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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
13番目という異物

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5/18

場違いな存在

異変は、午後の礼法指導の時間に起きた。


 王妃候補として最低限の所作を学ぶための講義。

 本来なら形式的なもののはずだったが、空気は朝よりも明らかに張り詰めていた。


「では、一人ずつ前へ」


 指導役の老女官が告げると、候補者たちは順に立ち上がる。

 完璧に近い動き。幼い頃から叩き込まれてきた差が、はっきりと見て取れた。


 そして、リリアの番。


 彼女は静かに前に出て、深く一礼した。

 決して無礼ではない。だが、洗練とも言い難い。


 老女官は一瞬だけ眉を動かした。


「……基本は押さえていますが、王妃としては――」


「失礼」


 遮るように声を上げたのは、マルグリットだった。


「この方に、王妃としての評価は必要なのですか?」


 室内が凍りつく。


「どういう意味です?」


 老女官が低く問う。


「平民出身。後ろ盾なし。本人もやる気がない。

 この場にいること自体が、制度への侮辱でしょう」


 視線が一斉にリリアへ向く。


 リリアは、何も言わなかった。

 反論も、弁解も、怒りも見せず、ただそこに立っている。


(ああ、来たな)


 どこか他人事のように、そう思っていた。


「……ご本人は?」


 老女官が尋ねる。


 リリアは一拍置いて、静かに答えた。


「おっしゃる通りだと思います」


 その言葉に、ざわめきが広がった。


「私は、この場にふさわしいとは思っていません」


 淡々とした声。

 媚びも、自虐もない。


「だから、早く終わってほしいと思っています」


 それは、場の空気を読まない発言だった。

 そして、火に油を注ぐ言葉でもあった。


「……ふざけないで」


 セレナが、初めて感情を露わにした。


「ここにいる私たちは、人生を懸けているの。

 あなたの“早く終わればいい”なんて言葉、軽すぎるわ」


「軽いつもりはありません」


 リリアは視線を下げない。


「ただ、私は争う理由がないだけです」


「争わない?」


 マルグリットが一歩前に出る。


「争わずに、この場に居座ること自体が、争いなのよ」


 その言葉は、正しかった。


 リリアは、ようやく理解する。

 自分が「何もしない」という選択そのものが、他者を刺激していることを。


「……失礼しました」


 それでも、彼女は引かなかった。


「では、私は評価を受けない方がいいですね」


「何?」


「王妃になるつもりがないので」


 その一言で、完全に均衡が崩れた。


 老女官は重く杖を鳴らす。


「この場は、王命によって成り立っています。

 意志に関わらず、候補である以上、責務を果たしなさい」


「……分かりました」


 リリアは頭を下げ、列に戻った。


 だが、その背中に向けられる視線は、もはや好奇ではない。

 明確な敵意だった。


 講義終了後、誰も彼女に声をかけなかった。

 避けるように、距離を取る。


(まあ、そうなるよね)


 リリアは一人、廊下を歩く。


 王妃にならない。

 目立たない。

 波風を立てない。


 そう思っていたはずなのに。


(……逆効果だな)


 何もしないことで、かえって注目を集めてしまっている。


 遠くから、その様子を見ていたアレクシスは、静かに目を細めていた。


「排除が始まったか」


 彼は知っている。

 制度が、異物を許さないことを。


 そして同時に理解していた。


 あの少女は、まだ何も反撃していない。

 だが、何もしないという選択が、最も危険であることを。


 13番目の婚約者は、

 ゆっくりと、確実に、この場の歯車を狂わせ始めていた。

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