前提条件
補佐官がいる。
それが、王妃選考の前提条件として受け入れられ始めたのは、思ったより早かった。
候補者たちは、もうリリアを「十三番目」とは呼ばない。
呼ぶとすれば、距離を測るような沈黙か、遠回しな確認だ。
「それ、補佐官に通しましたか?」
その一言が、場の空気を決める。
競争は、なくなっていない。
ただ、形を変えただけだった。
以前なら、噂を流す。
弱点を突く。
孤立させる。
今は違う。
「条件として成立しない」
「その案は、選考基準に触れない」
理屈が先に立つ。
感情は、後回しにされる。
(……やりづらいでしょうね)
リリアは、執務机で書類を整理しながら思った。
感情で殴れない相手ほど、厄介なものはない。
午後、数名の候補者が連れ立って訪ねてきた。
珍しい光景だった。
「時間をいただけますか」
先頭に立つのは、第三候補のアマーリエ。
「どうぞ」
リリアは、即座に答える。
彼女たちは、遠慮がちに席についた。
「確認したいことがあります」
アマーリエは、慎重だった。
「補佐官は、誰の味方なのですか」
率直な問い。
リリアは、少し考えてから言った。
「制度の味方です」
「個人ではない、と」
「はい」
別の候補者が、眉を寄せる。
「では、誰かが不利になる提案も、止めない?」
「条件が正当なら、止めません」
空気が張り詰める。
「感情的に不利になる場合は?」
「それは、各自で処理してください」
一瞬、沈黙。
誰かが小さく笑った。
「冷たいですね」
「補佐官なので」
淡々と返す。
アマーリエは、ゆっくり頷いた。
「分かりました」
彼女は立ち上がる。
「なら、私たちも、やり方を変えます」
それは、宣言だった。
彼女たちが去った後、イーサが言った。
「候補者同士で、連携が生まれ始めています」
「排除より、条件整理ですね」
「ええ」
彼は、少し困ったように微笑んだ。
「王妃選考としては、異例です」
夜、リリアは一人で中庭を歩いた。
風が冷たい。
以前なら、ここは緊張と嫉妬で満ちていた。
今は、静かだ。
(静かすぎるのも、嫌な予感がする)
制度ができると、
それを利用する人間も、必ず出てくる。
補佐官を、盾にする者。
矛にする者。
そのどちらにも、なりたくはない。
部屋に戻ると、机の上に一通の文書が置かれていた。
非公式。
差出人なし。
内容は、短い。
「補佐官の存在は、王権を弱める」
リリアは、静かに紙を折った。
(来た)
制度が認められ始めた証拠だ。
反発は、遅れて現れる。
王妃候補だけではない。
王妃選考そのものを、快く思わない者たち。
補佐官は、
候補者同士の問題では、もう済まなくなっていた。
十三番目の婚約者は、
いつの間にか、
王城の内側に踏み込んでしまっている。
王妃になる気は、ない。
けれど。
ここまで来て、
何も変えずに終わることも、
もう出来なかった。




