人は同時に顔を見合わせる。


「帰りましょう。まずは、宿を見つけないと」


 そう締めくくり、四人は街へと戻ることにした。


「どれくらい稼げたかなぁ?」


ミオがお腹を擦りながら、質問する。


「依頼の料金だけでも宿代にはなると思うよ、それにご飯も食べられそうだね。」


 ホノカが、ホッとしたように微笑んだ。


 ◆


「……これを? まだ二時間くらいしか経ってないと思うんだけど……これを集めたの?」


 ギルドに戻り、受付に薬草を差し出すと、受付の女性が目を丸くした。


 依頼のあった薬草がぎっしり詰まった袋が三つ。それに加えて、シオリが見つけたレア薬草の袋が一つ。


「これ、滅多に手に入らない激レアよ!? 一体どうやって……」


「全部でいくらになりますか?」


 シオリが淡々と尋ねる。


「えっと、計算しなくちゃ……ちょっと待っててね」


 受付の人は慌てて奥から帳簿らしきものを取り出した。


 その間に、シオリがぽつりと言う。


「街を歩いてて気づいたんですが、翻訳スキルのおかげか、全部“日本円”に見えるんですよね」


「よくそんなこと気づいたな。私は全然気づかなかった」


 セナが感心したようにシオリを見る。


「依頼の紙にも、報酬額が日本円の表記だったよ」


 ホノカがうなずくと、ミオがぱあっと顔を明るくした。


「すごくいいじゃん! 分かりやすい!」


 しばらくして、受付の人が戻ってきた。


「お待たせしましたー! 通常の薬草、依頼分が一袋一万円で、三袋あるので三万円で買い取らせていただきます。それと、こちらのレアな薬草の数々なんですが……合わせて十五万円でどうでしょうか?」


「すごい! 二時間で十八万円! 薬草集めだけで生活できるレベル!!」


 ミオが目を輝かせる。


「甘い」


 すかさず、シオリが現実を突きつける。


「あの周辺の薬草は、ほぼ取り切りました。今のままでは、継続的な収入にはなりにくいですね」


「やっぱり、何か考えないとねぇ」


 セナが腕を組む。


「とりあえず宿を探しませんか?」


 ホノカの一言に、四人の胃が同時にきゅるる、と鳴いた。


「このギルドと併設してあるわよ」


 受付の人がひょいとカウンターの向こうを指さす。


「あなたたち、これから活躍してくれそうだから、私がお願いして、格安で頼んであげる。四人で一泊二万はどう?」


「乗った!」


 シオリが即答し、他の三人も慌てて頷いた。


 ◆


 宿の部屋で少し休憩した後、四人は再び街へと繰り出した。目的はただひとつ――ご飯である。


「んー、お店はちらほらあるけど。なんのお店か分かりにくいね」


 ミオがきょろきょろと周囲を見回す。看板には絵や文字が描かれているが、何をメインにしている店なのかがいまいち分からない。


「どんなものが売ってるか分からないから、入るのが怖いですね……」


 ホノカがおどおどと店先を覗き込む。


「それに、食べ歩きの概念は、どうやらないみたいです」


 シオリが通りを観察しながら言う。


「これだけ屋台があるのに、売っているのは雑貨か食材のみ。調理済みのものは見当たりません」


「とりあえず、あそこ入ってみようよ。私もお腹すいた」


 セナが、比較的入りやすそうな定食屋を指差した。木の看板にスプーンと皿のマークが描かれている。


 中に入ると、素朴なテーブルと椅子、壁には簡単なメニューらしき板が掛けられている。四人は適当にセットメニューを頼み、しばらくして大皿に盛られた料理が運ばれてきた。


「いっただっきまーす!」


 ミオが一口大きくかじりつく。


「あむ……もぐもぐもぐ……」


四人が顔を見合わせる。


「……」


「これ、一番人気って言ってましたよね?」


 ホノカが恐る恐る問いかける。


「間違いないです。おすすめメニューの一番上に書いてありましたから」


 シオリが淡々と答える。


「なんか、味気ないというか……素材が死んでいるというか……」


 セナが眉をひそめる。見た目はそこそこ美味しそうなのに、塩気も香りも弱く、ただ煮ただけ、焼いただけ、それなのに素材の味すらも薄い。


 スプーンを止めたまま、ミオがぽつりと言った。


「……私、決めた」


 三人の視線が一斉にミオへ向く。


「みんなでやるって言ったお店。ファーストフード店にする」


「ファーストフード!?」


 セナが思わず声を上げた。


「受け入れてもらえるんでしょうか、そんな……」


 ホノカが不安そうに指先をもじもじさせる。


「だってさ、この街、食べ歩きがないってことは――ハンバーガーやピザ、ホットドッグにフランクフルトがないってことだよ!?」


 ミオが指を一本ずつ折りながら、なじみのあるメニューを並べていく。


「クレープにソフトクリーム……」


 ホノカが小さく呟き、想像したのか喉を鳴らす。


「たこ焼き、揚げたての唐揚げやコロッケ……」


 セナも、遠い目をした。部活帰りに寄った店の味が、頭の中に鮮やかに蘇る。


 ごくり――四人同時に喉が鳴った。


「まだ一店舗しか入ってませんが、この世界の食文化レベルは、私たちの世界より低いと思われます」


 シオリが冷静に分析する。


「そうとも。いける」


 ミオがにやりと笑った。


 ◆


 その頃――天界。


「へー。とっても面白そうなことしてるのね」


 ふわふわした雲の上から、人間界を映す水鏡を覗き込みながら、銀髪の女神・ルーナが楽しそうに目を細める。


「気になるわぁ、“ハンバーガー”に“ピザ”♡ 私も食べてみたいなぁ」


「あなた、いつまでいるつもり? 自分の世界はいいの?」


 セレスティアが、ぐったりとした顔で隣から覗き込んでいるルーナを睨む。


「今、暇なのよねぇ。とっても平和なんだもん。あなたの世界と違って☆」


 ルーナがキラキラした笑顔で言うと、セレスティアは頭を抱えた。


「それより、どうしようかなぁ。食べさせてくれないと、喋っちゃいそう♪」


「な、何を!?」


「ほら、“結構強力なスキルを巻き込まれ召喚組に配っちゃった件”とか?」


「もおおおおお! わかったって! あの子たちにお願いするから! お願いだから内緒にしてええええええぇ!!」


 セレスティアの悲鳴が、静かな天界にこだました。




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