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勇者じゃない私たちの異世界ファストフード店、開店です  作者: mii


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10/10

「新メニューは揚げ物だぁあ!!」


 その日の夕方。

 屋台の片付けを終えた四人は、その足で冒険者ギルドへ向かった。


 いつもは依頼の報告に来るカウンター前も、この時間帯は少し落ち着いていて、酒場のほうからは早めの夕食を楽しむ冒険者たちの笑い声が聞こえてくる。


「エミリーさーん」


 ミオがひょこっとカウンターから顔を出す。


「はーい、ラビッツのみんな。今日も行列だったわねー」


 カウンターの向こうで帳簿に目を走らせていたエミリーが、ぱっと顔を上げた。


「はい。皆さんのお陰です。それで、今日はお聞きしたいことがあるんですが…」


 シオリが説明をする。


「んー、たくさん獲れて、食用できる、鳥型のモンスターねぇ」


 エミリーは四人の話を聞いたあと、腕を組んで「うーん」と唸った。

 カウンター越しに身を乗り出す四人。


「ご存じないでしょうか」


 シオリが丁寧に問いかける。


 新商品候補――チキンバーガー用の肉。

 ツノウサギのように、討伐依頼が多くて常に手に入りやすいモンスターがいれば理想的だが、さてそんな都合のいい存在がいるものか。


「いることはいるんだけど……。問題があってね」


 エミリーは言い淀んだ。


「問題って?」


 セナが眉をひそめる。


「ここから東に進むと、海沿いに港町があるんだけど、その周辺に“マルカモメ”っていうモンスターがいるわ」


「マルカモメ?」


 ミオが首をかしげる。


「丸くて、大きくて、やたら騒がしいカモメ。見た目はちょっと可愛いけど、群れで魚を食い荒らすから、漁師さん達には嫌われてるの。討伐依頼もよく出てるわ」


「おお、一石二鳥の匂いがする」


 セナが身を乗り出す。


「でもね、今、その道に大型のモンスターが出現していて、港町に行けないのよ」


 その一言で、ホノカの肩がびくっと震えた。


「大型の……モンスター……」


 想像するだけで足がすくんでしまいそうだ。


「騎士団でも歯が立たなくてねぇ。物流も止まってるし、困ってたの」


 エミリーは溜め息をつく。


「うえぇ。めっちゃ強そう」


 セナが顔をしかめる。


「勇者様が旅立つ時、その道を通ってくれるみたいだから、それまでの辛抱ね」


 その言葉に、四人は顔を見合わせた。

 来週の勇者パレード。そのあと、勇者たちは旅立つ――と。


「あっ、あと、マルカモメは食用なんだけど、ちょっと味に癖があってね。私はあんまり好きじゃないわ」


「癖……」


 シオリの脳内で、「マルカモメの唐揚げ」と「冒険者の好み」が一瞬で並べられる。

 酒好きの冒険者には、逆に“クセのある肉”は需要があるかもしれない。


「分かりました。ありがとうございます」


 シオリが丁寧に頭を下げる。


 そこで、我慢できなくなったようにミオが手を挙げた。


「ねーねー! エミリーさん! 新しい調理器具を作りたいんだけど! 鉄を加工できる場所ってある??」


「えっ、調理器具?」


 エミリーは目を瞬かせる。


「油でジャーッて揚げるやつ! いっぱいポテトとチキンを揚げたいの!!」


 ミオは両手で四角形を作って、謎のジェスチャーを披露する。


「……あー、なんとなく分かったわ」


 エミリーは苦笑しつつ、カウンターの下から別の紙を取り出した。


「それなら、ここに行けば良いわ」


 紙には、鍛冶屋の場所を示した簡単な地図が描かれている。

 ギルド通りから少し外れた、小さな路地の先。火のマークが描き込まれていた。


「ありがとう!!」


 ミオが紙をぱっと受け取り、目を輝かせる。


「では、明日の営業は休みにして、商業ギルドで申請した後、そこに行ってみましょう」


 シオリがすぐに予定を組み立てる。


「フライドポテトと飲み物を優先して、先にセットを目指します」


「それが良いな」


 セナが頷く。


「わーい! お休みだぁー!」


 ミオが両手を上げて跳ねる。


「ミオちゃんは、鉄の加工は、できないんだっけ」


 ホノカが、ふと思い出したように尋ねる。


「そーそー。それなりの道具とか装備がないと、さすがに無理なんだよねぇ」


 ミオは頬を膨らませた。


「木とか石は、ある程度なんとかなるんだけど。鉄は、熱くしないと柔らかくならないし、加工とか出来ないんだよねー!」


「……ミオでも無理なもの、あるんだな」


 セナが半分冗談で呟くと、ミオが「あるよ!」と軽く抗議した。


「じゃあ、明日は“屋台定休日”ですね」


 シオリが締めくくるように言うと、四人はそれぞれのベッドに倒れ込むため、宿へと帰っていった。


