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勇者じゃない私たちの異世界ファストフード店、開店です  作者: mii


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1/7

「ちょっと待って!? 異世界って……これからどうすんの!?」


「今日のテスト、詩織どうだった?」


「まあまあ。平均点は超えてると思う」

神崎詩織(かんざきしおり)のその言葉に、相澤瀬奈(あいざわせな)が肩をすくめた。


「はいはい、優等生」


「え、えっと……電車、遅れてませんよね?」

高瀬穂乃花(たかせほのか)が不安そうにホームの電光掲示板を見上げる。


「大丈夫だって! ほら、まだ時間あるし!」

日向美桜(ひなたみお)はそう言って笑った――その瞬間、世界が白く染まった。


音が消え、足元の感覚がなくなる。


「え、なにこれ!?」「ミオ!」


誰かの声が聞こえた気がした。


次に目を開けたとき、そこは“何もない場所”だった。



「ここ……どこですか?」


最初に声を出したのは、ホノカだった。震え気味の声が、やけにクリアに響く。


上下の感覚が曖昧な、真っ白とも真っ暗ともつかない空間。その真ん中に、四人はぽつんと浮かんでいた。


「みんな、怪我は?」


シオリが冷静に周囲を見回す。自分の腕や足をさっと確認してから、ほかの三人に視線を走らせた。


「ミオだけ逆さまになってる」


セナが、半分あきれたように言った。


「うわーん、なにこれー!」


ミオは、まるで天井からぶら下がっているみたいにくるくると回りながら、必死にスカートを押さえている。


よく見ると、その“天井”も“床”も存在しない。ただ、そこにいるからそこが足場、みたいな理屈の通らない感覚だった。


そのとき――


「は、はいっ! 落ち着いて落ち着いて!!」


甲高い声が、空間のどこからか飛んできた。


ふわっと光が集まり、四人の前に一人の女性が現れる。

長い金色の髪に、ゆるく光る薄いドレス。いかにも“女神様”という感じなのに、その表情は今にも泣きそうだ。


「えっと、その……あのね、突然ごめんなさい。こ、怖いところじゃないのよ! リラックスして聞いてね!」


にっこり笑おうとしているのは分かる。分かるのだが、頬はひきつり、額には冷や汗。


ホノカは、ありえない状況にがたがたと震えている。


シオリはそれを守るように1歩前に出た。


「り、リラックスできるわけないじゃない。あなた誰? なにもの?」


女神は、ぴくっと肩を揺らして、なんとか笑顔を作る。


「わ、私はあなたたちとは違う世界の女神、セレスティア。あ、あなたたちを召喚したのは私よ」


ホノカが、おそるおそる口を開く。


「あの、それって、何のため、ですか?」


「お話とかでよく出てくる、アレ?」


ミオが、逆さまのまま首をかしげる。


「えっ、ちょっと困ります。来月、大切な大会があるのに。すぐ帰れますよね?」


セナは、眉をひそめて現実的なことを訊ねた。部活のジャージ姿が、さっきまで本当に駅にいたことを物語っている。


女神――セレスティアは、一瞬視線を泳がせる。


(言えない、間違えて召喚なんて……しかも帰れないなんて……どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)


分かりやすく動揺している。唇はわなわな震え、手をわたわたさせている。

そんな女神に、シオリがにっこり笑いかけ――そのまま、すっと距離を詰めた。


「洗いざらい、説明して頂きましょうか?」


笑顔なのに圧がすごい。


セレスティアは「ひっ」と情けない声を上げた。


そこから、女神の口から飛び出したのは、にわかには信じがたい話だった。


私たちの隣にいた、男女四人のグループ。

本来召喚される予定だった“勇者候補”は、彼らのほうで、私たちはただの巻き添えだったこと。

そして、その勇者たちはすでにこの世界へ召喚され、魔王を倒す旅に出ようとしていること。


「召喚された勇者たちが魔王を倒して、この世界の歪みを直してくれないと……帰れるかどうかも分からないの。本当に、ごめんなさい……」


女神の言葉に、ホノカの目から涙がこぼれた。


「か、帰れない……」


ぽろぽろと涙をこぼしながら、顔を覆う。


「そんな……」


セナも、拳を握りしめる。

大会どころか、学校にも、家にも戻れないかもしれない。


「それで? 私たちは、どうなるんですか?」


シオリの声だけが妙に冷静で、逆に刺さる。


セレスティアは、何度も何度も頷きながら、慌てて続ける。


「あ、あの、それまで、生活に困らないように! 勇者たちのように強力なものは無理だけど……スキルをひとつ授けるわ!」


「ひとつ?」


シオリの目が細くなる。


「へえ、“間違えて”召喚されて、“無一文”で、“何も知らない世界”に“放り出される”のに、ひとつなんですか?」


「ひいっ」


セレスティアの額から汗が一筋流れ落ちる。


「あっ、あっ、その……じゃあ、皆に、この世界の言葉と文字が理解できるように、翻訳スキルをひとつずつ! それとは別に、それぞれが望むスキルを……ふ、二つまで! その代わり、お願い! このことは黙っていてほしいの!」


