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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
13番目という異物

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4/19

観察者の視線

アレクシスは、王城の執務室で書類に目を通しながら、先ほどの出来事を反芻していた。


 婚約者候補の一人――リリア・エルノア。

 13番目。平民出身。後ろ盾なし。


 普通なら、この制度に最初から呼ばれること自体があり得ない存在だ。


(それでも、彼女はここにいる)


 机の上に広げられた選定記録には、簡潔な文字でそう記されている。


 推薦者:王命

 理由:適格


 あまりにも曖昧で、そして強引な一文。


 アレクシスは、軽く眉を寄せた。


 この婚約者選定は、表向きは「公平」だ。

 だが実際には、貴族間の力関係、派閥、将来の政略が複雑に絡み合っている。


 だからこそ、彼は最初から期待していなかった。

 十三人並べようが、選ばれる顔ぶれはほぼ決まっている。


 ――そのはずだった。


 今朝の食堂。

 彼女は、誰よりも場違いで、誰よりも冷静だった。


(辞退を申し出る婚約者、か)


 これまで何人もの候補を見てきたが、王妃の座を前にして「なりたくない」とはっきり態度で示した者はいない。

 遠慮や建前ではない。本気で、拒否していた。


 それが、どうにも引っかかる。


「殿下」


 控えめなノックの後、側近が入ってきた。


「婚約者候補の午後の予定ですが、庭園散策の後、自由時間となっております」


「……そうか」


 アレクシスは書類を閉じ、立ち上がった。


「庭園に行く」


「殿下?」


「少し、様子を見たい」


 庭園は、王城の中でも比較的「緩い」場所だ。

 格式ばらない分、人の本性が出やすい。


 予想通り、婚約者候補たちは小さな集団に分かれていた。

 笑顔の裏で牽制し合い、視線で探り合う。


 その光景を一歩引いた位置から眺めながら、アレクシスは目当ての人物を探す。


 ――いた。


 リリアは、庭園の端、噴水から少し離れたベンチに一人で座っていた。

 誰とも話さず、花を眺めている。


(避けているな)


 孤立している、というより、意図的に距離を取っている。

 王妃候補としては致命的な立ち回りだ。


 アレクシスは、ゆっくりと歩み寄った。


「一人か」


 声をかけると、リリアは驚いたように顔を上げ、すぐに立ち上がって頭を下げた。


「殿下。失礼しました」


「座っていい」


「……はい」


 再び腰を下ろす彼女の様子は、過剰に怯えてはいないが、決して馴れ馴れしくもない。

 距離感が、妙に正確だ。


「庭園は好きか」


「静かな場所は、好きです」


 即答だった。


「賑やかなのは?」


「苦手です」


 迷いも、取り繕いもない。

 その答えに、アレクシスは思わず小さく息を吐いた。


「なぜ、この場にいる」


 核心に踏み込む問い。

 普通なら、模範解答を用意する。


 だが、リリアは少し困ったように眉を下げた。


「……分かりません」


「分からない?」


「選ばれたから、来ました。でも、理由は聞いていません」


 正直すぎる。

 それでいて、諦めきったような声音。


「王妃になりたいとは思わないのか」


 沈黙。

 リリアは一瞬だけ視線を伏せ、それからはっきりと言った。


「思いません」


 その言葉には、揺らぎがなかった。


「私は、選ばれないように過ごすつもりです」


 アレクシスは、確信した。

 この少女は、嘘をついていない。


(……危ういな)


 制度にとっても、王家にとっても。

 だが同時に――


(最も、王妃制度から自由だ)


 それは、今の王国に最も欠けている視点だった。


 リリアが立ち去った後も、アレクシスはしばらく庭園に立ち尽くしていた。


 13番目の婚約者。

 余分で、不要で、選ばれないはずの存在。


 ――それでも。


「君は、何を壊すつもりだ?」


 小さく呟いたその声は、期待とも警戒ともつかない色を帯びていた。


 王妃にならないと宣言した少女が、

 王国の核心に触れ始めていることを、彼だけが理解し始めていた。

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