 ◆


 次の日の朝。


「なんか変な感じだね。屋台の準備しない朝」


 ホノカが、少しそわそわした声で言う。


「セットが完成したら、もっと忙しくなりますよ。その準備のためのお休みです」


 シオリは落ち着いた調子で答えるが、足取りは軽い。

 新しいことを始めるのは、彼女も嫌いではないのだ。


 まずは商業ギルドへ。


 昨日説明を受けた通り、「ラビットバーガー」という商品と、「ラビッツ」という店名とウサギのマーク――この二つについて、特許と商標の申請をするための書類を提出する。


 書くべき項目は多く、ペン先で紙を走らせるシオリの手は途中で何度か止まりかけたが、そのたびに金髪眼鏡のお兄さんが、優しく補足してくれた。


「ここは、もう少し具体的に“どういう特徴があるか”を書いてください」

「ウサギのマークは、こちらの紙に簡単な絵を描いていただければ十分ですよ」


 ミオが張り切ってウサギマークを描こうとして、途中で暴走しかけたところは、ホノカがそっとペンを受け取って「いつもの焼き印通りに」描き直した。


「よし。これで申請は完了ですね」


 お兄さんが書類を揃え、印章を押す。


「審査に少し時間がかかりますが、その間も営業は続けて構いません。もし何か問題があれば、こちらから連絡しますので」


「ありがとうございます」


 四人は深く頭を下げた。


 ギルドを出るころには、もう少し陽が高くなっていて、通りには商人や職人たちが忙しそうに行き交っていた。


「じゃあ、次は鍛冶屋さんだね!」


 ミオが、昨日もらった地図を広げる。

 紙を逆さまに持っていたので、セナが無言でくるっとひっくり返した。


「こっちだ」


 ギルド通りから一本外れた路地に入ると、空気が少し熱くなった。

 カン、カン、と金属を打つ音が、一定のリズムで響いている。


 路地の突き当たりに、小さな工房があった。

 煙突からは白い煙が立ちのぼり、開け放たれた扉の向こうには、赤く光る炉と、鉄の匂いが充満している。


「すごい……」


 ホノカが思わず呟く。


「すみませーん!」


 ミオが声をかけると、中からガタイの良いおじさんが現れた。

 筋骨隆々、腕には火傷の跡。額には汗、腰には分厚い革のエプロン。まさに“鍛冶屋さん”そのものといった風貌だ。


「なんだ。嬢ちゃんたちか。武器の手入れなら、今はちょっと立て込んで――」


 シオリが取り出した簡単な図と説明を見て、おじさんが眉を吊り上げる。


「食べ物を油で揚げるだぁ??」


「そうです。こういう形で、高温に耐えられるような」


 シオリは、フライヤーのイメージ図を指差す。

 四角い箱型の容器に取っ手がつき、上に網を引っ掛けられるようになっている。


「油をたっぷり入れて、ここを火にかけて、ポテトや鳥の肉を揚げたいんです」


「作れる?? 絶対に必要なんだよ!!」


 ミオがぐいっと前に出る。


「お願い! おっちゃんにしか頼めねぇんだ」


 セナも、少し頭を下げるようにして言った。


 おじさんは四人をじろりと見た。

顔は固いが、どこか嬉しそうにも見える。


「まぁ、作れるっちゃ、作れるけどもよ」


 ようやく、おじさんが口を開く。


「こういう変わったもん作るの、嫌いじゃねぇしな。」


「ありがとう!!」


 ミオが即座にお礼を言う。


「あの、ここなんですが。油が跳ねた時に、使っている人が怪我をしないように、縁を少し高くしてほしいです。持ち手の部分も、熱が伝わりにくい素材だと助かります」


「ほう」


 細かいところまで考えているらしい。


「材料費と手間賃がかかる。安かねぇぞ。それでもいいなら――」


 おじさんは、ちらりと四人の顔を見る。


 シオリは小さく息を吸い、冷静に答えた。


「ある程度の覚悟はできています。おいくらくらいを見込んでおけばいいでしょうか」


 金額を告げられた瞬間、ミオとホノカが「ひっ」と小さく声を上げた。

 だが、ラビッツはここ数日、鬼のように働いている。申請料を払った後でも、ギリギリ届くラインだった。


「ありがとうございます! いつ頃出来上がりそうですか?」


 シオリが頭を下げる。


「まぁ、三日後にまた来な!」


 おじさんは豪快に笑い、炉のほうを顎で示した。


「お前らの“油で揚げる食い物”とやらがどんだけ美味いのか、楽しみにしといてやる」


「食べに来てくれるの!?」


 ミオがぱっと顔を輝かせる。


「仕事が一段落したらな。」


 おじさんの言葉に、四人は顔を見合わせて笑った。


 三日後。

 ラビッツに、新しい武器――いや、新しい“調理器具”が届く。


 それまでの間に、ポテトの種類や切り方、飲み物のレシピを決めなければならない。


 忙しい日々は、まだまだ続く――。


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