最後の一言には、切実な悲鳴のようなものが混じっていた。


「では、私は鑑定スキルと探索スキルを」


一番乗りで手を挙げたのはシオリだった。


「仕事が早いなあ」


ミオが、くるくる回りながら笑う。


「んー、私は、物作りができるようなスキルがいいかなぁ。ひとつでいいから何でも作れるようにして!」


「な、なんでも……はさすがに…ひっ!が、頑張るわね!」


シオリに睨まれてセレスティアは必死に胸の前で手を組む。


「んー、一人は戦闘向きのスキルがあったほうがいいよな」


セナが、自分の拳を握りながら呟く。


「剣とか、魔法ですか?」


「いや、拳でいけます? あとは身体能力アップ的な」


「こ、拳……!? 分かったわ、肉体強化と打撃系の戦闘スキルを組み合わせて……」


「わ、私は、皆の役に立つようなものを二つ」


ホノカが、涙をぬぐいながらも、しっかりと前を見て言った。


「では、ホノカさんには、回復スキルと収納スキルはどうでしょうか」


「それでお願いします」


四人の希望を聞き終えると、セレスティアは一度、胸の前で手を組み直した。


「ごほん。では、準備が整いましたので、城下町の外れに皆さんを“再召喚”します。いつでも見守っていますから……!」


「“再”って言った」


「聞こえた」


シオリとセナの突っ込みを浴びながら、視界が再び光に飲まれる。


光が消えたとき、そこは石畳の道の上だった。


鼻をくすぐるのは、焼いた肉の匂いと、知らない香辛料の香り。遠くには高くそびえる城壁と、その向こうに白い城が見える。


「ここが、異世界……」


セナがぽつりと呟く。


「見てー! でっかいお城! 離れてるのに存在感!」


ミオはきらきらした目で城を指さす。


ふと自分の服に目を落とすと、四人とも制服ではなく、いつの間にか異世界風のワンピースやズボンに変わっていた。


「服が変わってるな。制服じゃなくなってる」


セナが自分の動きやすそうな装備を確認する。


「あのドジな女神が、目立たないように配慮してくれたんでしょうね」


シオリがため息をつく。


「皆、とっても可愛いね! 似合ってるよ!」


ミオは、ぐるぐると皆の周りを回りながら褒めまくる。


ホノカは、そんな三人を見渡して、ぎゅっと両手を胸の前で握った。


「これから……どうする? 私たち、住むところも、お金も……」


「えへへー! 私にとっておきの考えがあるのだよ、諸君!」


ミオが、胸をどん、と叩く。


「ミオが物作りのスキルを欲しいって言った時に、そんなことだろうと思ってました」


シオリがじと目で見ながらも、少しだけ口元をゆるめる。


「それで? その“とっておき”ってなに?」


セナが、期待半分、不安半分で訊ねる。


「みんなでお店を開くのはどう! 私、みんなと一緒に働くのが夢だったの!」


ミオの目がきらきらと輝く。


「あの、でも、そんな簡単にはいかないんじゃ……」


ホノカが、おそるおそる現実を告げる。


「とりあえず、街の中心のほうに行ってみましょう。情報もお金も、まずはそこからよ」


シオリが、きっぱりと言った。


四人は顔を見合わせ、うなずき合う。


城下町の外れから、にぎやかな中心部へ向かって、足を一歩踏み出した。


――その少し前。


誰もいなくなった“何もない空間”で、セレスティアは大きく息を吐いていた。


「ふぅ……なんとか……なりそうね。あとは、勇者たちが魔王を問題なく倒してくれたら……」


その背後から、別の声がひょいっと響く。


「よかったのー? 今の、けっこう聞き捨てならない会話だったけど」


「ひゃあっ!? あなた、いつからそこにいたの!?」


セレスティアが振り向くと、そこには銀髪の、どこか小悪魔めいた微笑みを浮かべた女神が浮かんでいた。


「最初からかな♪」


銀髪の女神――ルーナは、ひらひらと手を振る。


「それにしても、よかったのー? 授けたスキル、けっこう強力よ? バレたら終わりね☆」


「言わないでええええぇええ!」


セレスティアの悲鳴が、誰もいない空間に虚しく響いた。


――こうして、勇者じゃない四人の異世界生活は、まだ何もないところから静かに動き始めたのだった。


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