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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
13番目という異物

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3/19

辞退したいだけなのに

翌朝、リリアは鐘の音で目を覚ました。

 王城の朝は早い。というより、音が容赦ない。眠気の残る頭を抱えながら身を起こし、天蓋付きのベッドを見上げて小さくため息をついた。


「……やっぱり夢じゃない」


 豪華すぎる部屋。整えられすぎた空気。

 昨夜は緊張であまり眠れなかった。


 身支度を整え、指定された食堂へ向かう。廊下は広く、すれ違う使用人たちは皆一様に丁寧に頭を下げる。そのたびに居心地の悪さが増していく。


 食堂に入った瞬間、空気が変わったのが分かった。


 長いテーブルの両脇には、すでに何人もの婚約者候補が座っている。絹のドレス、宝石、洗練された所作。昨日よりもずっと、彼女たちは「戦闘態勢」に見えた。


(朝から、胃が痛い)


 空いている席に静かに座ると、周囲の視線が一斉に集まる。

 露骨に見てくる者、あからさまに無視する者、興味深そうに観察する者。


 その中で、ひときわ冷たい視線が突き刺さった。


「……あなた、本当に婚約者なの?」


 低く、しかしはっきりとした声。

 声の主はマルグリット・フェインだった。短く結い上げた髪に、鋭い眼差し。武門の家の名に恥じない威圧感がある。


「はい。一応」


 一応、という言葉を選んだ瞬間、数人が眉をひそめた。


「一応、ですって?」


 マルグリットは鼻で笑う。


「この場がどういう場所か、分かっているの? 遊びじゃないのよ」


「分かっています」


 リリアは視線を逸らさず答えた。


「だからこそ、私は――」


 言いかけた言葉を、別の声が遮った。


「その辺にしておきなさい、マルグリット」


 柔らかいが芯のある声。

 セレナ・ローデンだった。背筋を伸ばし、穏やかな微笑を浮かべながらも、その目は決して甘くない。


「初日から騒ぎを起こすのは、王家への無礼よ」


「……ちっ」


 マルグリットは舌打ちし、視線を逸らした。


 場の空気が落ち着いたところで、リリアは内心で深く息を吐いた。


(早く辞退しよう。本当に)


 朝食後、婚約者候補たちは王宮の規則説明を受けることになった。

 広間に集められ、文官が淡々と説明を読み上げる。


 外出制限、面会制限、行動記録。

 それらを聞きながら、リリアの中で確信が固まっていく。


(これは、長く居る場所じゃない)


 説明が終わり、解散の合図が出た瞬間、リリアは真っ直ぐ前に進んだ。


 向かった先は、文官イーサだった。


「あの、イーサさん」


「はい?」


「婚約者を辞退する場合の手続きって、どこで――」


 その言葉は、最後まで言わせてもらえなかった。


「それは、許可されていない」


 低く、静かな声。


 振り向くと、そこにいたのはアレクシス王子だった。

 いつの間に来たのか分からないほど、気配が薄い。


「……許可、されていない?」


 思わず聞き返すと、王子は小さく頷いた。


「正式な選定期間が終わるまでは、辞退は不可だ。例外はない」


 その言葉は、あまりにもあっさりしていた。


「ですが、私は――」


「君が望んでいなくても」


 遮るように、王子は言う。


「制度は、そうなっている」


 その目が、じっとリリアを見つめていた。

 試すようでも、責めるようでもない。ただ、事実を告げる視線。


 リリアは拳を握った。


「……分かりました」


 今ここで反論しても、意味はない。

 そう判断して、頭を下げる。


 だが、心の中でははっきりと決めていた。


(じゃあ、最後まで選ばれなければいい)


 競わなければいい。

 目立たなければいい。

 王妃にふさわしくない存在でい続ければいい。


 それだけの話だ。


 去っていくリリアの背中を、アレクシスはしばらく見つめていた。


「……面白いな」


 誰にも聞こえない声で、そう呟きながら。


 リリアはまだ知らない。

 「選ばれないための行動」が、最も王妃にふさわしくないはずなのに、

 なぜか王子の関心を引きつけてしまっていることを。

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